エピソード14:トラブル解決
ヴァレンタイン子爵の屋敷。
執務室。
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ヴァレンタインは、机に向かっていた。
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だが、手が震えている。
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「化け物……」
呟く。
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昨夜、雇った暗殺者たちが戻ってきた。
ボロボロの姿で。
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「シオンという男は、化け物です……」
暗殺者のリーダーが、震える声で言った。
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「五人がかりでも、一瞬でやられました」
「複数の魔法を、同時に使いこなす」
「あんな冒険者、見たことがありません」
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「もう、あいつには関わりたくない……」
「どんな金を積まれても、無理です……」
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そう言い残して、暗殺者たちは去った。
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あの暗殺者たちが、ここまで怯えるとは。
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「まずい……」
ヴァレンタインが、額に汗を滲ませる。
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「俺は、とんでもない相手に喧嘩を売ってしまった」
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後悔する。
なぜ、あの時に引き下がらなかったのか。
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「もう、手を引こう」
ヴァレンタインが、決める。
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「圧力も、全て取り消そう」
「そうすれば、許してくれるはずだ」
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その時――。
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ドン、という音がした。
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遠くから。
屋敷の入口だ。
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「何だ……?」
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執事が、慌てて入ってくる。
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「子爵様!」
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「どうした」
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「侵入者です!」
執事が、叫ぶ。
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「誰か、門を突破しました!」
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「侵入者?」
ヴァレンタインが、立ち上がる。
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「護衛を呼べ!」
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「それが……」
執事が、青ざめる。
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「護衛が、次々と倒されています!」
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「何……!」
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また、ドン、という音。
近づいている。
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「誰だ!」
ヴァレンタインが、叫ぶ。
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「侵入者は……シオン、と名乗っています」
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「……」
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ヴァレンタインが、固まる。
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シオン。
あの化け物が、来た。
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「まさか、直接……!」
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足が、震える。
恐怖で。
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「子爵様、お逃げください!」
執事が、叫ぶ。
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「裏口から!」
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「ああ、そうだ!」
ヴァレンタインが、裏口に向かう。
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だが――。
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扉が、開いた。
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そこには――。
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シオンが立っていた。
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「……」
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冷たい目。
感情のない顔。
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「ヴァレンタイン子爵、だな」
シオンが、言う。
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「ひ……」
ヴァレンタインが、後ずさる。
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「待て……!」
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「昨夜、暗殺者を送ったな」
シオンが、一歩前に出る。
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「そ、それは……」
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「圧力もかけた」
シオンが、続ける。
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「俺を、締め出した」
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「す、すまない……!」
ヴァレンタインが、叫ぶ。
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「もう、しない!」
「圧力も、全て取り消す!」
「だから、許してくれ!」
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シオンが、無言で近づく。
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ヴァレンタインが、壁に追い詰められる。
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「頼む……!」
必死に懇願する。
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「命だけは……!」
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シオンが、手を上げる。
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ヴァレンタインが、目を閉じる。
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だが――。
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何も起きない。
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恐る恐る、目を開ける。
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シオンの手が、壁に触れている。
ヴァレンタインの顔の、すぐ横。
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「聞け」
シオンが、冷たく言う。
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「今回は、許す」
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「ほ、本当か……!」
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「だが、次はない」
シオンが、警告する。
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「もし、また俺に関わったら」
「次は、容赦しない」
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「わ、分かった……!」
ヴァレンタインが、必死に頷く。
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「二度と、関わらない!」
「誓う!」
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「いいだろう」
シオンが、手を下ろす。
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「圧力を、今日中に全て取り消せ」
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「す、すぐにやる!」
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「では、な」
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シオンが、部屋を出る。
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ヴァレンタインが、その場に崩れ落ちる。
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「助かった……」
震える声で、呟く。
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「もう、二度と関わらない……」
「絶対に……」
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執事が、駆け寄る。
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「子爵様、大丈夫ですか!」
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「ああ……」
ヴァレンタインが、頷く。
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「もう、終わりだ」
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「終わり、ですか?」
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「ああ。シオンへの嫌がらせは、全て終わりだ」
ヴァレンタインが、言う。
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「あんな化け物に、逆らえるわけがない」
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その日のうちに、全ての指示が取り消された。
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宿も、商店も、シオンを受け入れる。
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ギルドでも、噂になった。
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「シオンが、ヴァレンタイン子爵の屋敷に乗り込んだらしい」
「護衛を全員、倒したって」
「子爵が、完全に屈服したらしい」
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シオンの評判は、さらに高まった。
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そして、ヴァレンタインは――。
二度と、シオンに関わることはなかった。
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