エピソード13:転機
三十年と一ヶ月。
ある朝、目が覚めると違和感があった。
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「……何か、変だ」
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体が、軽い。
いつもより、遥かに軽い。
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魔力の流れを、確認する。
すると――。
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「魔力が、溢れてる」
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魔力核が、明らかに変わっている。
大きさは変わらない。
だが、密度が全く違う。
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「何が、起きたんだ?」
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考える。
昨日、何をした?
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二百層圧縮の練習。
限界まで、魔力を使った。
そして、眠った。
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「……もしかして」
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限界まで使ったことで、魔力核が進化したのか。
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「成長、したのか」
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三十年と三ヶ月。
魔力核の変化を、詳しく調べた。
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質が、変わっている。
粒子が、より密に結合している。
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「これは、ブレイクスルーだ」
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今までとは、次元が違う。
魔力の質が、根本的に変わった。
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「転機、か」
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三十年と六ヶ月。
新しい魔力で、色々試してみた。
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火球を作る。
以前と同じ、二百層圧縮。
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だが、威力が全く違う。
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放つと、島の端まで届いた。
大爆発を起こした。
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「……すごすぎる」
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同じ圧縮率でも、威力が十倍以上。
質の違いが、これほどとは。
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「新しい段階に、入ったんだな」
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三十一年目。
新しい魔力で、新しい技術に挑戦することにした。
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「重力、か」
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ふと、思いついた。
魔力で、重力を操作できないか。
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理論上は、可能なはずだ。
魔力で空間を歪めれば、重力が発生する。
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「やってみよう」
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三十一年と三ヶ月。
重力操作の研究を、始めた。
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まず、空間を歪める。
魔力を、一点に集中させる。
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極限まで、圧縮する。
そして――。
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微かに、何かを感じた。
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「……これは」
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空間が、歪んでいる。
手のひらの周りが、引っ張られている。
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「重力、か?」
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三十一年と六ヶ月。
重力操作の練習を、続けた。
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最初は微かだった。
だが、徐々に強くできるようになってきた。
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小石を、浮かせる。
魔力ではなく、重力で。
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「できた……!」
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本物の重力だ。
魔力で作った、疑似重力。
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「これは、革新的だ」
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三十一年と九ヶ月。
重力を、自在に操れるようになった。
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引き寄せる。
押し返す。
固定する。
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全てが、できる。
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「重力魔法、か」
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いや、魔法じゃない。
これは、もっと根本的なものだ。
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「空間操作、だな」
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三十二年目。
空間操作を、さらに発展させた。
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空間を歪めて、物を動かす。
空間を固定して、防御する。
空間を圧縮して、攻撃する。
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「可能性が、無限だ」
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三十二年と三ヶ月。
ある日、大型の獣と戦った。
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体長十メートルの、巨大な熊。
今まで避けていた、島で最強の獣。
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「試してみるか」
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重力を操作する。
獣の周りの空間を、歪める。
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獣が、動けなくなった。
重力に、押しつぶされている。
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「……強すぎる」
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一瞬で、勝負がついた。
以前なら、苦戦していただろう。
だが、今は違う。
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「圧倒的だ」
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三十二年と六ヶ月。
空間操作を、完璧にマスターした。
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これで、戦い方が根本的に変わった。
魔法だけじゃない。
空間そのものを、武器にできる。
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「新しい力だ」
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三十二年と九ヶ月。
ふと、鏡を見た。
いや、川の水面だ。
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髪が、また伸びている。
腰まで。
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「切るか」
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適当に、肩まで切る。
顔は、まだ若い。
二十代に見える。
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「実年齢は、四十七歳か」
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長命種の恩恵。
見た目は、ほとんど変わっていない。
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「便利だな」
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三十三年目。
転機を、迎えた。
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魔力の質が変わった。
重力操作を習得した。
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「大きな一歩だ」
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だが、まだ満足できない。
もっと、極めたい。
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「次の段階に、進もう」
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三十三年と三ヶ月。
新しい目標を立てた。
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「疑似重力を、完璧に制御する」
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今は、粗い。
もっと精密に、もっと繊細に。
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「極限まで、磨こう」
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三十三年と六ヶ月。
疑似重力の訓練を、続けた。
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重力の強さを、自在に調整する。
重力の方向を、自由に変える。
重力の範囲を、ピンポイントで制御する。
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「全てを、完璧に」
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三十四年目。
疑似重力が、実用レベルになった。
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戦闘にも、使える。
生活にも、使える。
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「万能だな」
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三十四年と三ヶ月。
さらに研究を続けた。
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重力だけじゃない。
空間を、もっと自在に操作したい。
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「空間を切る、とか」
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試してみる。
魔力で空間を歪めて、切断する。
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すると――。
木が、真っ二つになった。
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「できた……!」
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空間切断。
新しい技だ。
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「これは、使える」
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三十五年目。
無人島に来て、三十五年が経った。
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転機を迎え、新しい力を手に入れた。
疑似重力。
空間操作。
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「ここまで来たか」
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だが、まだ十五年ある。
まだまだ、強くなれる。
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「次は、理論を完成させよう」
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新しい挑戦が、始まる。
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