第24話 救国の女神はダンジョンの問題を知る。
今の問題点は、大きく分けて4つ。
メーライトを連れてダンジョンに行くことができない事。
メーライトにダンジョンの知識が足りない事。
ダンジョンの踏破が求められている事。
メーライトから離れられる使徒がいない事だった。
メーライトを連れてダンジョンに行くことはない。
あの弱い身体はダンジョンの瘴気で健康を害す恐れがあり、それで使徒が満足に力を使えなければ勝ち目がない。それ以外でも魔物が跋扈するダンジョンにメーライトを連れて行くことは、パーティの全滅を招くので考える事すらなかった。
アーセワの説明にワルコレステは唸る。
言っている事は何一つ間違っていない。
「それは?どういう事ですか?」
慎重に聞いてくるワルコレステに、アーセワが「恐らくアンデッドは野良魔物ではなくダンジョンが産んでます。そうなるといくら魔物を狩って巣穴を潰しても意味がない。ご存知ですね?」と聞き返す。
頷くワルコレステに「神様にその知識はございません」とアーセワが言う。
メーライトは使徒達が作った浴場で、アルーナ達と旅の疲れを癒しているので、メーライトはこの会話を知らない。
「ダンジョンから、ダンジョンのコアを持ち帰り、破壊できる者が必要です。最悪、職業は探検家でもなんでも構いません。最初の戦いも問題でしたが、神様に暗い地の底のダンジョンで戦うイメージが無かったのでしょう。アルーナは大軍戦を意識して生み出され、アナーシャは森の中での大軍戦。神様は自身から離れて戦える者を考えられませんでした。更に言えば、大攻勢は必ず発生する。死体の数が足りないアンデッドは、必ずここを目指してきます。猶予はありません」
致し方ない事に唸るワルコレステに、「付け加えるのなら」と言ったアーセワが、「我々に後付け設定は無理です」と添え、「早急に作家を探してください」と言った。
風呂から出たメーライトは、ダンジョンの話を改めて聞いて、「アルーナさん?」と確認すると「無理ー。アタシは月の力で戦う戦乙女だから、地中に行って月から離れると弱体化するー。それ以前に神様からそんなに離れられない」と返される。
細かく設定しない事の恩恵はアノーレが治癒魔法で証明したが、今回のように弊害もあった。物語が破綻しないような設定が付与されてしまう。
そしてダンジョンの深さによっては接続に問題が出る恐れがある。確実性のない事はしない方が身のためだった。
「私もだよ。外からダンジョン自体の破壊なら朝飯前だけど、コアが残ってる限りダンジョンも復活されるし、蜂の巣穴を突いたみたいに魔物の大軍が生まれるから、結局はコアを持ち帰らないとダメなんだよね」
「それに、下手にダンジョンを半壊させると、内容が変わってアンデッドから飛行型の魔物の巣になると、手に負えなくなるんだよね」
アジマーとアーシルの説明を聞いているメーライトは、素直にアーセワのお世話を受けられるようになっていて、今も髪を乾かして貰っていて、「ごめんなさい」と謝ると、アーセワは「何にですか?」と聞き返す。
「折角ダンジョンまで行けたのに、私が何も知らなくて、後はいつも髪を乾かしてくれてありがとうと、先にお風呂入ってごめんなさいとか」
アーセワが「お優しいんですから」と嬉しそうに言いながら、「この後でお風呂をいただきます」と言ってメーライトから離れた。
メーライトにはアノーレとアルーナが共にいる形で護衛する。
アルデバイトの民達は肌艶も良くてメーライトに感謝を忘れない。
今も帰還を喜ばれ、老婆なんかは手を合わせて泣いて感謝を告げている。
そんな中、浴場のある新生アルデバイトの街から小屋に戻る途中、視線の端にバナンカデスが居た。
だが、メーライトにはそれがバナンカデスには見えなかった。華やいだドレスは街の人が着るボロキレに変わり、艶やかな髪はボサボサになっていた。
