第6話 救国の女神はアノーレを喚ぶ。
アーセワとアルーナを喚んだ時のことを思い返していたら、いつの間にか眠りについていたメーライトは、起きると2枚目の壁にいた。
また豪華な部屋で申し訳なくなったが、メーライトを守って怪我を負った老神官からは、「あの部屋はレーカンパーが使う兵舎です。逆にあのような部屋で申し訳ないことです」とあやまられてしまう。
そこに現れたアーセワは食事を持ってきていて、メーライトはこんなに美味しい物があったのかと喜び、アーセワは「神様ってばお上手ですね」と照れていた。
起きられるようになると、老騎士レーカンパーが「本がありました」と言って2冊もってくる。
「2冊だけですか?」
「後は太陽の戦乙女とメイド物語でしたので除外いたしました」
それでも本があった事に喜ぶメーライトだったが、アーセワは本を見て「まあ、ちょうど良いと思います」と意味深な事を言った。
一冊はラブロマンスだった。
メーライトは決して手を抜かずに、負けヒロインに自身を重ねて、恋に敗れて戦いに生きる女性を思い書いたが、喚ぶ事ができなかった。
何かのトラブルを想像したが、アーセワは「仕方ありません。この本は喚ぶことのできない本なのです」と説明をする。
「喚べない?」
「はい。ここでは理由は言いません」
アーセワは冷たい眼差しで老騎士達を見る。
視線を感じた老騎士達は、何故かをアーセワに聞くが「人間には言いません。明確な理由はあります」と返すだけで、その理由を説明しない。
「それではメーライト嬢に、無駄な読書を願い出る事になります。アーセワ殿、理由をお教えください」
険悪な空気に「わ…私は沢山の本を読みたいから平気ですよ!」と口を挟むメーライト。
アーセワは優しく頷いて、「そうです。喚べずとも、読む事は神様の御力になります」と語りかけると、老騎士を見て「私とアルーナがいれば、大抵の人間には遅れはとりません」と言うが、老騎士だけは退かずに「また緊急事態もありえます。その際に無駄打ちは防ぎたいのです。そして我々も理由を知れれば、メーライト嬢をお守りできます」と言う。
意味のわからないメーライトが「守る…ですか?」と聞く。
アーセワは意味がわかっていて、忌々しげに舌打ちをしてしまう。
「はい。この戦局をひっくり返し、勝利を盤石にする為にはメーライト嬢の御力と協力は必須です。その為には軟禁や幽閉に近い形で、本をひたすらに読ませて、喚ぶ事を強要する高官も現れます」
メーライトはそんな考えが存在する事に顔を暗くしてしまう。
あまりにも世間を知らないメーライトは、困惑の顔でアーセワを見ると、アーセワは諦めた顔で「ひとつだけ、その本の作者は存命です。神様の御力でも、作者が存命の本からは喚ぶ事は叶いません。後は相性と言うべきでしょう。相性があります。それは言いません。必ず喚ぶ事が出来るなんて思わない事です」と告げた。
アーセワの頼もしさにメーライトが「アーセワさん…ありがとう」と言うと、「私やアルーナがお守りします。心穏やかにいてください」とアーセワは言葉を返し、身の回りの世話を始めた。
メーライトは落ち着くと2冊目の本を手に取った。
内容はメーライトには相応しくなかったが、アーセワがフォローをする事でなんとか読む事ができた。
【光と闇の聖女】
孤児院のシスター、ワマームは戦後増えてしまった孤児を養う事に限界を迎えてしまう。
とにかく金がいる。
金がなければ子供達を養えない。
「世の中は金だ」が口癖になり、好色家で有名な資産家に持ちかけられて身体を売る。
シスターだからこそ禁忌なのだが、手に入った金で子供達は生きながらえる。
祈りより金だと思った、だが回数が増えて好色家を喜び迎えるようになると、好色家はワマームに飽きてしまい、ワマームは捨てられる。
また貧困に戻るわけにはいかないと思い立ち、昼はシスター、夜は娼婦になったワマームは、最後は病気で亡くなるが、彼女を知る者は彼女こそ聖女だと賞賛した。
「…よ…読みました」
「致し方ありませんが、まだ10歳の神様には刺激が強かったです。それで、喚ぶ者は?」
メーライトはまた心の中の姉を呼ぶ。
姉は嬉しそうに現れると、意地悪く顔を歪めて「そんなのもわかんないの?アンタなんてワマームになれるわけないじゃない!娼婦のアノーレよ!だらしなく日銭欲しさに身体を売る娼婦。誰かの為にやりたくない仕事をする人間の気持ちなんて知るわけないでしょ!」と言った。
「娼婦のアノーレさん」
「では、その者の人生を生み出してください」
アノーレはワマームを羨む。
何もなく娼婦をする自分と、目的のために自己犠牲をしたワマームとの違いは心を蝕んでいく。
次第に娼婦の仕事に嫌悪感を持つようになる。
娼館を追い出されたアノーレは行倒れるが、それを助けたのはワマームの孤児院の子供達だった。
子供達の為に何かをしたいと思ったアノーレがシスターを目指す中、夢枕に立ったワマームが神に通じる力、神通力、魔法を授けてくれて人々の怪我を癒やし、もう1人の聖女と呼ばれるようになった。
スラスラと書き上げたメーライトは「アノーレさん。来てください」と喚ぶと、スラッとした立ち振る舞いが美しいシスターが現れて、「ありがとう神様、私も手伝うよ」と言った。
「ごめんなさい。助けてもらいたくて魔法の力まで授けてしまいました」
「何言ってんだい!神様のやる事に間違いはないし、匙加減もサイコーじゃないか!この魔法を特定しないで書いてくれるから、後は私たちの才能次第。この力で神様を守るからね」
アノーレはアーセワに「よろしくね先輩」と声をかけると、アーセワは「こちらこそ。この国は今ギリギリです。皆が神様に依存をし始めています。私達で神様をお守りしますよ」と言った。
アノーレは治癒魔法を覚えていたので怪我人を中庭に集めて魔法を使う。
治り方には個人差があるが、ナイフを喰らった老神官は傷が治ると五体投地でメーライトに感謝を告げた。
兵士達も傷が治り、これで復帰が可能だとメーライトに感謝を告げる。
中には、あの日メーライトを保護してくれた若い騎士までいて、メーライトが「お兄さん。あの時はありがとうございました」と言うと、若い騎士は「君が女神様だったなんて驚きだし、助けられて良かったよ。逆に怪我を治してくれてありがとう。騎士の本懐を果たすからね」と礼を言う。
中にはまだ治らない者もいて、メーライトにおかわりをねだるが、アーセワとアノーレが前に出てメーライトを守る。
アーセワは老騎士を見て「守ってくださらないのですか?」と圧を放ち、アノーレは「ごめんなさい。それ以上やると女神様の御力が途切れて、万一に備えられないし、私達も出てこられなくなるの。騎士はまだ出てこないでしょ?そっちのが大変よ」と人々に言う。
諦めの悪い男が「でも」と言った時、豹変したアノーレは近くの人間に「あんまりしつこいと、2度とやらなくなるわね。私たちの代わりに説得する?してくれるわよね?」とにこやかに言うと、メーライトに聞こえないように「痛めつけなさい」と耳打ちをした。
男は周りの連中に物陰に連れ込まれてわからされる事になる。
アノーレはにこやかに「やあね。ワガママはダメってママから教わらなかったのかしら」なんてメーライトに笑いかけていた。




