エピソード1:襲撃
森の中を、馬車が進んでいた。
三台の馬車。
商人の、キャラバンだ。
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だが、その周りを囲むように――。
盗賊がいた。
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二十人ほど。
全員、武装している。
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「くそ……!」
護衛の冒険者が、歯ぎしりする。
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五人の冒険者。
全員、Cランク。
ベテランには、あと一歩。
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だが、敵が多すぎる。
しかも――。
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「元Bランク、か……」
盗賊の頭を見る。
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大柄な男。
傷だらけの顔。
鋭い目つき。
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元冒険者だ。
それも、Bランク。
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「厄介だな」
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Bランクとは、格が違う。
Cランクが束になっても、勝てない。
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「せめて、商人だけは守る!」
護衛のリーダーが、叫ぶ。
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五人が、馬車を囲む。
商人を、守る陣形。
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「諦めろ」
盗賊の頭が、笑う。
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「お前ら程度じゃ、無理だ」
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そして、合図を出す。
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盗賊たちが、一斉に襲いかかる。
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「くっ!」
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護衛たちが、応戦する。
剣と剣が、ぶつかる。
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だが、数が違う。
四対一。
不利だ。
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「うわっ!」
一人が、吹き飛ばされる。
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腕から、血が流れる。
深い傷だ。
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「しっかりしろ!」
リーダーが、叫ぶ。
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だが、状況は悪くなる一方だ。
全員、傷だらけ。
疲労も、溜まっている。
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「もう、限界か……」
リーダーが、歯を食いしばる。
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だが、諦めない。
商人を、守らなければ。
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「まだだ……!」
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立ち上がる。
剣を、構える。
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だが――。
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盗賊の頭が、動いた。
速い。
Bランクの速さ。
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「終わりだ」
頭の剣が、振り下ろされる。
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リーダーは、避けられない。
防げない。
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「くそ……!」
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死を、覚悟した。
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だが――。
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金属音が、響いた。
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「……え?」
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剣が、止まっている。
目の前で、止まっている。
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いや、止められている。
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「誰だ……!」
盗賊の頭が、驚く。
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そこには――。
若い男が立っていた。
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長い髪。
端正な顔立ち。
動物の皮で作った、服。
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そして、素手だ。
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素手で、剣を受け止めている。
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「な、何……?」
リーダーが、呆然とする。
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男が、剣を掴んだまま言った。
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「邪魔をするな」
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淡々とした、声。
感情が、ない。
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そして――。
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剣が、砕けた。
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「ぐわっ!」
盗賊の頭が、後ろに跳ぶ。
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手には、柄だけ。
刀身が、粉々になっている。
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「馬鹿な……!」
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男が、一歩前に出る。
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ただ、それだけで――。
全ての盗賊が、凍りついた。
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「逃げろ……!」
盗賊の頭が、叫ぶ。
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盗賊たちが、一斉に逃げ出す。
だが――。
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男が、手を上げた。
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すると――。
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全ての盗賊が、地面に倒れた。
動けない。
まるで、見えない力で押さえつけられているように。
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「うぐ……!」
盗賊の頭も、動けない。
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男が、冷たい目で見下ろす。
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「もう、来るな」
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それだけ言って、手を下ろす。
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すると、盗賊たちが解放された。
全員、這うようにして逃げていく。
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あっという間に、誰もいなくなった。
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「……助かった、のか?」
リーダーが、呆然と呟く。
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男が、振り返る。
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「怪我は?」
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「あ、ああ……大丈夫だ」
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男が、頷く。
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そして、馬車の方を見る。
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商人が、馬車から降りてきた。
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太った、中年の男。
豪華な服を着ている。
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「あ、ありがとうございます!」
商人が、深々と頭を下げる。
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「命の恩人です!」
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男が、無表情で答える。
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「別に」
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そして、歩き出そうとする。
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「待ってください!」
商人が、慌てて止める。
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「お礼をさせてください!」
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男が、立ち止まる。
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そして、商人を見る。
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「お礼は、いらない」
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「では、せめて……」
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男が、少し考えて言った。
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「情報が、欲しい」
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「情報、ですか?」
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「この世界のことを、教えてほしい」
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商人が、首を傾げる。
奇妙な依頼だ。
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だが、命の恩人の頼みだ。
断るわけにはいかない。
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「分かりました。何でも教えます」
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男が、頷いた。
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こうして、出会いが始まった。
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