【8】泳ぐ理由、ついに判明。〜ピンクニットが教える、純情大天使の恋心〜
ルシアンが倒れ、顔が床に付いた瞬間――
「ルシアン!?」と、アンジュの声がした。
ルシアンは、さっと跪く姿勢を取る。
その間、1.3秒。
「どうした?」
アンジュが、椅子から立ち上がる気配が、
はっきりと、ルシアンに届いてくる。
ルシアンは、何とか言葉を絞り出す。
「……失礼しました……!」
「失礼?そんなことはない!
大丈夫か?」
アンジュが、こちらに歩いて来ようとする。
ルシアンは、祈った。
――アンジュさま……!
こちらへ来ないで下さい!
そのファッションは――
問題があり過ぎなのです……!
だが、金色の髪を揺らし、
アンジュが、一歩踏み出す。
ルシアンの脳が、悲鳴を上げる。
――アンジュさま……!
お止まり下さい……!
お止まり下さっ……!
お止まりっ……!
止まってーーー!!
そして、祈りも虚しく、
アンジュが、俯くルシアンの前に立った。
「ルシアンよ、どうしたのだ?」
甘く柔らかい声が、耳を直撃。
そして――
目を瞑ろうとしたルシアンの、目の端に、
あのピンクのニットと、
チラリと見えた、アンジュの肩が映る。
ルシアンの眼を、直撃。
ルシアンは、
「何でもございません!」と叫ぶと、
目を瞑ったまま、リビングを駆け出す。
このヴィラの内部の設計は、
もう、頭に刻み込んである。
そうして、ルシアンは、目を瞑ったまま走り、
庭に飛び出すと、
完璧なフォームで、インフィニティプールへ飛び込んだ。
そして、ルシアンのバタフライの水音が聞こえないように、
ルチアーノが、完璧にドアを閉めたリビングでは――
ロクシーが、アンジュに向かって、
感動したように言った。
「ルシアン……
恵方巻を完璧に食べられて、よっぽど嬉しかったんだね〜!
泳がすにはいられないんだよ……!」
ルチアーノも、ウンウンと頷く。
薄っすらと、額に脂汗を浮かべながら。
「そうそう!
食べ終わった時に……俺様、ルシアンと目が合ったんだけど……
やりきった感100%だったもんなあ……!
だから……ガクッと膝を付いた……。
まるで、オリンピックの100メートル走で、
新記録を出した選手のように……!」
ふわっと髪をかき上げるルチアーノと、
感動で目を潤ませるロクシーに向かって、
アンジュが、真剣に言った。
「なるほど……!
あの恵方巻の食べ方は、確かに素晴らしかった!
ルシアンも、感動が止まらないのだな!」
ルチアーノが、再び、ふわっと髪をかき上げる。
「そうそう……。
ロマンティックと同じ……。
感動は、止まらない……」
ゴスッ……。
ロクシーの肘鉄が、ルチアーノの脇腹に、クリティカルヒット。
「……ぐわっ……」という、うめき声と共に、崩れ落ちるルチアーノ。
にっこり笑いながら、ロクシーがアンジュに言う。
「ルシアンが、あれだけ頑張って、厄除けしてくれたんだから、
私たちは、恵方巻を食べて、待ってようよ!」
アンジュも、にっこりと微笑む。
「そうだな!
ルシアンの努力を、無駄には出来ない!」
そして、ロクシーが、パチンとウィンクした。
「その後は、お楽しみのデザート三昧よ♪」
「流石はロクシー!楽しみだ!」
そうして、アンジュは、恵方巻を口へと運んでいった。
それから、デザートに移り、
お腹がいっぱいになったアンジュは、
呆気なく、ソファで眠ってしまった。
ルチアーノが、ブランケットを掛けてやる。
すると――
ロクシーが、白ワインをグラスに注ぎながら、
ジロッと窓を見た。
「ルシアン……。
まだ泳いでんの?」
低く、鋭い声に、
ルチアーノが、その場で、ぴょんと飛び上がる。
そして、無理やり笑顔を作り、振り向いた。
「ルシアンは、平気で四時間は泳ぐので……!」
「でもさあ……」
ロクシーが、グビリと白ワインを一口飲む。
「さっきの、あんたのアドリブ……上手くいったよね。
ウザい台詞以外!」
「……え!?
