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第3話 好きな人の好きな人


 好きになった人には好きな人が居た。

 ただそれだけのよくある話。


 小学三年の時。

 親の都合で引っ越した空野明星。

 知らない土地に知らない人。

 知らないだらけに囲まれる生活。

 元々引っ込み思案だった性格は悪化。

 転校してからクラスで孤立するまでにそう時間はかからなかった。


 そんな世界が変化したのは小学校四年生の時。


 進級した事で新しい顔ぶれが揃う教室の中。

 一人の男の子が明星に話しかけた時。

 彼女の世界は一変した。


「いいじゃんいいじゃん! とりあえず遊ぼうぜ! 遊んでれば友達出来るって、いこいこ!」


 いつもクラスの中心で笑っている男子。

 皆を引っ張る明るいリーダー。

 城崎隼人と出会った時。

 灰色だった空野の世界は色鮮やかに息づいた。


 隼人と遊ぶようになると友達も出来た。

 友達が出来れば学校に行くのが楽しくなった。

 隼人が居る教室に行くのが楽しくなった。

 彼を見ていると幸せな気持ちになれた。


 小学校五年生になって違うクラスになってしまったけど、隼人と一年間過ごした事で多少は引っ込み思案な性格も改善されていて、孤立するような事もなくなった。


 小学校六年生になってまた同じクラスになれた時は、飛び跳ねるくらいに嬉しくなった。


「あ、あのね、城崎君、今日良かったら一緒に帰りませんか?」

「いいよいいよー。家の方向同じだしな!」


 嬉しくなった。だけど──。


「乃愛ー! 空野さんも一緒に帰っていいよな?」

「うん? もちろん、帰ろー!」


 嬉しくなったけれど、それまで下を向いていたせいであまりよく見えていなかった周りが見るようになった事で、否が応でも一つの事実に気付かされてしまう。


 城崎隼人の隣にいる女子。

 彼の隣に常にいる存在。

 黒川乃愛と言う可愛らしい幼馴染。

 彼の隣にいつもその女の子が居ると言う事実を。


 デブで陰気な自分よりもずっと可愛い。

 自分よりもずっと社交的で元気な女の子。


 隼人が最初に話しかけるのは、いつも乃愛。

 乃愛が最初に話しかけるのも、いつも隼人。


 小学六年生になった頃、周りの事に目が行くようになった明星はそんな二人の関係が見えるようになってしまった。


 目を背けたくなるような仲睦まじい二人の様子に、泣きそうになる毎日。


「バ、バカ! ちげえって! 乃愛とはそう言うじゃねえよ! 幼馴染だ幼馴染」


 それでも、なんとか大丈夫だった。


 クラスの男子にからかわれた隼人が乃愛の事を異性として見ていないと言っていたのを聞いたから。


「隼人? うーん、どうだろうねー? 好きは好きだけど、幼馴染は幼馴染だからねー。兄弟みたいな感じかなぁ?」


 クラスの女子に質問を受けた乃愛が、隼人の事を異性として見ていないと言っていたのを聞いたから。


 そう言う事ならまだ大丈夫。


 隼人の隣にいる乃愛を見ると少し胸は痛む。

 でも、それでも二人がそう言う関係ではないと言うのであれば、頑張れば隼人に振り向いてもらえるかもしれない。


 そうして、それまで地味でポッチャリで引っ込み思案な女の子だった空野明星は一念発起。


 誰よりもオシャレを勉強した。

 誰よりも勉強を頑張った。

 誰よりも運動を頑張った。

 隼人にも積極的に話しかけるようになった。


 もちろん、隼人と沢山話す様になったら、いつも彼の隣にいる乃愛とも自然と仲良くなれて、自分の知らない昔の彼の話しを沢山教えて貰えるようにもなった。


 中学二年になる頃には沢山の男子に告白されるようになって、自分が可愛くなれて来たのかもしれないと、自信を持ち始めるようになった。


 隼人にも可愛くなったと褒められるようになって、これはもうそろそろいけるんじゃないだろうか、と。


 そう思った矢先──。


「まだ、誰にも言った事ないんだけどさ……。その、ずっと黙ってたんだけど、実は俺、乃愛のことが好きでさ」


 きっと大丈夫だと自分に言い聞かせていた。

 目を背け続けていた現実。

 気付かない振りをしていた現実。


 残酷な現実に直面する事となってしまったのが、中学二年の夏。


「空野って乃愛とすげえ仲良いしさ、ちょっとだけ……! マジでちょっとだけでいいから! それとなくでいいから、サポートして欲しいって言うか」


 そしてあろう事か、恋の手助けをして欲しいとまで頼まれてしまう。


 いつも自分が見ている大好き人が自分の事を異性として全く意識していないと言う、果てしなく厳しい現実に直面してしまう。


「……まあ、いいけど。私は何をすればいいの?」


 それでも、空野明星は踏ん張った。

 泣きそうになる顔に気合を入れて踏ん張った。

 最初の頃はとても踏ん張った。


「悪い、相談乗って貰っていい?」


 好きな人の恋愛相談を聞かされる。


 と言う、吐き気を催すような絶望を味わいながらも、それでも彼に頼って貰える事が嬉しくて。相談に乗っている間は二人きりになれる事が嬉しくて。


 とても踏ん張った。


 恋愛小説や恋愛漫画ではたまに恋愛の相談に乗っている間に、そのドキドキを恋のドキドキと勘違いして相談相手との恋に落ちる、なんて展開があるから。


「乃愛がさあ──」


 相談を受けながらも。


「乃愛が──」


 一握りの希望を絶やさずに。


「乃愛──」


 大変よく踏ん張った。


「──ダッサ、小学生から片想いとかきつすでしょ。きっつ。さっさと告白すればいいのに、いつまでうじうじしてんの?」


 しかし、限界はあったらしい。


 どれだけ自分を磨いても。

 誰からも可愛いと言われるようになっても。

 たった一人に見て貰えない。


 一番見て欲しい人に見て貰えない。

 そんな毎日に心がすり減ったのかもしれない。


 何処までいっても好きな人の瞳に自分が映る事は無くて、彼の瞳にはいつだって黒川乃愛しか映っていないと言う辛い現実を教えられる日々の中。


 気が付けば空野明星の口から出る言葉は激辛になっていた。

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