「バナンカデスさん?」
バナンカデスもメーライトに気付くと、顔色を変えて逃げ出してしまう。
その姿にメーライトが言葉を失う中、「何あの態度?」、「まだ立場がわからないのかね?」なんて聞こえてくる。
約2か月でバナンカデスの生活は激変していた。
カオデロスも死に、更に言えば、カオデロスは生き残ろうとして国を売ろうとした。
確かに生家に帰れて、財産が残っていればバナンカデスも一生遊んで暮らせるが、ナイヤルトコに奪われていればそれも叶わない。
使用人達もバナンカデスと居たから砦に来られてマシな生活を受けていたが、それだけだった。
そしてメーライトの友という立場だから得られている優遇を理解していなかった。
バナンカデスはメーライトが進軍を開始してすぐに、アルデバイトの民達からの洗礼を受けた。
身なりを町娘と同じにして、世話人をなくす事で、ようやく食事にありつけるようになる。
本来なら仕事もさせたいが、箱入りのバナンカデスにできる事はなく、足手まといなので放置させられる。
その「わからせ」の結果、バナンカデスの身なりはみすぼらしいものになっていた。
さらに新生アルデバイトの街ではなく、砦暮らしというのも孤立化に拍車をかけていた。
病気を防ぐ為にも、清潔な環境、習慣のない風呂への入浴は義務化されていて、風呂に行く所をメーライトに見られていた。
その話が聞こえてしまったメーライトは、小屋に帰る前にアルーナ達が止めるのも聞かずに、バナンカデスの元に向かう。
バナンカデスは砦に用意された部屋に逃げ帰っていて、自身の境遇を呪い、悔しさに泣く中、扉の向こうから聞こえてくるメーライトが自身を呼ぶ声。
「何をしにきたの!?笑いにきたの!?」
「違うよ。バナンカデスさん。お友達だから心配で来たんだよ」
メーライトがバナンカデスの部屋の前にいる。
それはワルコレステからしても良い事はなく、すぐに騎士達がメーライトに立ち去りを求めにくるし、アルーナ達も「神様、ダメだって。神様が心を乱すとアタシたちが冷静でいらんなくなるよ」と言って小屋に連れ帰ろうとする。
「でも!バナンカデスさんは私の初めてのお友達なの!」
ワルコレステは声を張るメーライトを見て、アルーナ達が暴れないかを気にしたが、アーセワが言っていたように、この2か月でメーライトとの繋がりが強化された事もあり、多少の事では暴走しなくなっていた。
「ご安心ください。カオデロスの娘には変わらぬ扱いを約束します。食事も住む場所も与えます。今知りました件も解消をお約束します。メーライト様は1日も早くダンジョンを制圧していただき、アルデバイトを奪還してください」
実際、ワルコレステはバナンカデスの事を知っていたが、些事として放置していた。
だがそれを知らず、疑わずに信じてしまうメーライト。
ワルコレステの言葉にメーライトが頷いて、「バナンカデスさん、私、頑張るから、待ってて」と言葉を送った時、扉の向こうからバナンカデスがメーライトに向けて言葉を放つ。
「それなら、言葉よりも行動で示して。魔物の群れにも負けない圧倒的な力で、1日も早くあの家にワタクシを帰して」
呪詛のような言葉に、「力…」と呟いたメーライトは力強く頷くと、おとなしく小屋に帰って行った。
ワルコレステは執務室に戻りながら笑ってしまう。
「カオデロスの娘、いい事を言うではないか。力こそ全て、想いだけでは何もできない」
それはアルーナが言った「神様が人々を守りたいと強く想えば、私達はまだまだ強くなる」と言う言葉への反論でもあった。
ワルコレステは腹心の貴族を呼び出し、「進捗は?」と聞くと、「後2日ほどではという話です」と返ってくる。
「なんとか我々のアルデバイトに帰還して貰わないとな」
「はい。その為に見つけた作者と品評家です」
その言葉通り、3日後には一冊の本がメーライトの元に届けられた。