そうでありますか!?」
ルチアーノが、嬉しそうにダッシュでやって来て、
ロクシーの前のソファに座る。
「ロクシー先生の、ウルウルした瞳も、素晴らしかったですよ〜!」
ロクシーは、フフッと笑うと、
パンツのポケットから、目薬を取り出した。
「戦いって……
用意万端じゃなきゃ、まずスタートラインに立てないからね……!」
ルチアーノが、羽織りから、さっとネタ帳を取り出し、
ペンを走らせる。
「……なるほどです!
して、今夜のルシアンは!?
アンジュちゃんは、胸キュンしたでしょうか?」
ロクシーが、ハーッと、深いため息を吐く。
「あんた……
アンジュちゃんの褒め言葉、覚えてる?」
ルチアーノが、袖から水晶玉を取り出し、手を翾す。
すると――
真っ白な頬を、薔薇色に染めたアンジュの、3D映像が現れた。
「素晴らしいぞ、ルシアン!
流石は、大天使だ!」
ルチアーノが、そこで、映像を止める。
「……これは……褒めてる……?」
ポツリと言うルチアーノに、
ロクシーが、また深いため息を吐く。
「……そう!
褒めてる!
“大天使として”ってね!
つまり……恋じゃないの!
……致命的な“褒め”よ……!」
ルチアーノが、即座に言い返す。
「で、でも……!
ルシアンは、感謝に震えておりますとか、言ってましたよ!?」
「あのね……」
ロクシーの、絶対零度の視線が、ルチアーノに向けられる。
「ルシアンは、“真面目が過ぎる”の!
アンジュちゃんに褒められれば、
恋じゃなくても、感謝する!」
ルチアーノが、パチンと額を扇子で叩く。
「確かに!
……ん?……でも……あれ……?
じゃあ、どうしてルシアンは、泳いでるのでありますか?」
その瞬間、ロクシーの瞳が、見開かれる。
「……そうよ!
ルシアンは、何で泳ぐの!?
……ルシアンが倒れたのは、あんたのせいだし……!」
「……え!?
俺様が、何か!?」
ロクシーが、ルチアーノに向かって、ビシッと指を向ける。
「あんたね……。
あれだけ、恵方巻を丸ごと食えって言った張本人が、
ナイフとフォークで食べてたら、
ルシアンの精神だって、保たないわよ!
この裏切り者!
でも、今はそれはどうでも良い。
何で泳いだか……」
腕を組み、指先で、トントンと腕を叩くロクシー。
すると、ルチアーノが、ふわっと髪をかき上げた。
「……ロクシー先生……
ロマンっすよ……ロマン……」
突然始まった、大物アーティスト気取りの語りに、
ロクシーの目が、殺気を帯びる。
それに、全く気づかないルチアーノが続ける。
「……ロクシー先生が指定した……
“大天使を刺すニット”……
恋する純情な男……
ルシアンには、耐えられません……ラブ❤️」
ロクシーが、無言で、白ワインをグラスに目一杯注ぎ、
一気に飲み干す。
「ロクシー先生!?」
目を丸くしているルチアーノに、
ロクシーが、不敵に笑う。
それは、盤面を読み取った、軍師の笑い――
「フフフ……。
つまり……ルシアンは、本気でアンジュちゃんの恋人になりたいのよ。
今までは、敬愛だの何だの言って誤魔化してたけど……
誤魔化し切れない段階に入ったってわけ!」
「……では!?」
ジロリと、ルチアーノを見るロクシー。
ルチアーノの喉が、緊張でゴクリと鳴る。
ロクシーが、低く告げる。
「樽酒を用意して!」
ルチアーノが、思わず叫ぶ。
「……恋人って……樽酒なんだ……!!」
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