第9話 救国の女神は疑う事を知らない。
ドアを開けた時に、外で待っていたメーライトと、殺気立つアルーナ達を見て「神様…」と言いながら殺気を放つアーセワ。
「なぜ神様をここに?心労も戦局を左右しますが?」
「しかしご意見を賜りたいのです」
ため息と共に諦めて、メーライトを部屋に入れるアーセワ。
立場は弁えている。
ここでメーライトを押さえつければ、人間達から何を言われるかわかったものではない。
「さて、救国の女神様。我々も和平に向かい邁進して参ります。ですが今は守る為の戦いをする時、どうするべきかのご意見がいただきたいのです」
「わ…私ですか?」
「はい。今まで使徒様達からお話は聞きました。アーセワ殿からはこの地を離れ、防衛に適した地へ向かう事も提案していただきましたが、反対意見も出てしまっています」
正直、箱入りのメーライトが、ここでまともに意見できるわけもない。
もっと言えば、メーライトに戦局の把握なんて出来るわけもない。
ここで世間知らずや、図々しさを前面に出したアルーナが、「神様はわかってくれるかな?この城って城を真ん中に3枚の内壁で守って、外側を外壁で守ってる。これは外を見ればわかるよな?」と口を挟む。
文句の一つも言いたい貴族も居るが、アーセワはメーライトの手を取って窓辺まで連れていくと壁を見せる。
戻ってきたメーライトに、「で、あの壁は人間同士の戦争用で、魔物の侵攻には意味がない。この城は見晴らしのいい立地だから、周囲に敵が展開して攻め込まれると、聖剣の戦乙女のアタシでも一箇所しか守れないから、生き残っても勝ち目はない」とアルーナは説明を続ける。
「門は?」
「ありゃ、人間用だよ。敵がオークを5匹でも連れてきて、それぞれが好き勝手に殴ったらあっという間に壊される。まあ神様の言いたい事はわかるさ、アタシならってんだろ?オーク5匹くらい何の問題もない。だが、このアタシにもどうする事もできない事がある」
「それは何ですか?」
「距離と時間さ。どれだけ速く走っても門から真後ろの壁までは20分はかかる」
それでも十分に速い。
重い鎧を纏った重騎士達なら2時間近くかかる者もいる。
それなのに、アルーナは20分で走るという。
それを聞いていて、宰相ワルコレステは感嘆のため息をつく。
「20分あれば壁や門の破壊は可能だよ。壁が毎回守る度に直るわけじゃない。ダメージは蓄積していく。毎回1回攻撃を加えられれば30回目くらいで壁も門も壊される。オークどころじゃない、まだ見てない魔物もいる。そいつらが一撃での破壊が可能なら?そして同時に何箇所も潰されたら?穴の空いた壁から入ってくる敵、逃げ場のない中、袋のネズミのアタシ達はどうやって生き残る?」
メーライトは箱入りだが、想像力は豊かだ。
立ち行かない状況をすぐに理解した。
アノーレはそのタイミングを見逃さずに、「神様はその事がわかったけど、わからない人たちは居て、この場所が国とか、国がなんて言ってここから動かないのさ」と、メーライトに説明をするフリをして、この場の貴族達に語る。
宰相ワルコレステはキチンと状況を理解して、問題はあるが今この城よりかは安全な、東の砦を目指す方向へと舵を切る。
「メーライト嬢?今の使徒様達ご説明を聞いて、どのようにするのが良いかと思いますか?」
この問いにしてもメーライトに責任を負わせる目的がある。
[救国の女神様が言うのだから従え]
そのつもりでメーライトに意見を求めていた。
「宰相様…」
「どうぞワルコレステとお呼びください」
「ワルコレステ様、移動する方で皆さんを説得してください。ここではアルーナさんが強くても、無理があるなら皆が助かる所を目指すべきです。まだ、怪我をして動けない人も居るから、その人達の準備をしている間に説得をお願いします」
今すぐに移動くらい言い出すかと思ったが、説得と言われて呆れてしまう宰相ワルコレステ。
宰相ワルコレステの顔を見て、アーセワが前に出ると、「神様、人を力で従わせずに、キチンと説得をして納得をしてからの提案は、やはり神様ですね。人はすぐに力で従わせようとしますから、神様の素晴らしさに私、感動いたしました」と言ってから、「私からもご提案をしてもよろしいでしょうか?」と言った。
「はい!お願いします!」
「ありがとうございます。貴い方達に説得をお願いしながら、まずは健康で移動に耐えられ、そして、移動の意思がある方々には先に移動を始めてもらいましょう。そうすれば殿をつとめる我々が守る人々の数も減りますし、いち早く撤退も可能になります」
この言葉にどよめきが起きる。
ゴネ倒していた貴族達の中では、既に計算が始まっていた。
東の砦はそんなに大きくない。
早く辿り着いて、仮設住宅の建築を命じてもすぐに家は建たない。
雑魚寝ならまだしも、野晒しもあり得る。
上等な部屋を確保する為には、我先に砦を目指す必要があるが、安全な旅路とは限らない。
それこそメーライトと使徒達と旅を共にしたいが、民達を守る為と言って最後まで残る事を口にし始めた。
それを見透かすように、アノーレは「あらら、ゴネてる場合じゃなくなっちゃったわ」と言って笑い、アルーナは「当然、神様には相応の部屋を用意しておけよな」と言う。
だが、この場で「やっぱり賛成」と言えば格好もつかないわけで、賛成した貴族が、健康な民達を連れて移動する事になり、ゴネ倒した貴族は後からの移動になる。
「メーライト嬢、一つお願いをしてもよろしいですか?」
「何でしょうか?」
「砦が安全かわからない以上、陛下と殿下を二人一緒で、先に向かわせる事には抵抗が御座います。陛下と殿下のどちらかを、メーライト嬢の殿に加えていただきたいのです」
言っている事はまともで、メーライトが「王様達は最後でも許してくれますか?」と聞くと、「陛下も殿下も、そのような狭量な方ではございません」と答える。
「ただ、どうしても人というのは、上に立つ者がいないと統制が取れなくなります。なので砦を一番に目指す中には、このワルコレステは参加せざるを得ません。皆の説得はコチラのヤタクタズ殿が行ってくれます」
アーセワ達や逃げ遅れた貴族達はやられたと思うが、メーライトはワルコレステの言葉を信じ切って「大変なお仕事をなさってくださるのですか?」と聞く。
「それこそが国を預かる者の仕事です」
「わかりました。私も頑張ります!」
メーライトのやる気に、アーセワ達は顔を見合わせて頷く。
今まで以上にメーライトを守る事を誓った。




