エピソード1:転生と絶望
砂が、頬に刺さる。
痛い。
目を開けると、真っ青な空が広がっていた。
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「……生きてる」
声を出してみる。
確かに、自分の声だ。
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体を起こす。
砂浜だ。
どこまでも続く、白い砂浜。
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振り返ると、森がある。
鬱蒼とした、緑の森。
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そして、他には何もない。
人も、建物も、船も。
何もない。
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「本当に、無人島なのか……」
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女神の言葉が、脳裏に蘇る。
五十年間、文明圏接触禁止。
無人島からのスタート。
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「冗談じゃない」
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立ち上がって、周囲を見渡す。
左を見ても、砂浜。
右を見ても、砂浜。
海は、どこまでも青い。
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何も見えない。
陸地も、船も、人の気配も。
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「マジで、何もないじゃないか……」
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絶望が、じわじわと押し寄せてくる。
ここで、五十年。
一人で、五十年。
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「無理だろ……」
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前世の俺は、サラリーマンだった。
サバイバル知識なんて、ない。
キャンプすら、行ったことがない。
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それなのに、無人島で五十年?
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「死ぬ。絶対、死ぬ」
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だが、どうする?
ここにいるしかない。
選択肢は、ない。
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「……とりあえず、水だ」
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人間は、水がなければ三日で死ぬ。
まず、水を見つけないと。
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森に向かって、歩き出す。
足が、砂に沈む。
歩きにくい。
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森の入口に、着いた。
木々が、密生している。
薄暗い。
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「怖いな……」
正直な感想だ。
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だが、水がなければ死ぬ。
進むしかない。
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一歩、踏み入れる。
木の葉が、擦れる音。
鳥の鳴き声。
何かが動く気配。
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全てが、恐怖を煽る。
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「落ち着け……」
自分に言い聞かせる。
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深呼吸して、前に進む。
慎重に、一歩ずつ。
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しばらく歩くと、水の音が聞こえてきた。
川、か?
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音を頼りに進むと――。
小さな川があった。
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「あった……!」
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膝をついて、水を見る。
透明で、綺麗だ。
飲めそうだ。
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手で掬って、口に含む。
冷たくて、美味い。
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「助かった……」
何杯も飲んだ。
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水は、確保できた。
これで、当面は死なない。
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「次は、食料、か」
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だが、何を食べればいい?
森には、何があるんだ?
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周囲を見渡す。
木の実。
草。
虫。
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「……食えるのか、これ」
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毒かもしれない。
分からない。
知識が、ない。
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「とりあえず、川に魚がいないか見てみるか」
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水面を覗き込む。
小さな魚が、泳いでいる。
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「いた……」
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だが、どうやって捕まえる?
手で掴む?
無理だろ、速すぎる。
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「槍、か?」
木の枝を、削って槍を作る。
それで、突く。
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やってみるしかない。
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適当な枝を拾って、石で削る。
先端を、尖らせる。
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簡易的な槍。
完成度は低いが、ないよりマシだ。
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川に戻って、魚を狙う。
槍を構えて、待ち構える。
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魚が、近づいてくる。
今だ――。
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突く。
外れた。
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「ちっ……」
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何度も試すが、一匹も捕まえられない。
魚は、速すぎる。
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「ダメか……」
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諦めて、森を探索する。
食べられそうなものを、探す。
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木の実を、見つけた。
赤い実。
美味しそうだ。
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だが、食べられるのか?
毒だったら、死ぬ。
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「……賭けるしかないか」
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一粒だけ、口に入れる。
苦い。
まずい。
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だが、吐き出さずに飲み込む。
しばらく待つ。
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十分経過。
特に、何もない。
吐き気も、腹痛もない。
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「食べられるな」
残りも、全部食べた。
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まずかったが、空腹は少し和らいだ。
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「……何とか、生き延びられるか」
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だが、不安しかない。
本当に、五十年も持つのか?
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「一日ずつ、やるしかない」
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空を見上げる。
太陽が、傾き始めている。
もうすぐ、夜だ。
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「寝床、どうする……」
家もない。
テントもない。
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「岩の間で、寝るか」
大きな岩を見つけた。
その隙間に、入り込む。
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「今夜は、ここで過ごそう」
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不安だ。
怖い。
孤独だ。
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だが、生き延びるしかない。
五十年、必ず。
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「絶対に、生き延びてやる」
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そう、自分に誓った。
無人島生活、初日が終わろうとしていた。
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