【9】樽酒が開く、恋の扉。〜大天使、恋の階段、第一段突破〜
それから、二時間後――
ルシアンが、ずぶ濡れでヴィラのメインリビングへと入ると、
中は真っ暗で、二つの光しか見えない。
よくよく見ると、
リビング照明は最小限に落とされ、
テーブルの向こう側に、松明型の照明が、二本、離して置かれ、
灯されているだけだった。
そして、その松明型の照明の中央に、
ルチアーノが、日本のお祭りなどで使用される“はっぴ”を着て、
大きな木槌を持って、仁王立ちしていた。
「遅いッ!」
ルチアーノの声が、リビングに響く。
「……ルチアーノ?これは?」
ルシアンが、淡々と訊くと、
ルチアーノが木槌を担ぎ、
ジャパンのKABUKIのような口調で、話し出す。
「お前さん……おっと!勘違いしてねぇかい!?
恵方巻を食べれば……前哨戦が終わるとでも……!?
ちゃんちゃらおかしいぜ!
そこの、おい、ズッ友ルシアンよ!
前哨戦が終わったら……そう……祝杯を上げるのが、礼儀ってもんなんだぜぇぇええ!!」
「つまり、祝杯を上げる前に、私が泳いだのが失態だと?」
ルシアンの、無表情と、淡々とした返し。
ルチアーノが、大きく頷く。
「そう!
だが、俺様とォ〜ロクシー先生はァ〜……!
お前をおいて、祝杯を上げるような野暮じゃねえ!
ほらよっ!」
ルチアーノが、樽の蓋の中央に、木槌を振り下ろす。
すると、パカっと、蓋が二つに割れた。
そして――
暗がりから、ゆっくりとした拍手と共に、
ロクシーが現れた。
ロクシーが、ルシアンを、ジロリと見る。
「ルシアン……。
本当は、この樽酒を、あんたが割って、更にハッピー!ってなる筈だったのよ?
私の脚本を、最後まで聞かないで、勝手な行動を取るから……」
その視線と声は、
衛星観測で記録された地球の表面温度、約マイナス98℃より、冷たい。
ルシアンが、
「済まない……!」と頭を下げ、胸に手を当てる。
「アンジュちゃんにも、見せてあげたかったなあ……」
ポツリと付け加えられたロクシーの言葉に、
ルシアンが、ガハッと顔を上げた。
「アンジュさまは!?」
「……寝ちゃった」
心底、残念そうなロクシーの声。
その視線の先には――
ソファで、ブランケットに包まれ、
すやすやと眠っているアンジュがいた。
ルシアンが、アンジュに駆け寄る。
アンジュの真っ白な頬に、
ルシアンの前髪から、一滴の水が落ちる。
アンジュの長い睫毛が震え、
小さく、瞬きをする。
ルシアンには、それが、スローモーションに見えた。
アンジュが、微かに微笑む。
「……ルシアンよ……
なぜ、また、ずぶ濡れなのだ……?
これは……夢か……?」
小さな、小さな声。
ルシアンは、穏やかに答える。
「はい。アンジュさま。
これは、夢でございます。
どうか、ごゆるりとお休み下さい」
「……そうか……」
アンジュの瞳が、ゆっくりと閉じてゆく。
ルシアンは、恩寵を使い、一瞬で自分を乾かす。
そして、アンジュの規則正しい寝息がすると――
アンジュを、毛布ごと、抱き上げた。
アンジュの背中が、意図せず、指先に触れる。
まるで、指先がチリチリと焼けるように、痛い。
だが、それに動揺するよりも、今は守るべきものがある。
それは、アンジュの安らかな眠りの時間――
それから、ルシアンは一旦リビングに戻って来て、
「私が起こしてしまったから、アンジュさまのお休みが確認出来るまで、付き添っている」
と言い残し、アンジュの寝室へと戻って行った。
ルシアンの姿が、完全に消えると――
ルチアーノが、樽から柄杓で二つの枡に樽酒を注ぎ、
ロクシーに手渡す。
そして、ルチアーノが、
「ロクシー先生に!」と枡を掲げ、一口飲む。
ロクシーは、既に、グビグビと飲んでいる。
そんなロクシーに、
ルチアーノが、興奮気味に捲し立てる。
「流石、ロクシー先生でありますッ!
あのルシアンが、自分から行動するなんて……!
樽酒を選んだ理由を、お聞かせ下さい!」
ロクシーが、軍師の目になり、ゆっくりと語り出す。
「……あのね、ルシアンは大天使。
ちょっとやそっとじゃ驚かない。
まずね……あの“真面目が過ぎる”大天使思考を奪うことから、始めるの!」
「つ、つまり……!?」
ロクシーが、樽酒に口を付け、離すと、ニヤリと笑う。
ルチアーノの背筋が、反射的に、ぴんと伸びる。
「ルシアンは、知識としては持っていても、
樽酒を目にしたことは、無いんじゃない?
だって天使だからね。
そこで、第一のショック!
『これは何だ?何が始まってる?』という思考に導くの……」
そして、再び、枡を口元へ運ぶロクシー。
ルチアーノは、何も言えず、喉をゴクリと鳴らす。
「で、あんたが、やりたがってたから、やらせたけど……
あの変な喋り、ナシでも、説明すれば成立するのよ。
『まだ、脚本はあった』って確信を持たせることを……!」
ルチアーノの手が、小刻みに震え、
枡から、樽酒が跳ねる。
「そして……眠ってしまって、樽酒バンザ〜イを見られなかったアンジュちゃん!
……ルシアンは今、
“大天使を刺すニット”で、恥ずかしかってる場合じゃないと自覚する……!
アンジュちゃんのために、“自分から”行動を起こさないと、って。
そして……そうなった。
……でしょ?」
ウンウンと頷くことしか出来ないルチアーノ。
「つまり!
今夜、ルシアンは、“自分から動く”を覚えた!
小さな一歩でも、恋の階段を確実に、一段登ったってわけ!」
そして、ロクシーが、スッとリモコンに手を伸ばすと、
“KAWAII”が詰め込まれた空間が、光り輝く。
ロクシーが、スマホでミュージックをオンにする。
「このリビングは、完全防音!
今夜は、樽酒を飲み切るまで、飲んで踊るわよ〜!
もちろん、明日からの脚本は、完成してるわ!」
ルチアーノが、特大クラッカーを次々と鳴らし、
薔薇の花びらを、部屋中に散らして叫ぶ。
「ロクシー先生!最高であります!
ルシアンの恋の階段……素晴らしい表現であります!
リリカル〜♪ラブ❤️」
そして――
ロクシーに頼まれ、
「寝起きアンジュ」撮影と引き換えに、
樽酒を、ルチアーノが木槌で蓋に触れるだけで、割れるように、
まじないを掛けてやったイレイナは、
二人の馬鹿騒ぎを、水晶玉越しに見ながら言った。
「いつまで“はっぴ”着てるわけ……?」
ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
明日も17時更新です☆
Xはこちら→ https://x.com/himari61290
自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪
〈ルシアンとガブリエルをもっと知りたいあなたに…〉
【完結】大天使と“ズッ友”になりたい地獄の王。 〜柄物スーツに一目惚れしてから、すべてが始まった件〜
https://ncode.syosetu.com/n5195lb/
【完結】大天使ガブリエル、地上に爆誕!〜神の命がふんわりすぎて、祈ろうとしたら迷子になりました〜
https://ncode.syosetu.com/n2322lc/
【完結】大天使たち、日本昔話に異世界転生する。〜初恋成就作戦を決行するポンコツ地獄の王に振り回されています〜
https://ncode.syosetu.com/n7024ld/
【完結】大天使ルシアン、最強捜査官になる〜神の沈黙と愛の証明〜
https://ncode.syosetu.com/n5966lg/
【完結】大天使と最強捜査官のクリスマス戦線 〜セレニスに集う者たち、愛か使命か〜
https://ncode.syosetu.com/n9868lk/
【完結】大天使と最強捜査官のクリスマス戦線〜聖夜の余白の物語〜
https://ncode.syosetu.com/n9097lm/
【完結】地上でいちばん可愛い正月旅行〜天使と悪魔も福来たる、温泉・TOKYO・バタフライ〜
https://ncode.syosetu.com/n5279ln/
【完結】大天使、悪魔のお見合いを阻止せよ!?〜地獄の王がお見合いを断ったら、大天使に婚約者が爆誕!〜
https://ncode.syosetu.com/n2903lp/
を読んで頂けるともっと楽しめます(^^)
こちら単体でも大丈夫です☆
\外伝の元ネタはこちら✨/
『最強捜査官』本編 → https://ncode.syosetu.com/n2892lb/




