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地上でいちばん難しいバレンタインの贈り物 〜天使が天使に恋してます!?悪魔と軍師も混ざる秘密の奇跡〜  作者: 久茉莉himari


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5/8

【5】恵方巻作戦、最大の危機。〜ずぶ濡れの再会と、深夜二時の恋愛尋問〜

ガブリエルは、一瞬で、“アンジュ”の化身と同化する。


そして、ソファに、ぽすんと座った。


――これから、どうしよう?


頭の中に、無数の聖人たちが過ぎる。


「やはり、ヨーロッパか……」


そう呟いた瞬間、

ずぶ濡れのルシアンが、目の前に現れた。





アンジュが、青い瞳を丸くしていると、

ルシアンは、さっと跪き、胸に手を当てて言った。


「アンジュさま、お久しぶりです」


アンジュが、小首を傾げる。


「久しぶり?

つい先日、会ったではないか!」


ルシアンの無表情が、ピクリと揺れる。


「それに、どうしてお前は、ずぶ濡れなのだ?

過酷な地に赴き、聖なる祈りを捧げていても、

恩寵を使っているのであろう?」


ルシアンが、絞り出すように答える。


「……お、泳いでおりまして……!」


「泳ぐ?

なぜ?」


アンジュが、ふわりと立ち上がる。


その刹那――

リビングの照明に照らされるアンジュが、煌めく。


――美しい!


ルシアンの眼を、直撃。


ルシアンが、うつむいて答える。


「実は……私……今、せ、節分の恵方巻を、

食べる訓練をしておりまして……!

セレニス州にて……!」


「恵方巻とは?」


アンジュが、ルシアンの顔を覗き込もうとするが――

ルシアンは、ミキサーのように、顔をブンブンと背ける。


そして、アンジュをかわすと、

瞬時に立ち上がり、壁に向かって言った。


「恵方巻とは、日本の節分という風習に因んだ食べ物です。

寿司の7種類のネタを海苔で巻き、

太巻きという形にして、願い事をしながら食すものです」


アンジュが、ルシアンの背中に向かって訊く。


「……それは、美味しいのか?」


壁に向かって、即答するルシアン。


「ルチアーノが、日本の東京銀座の寿司店で作らせているので、

美味でございます」


「ルシアンよ!」


アンジュの清らかな呼び掛けに、

すぐさま振り向き、跪くルシアン。

ただし、うつむいて――


「はい!」


「セレニス州に、聖人の遺物はあったか?」


「ございます。

大聖堂に」


「よろしい!

ならば、私もセレニス州に行く!

そして……恵方巻を見てみたい!

良いか?」


「………ももももちろんです!」


ルシアンの、尋常ではない声の震えも、

アンジュは、気づかない。


――なぜなら、頭の中は、

また見ぬ“恵方巻”で、いっぱいだったからだ。


アンジュの内心を知らないルシアンは、

恩寵を使い、最大限にアンジュを守りながら、

セレニス州へと向かって、飛んで行った。





そして、15分後――


ヴィラで、アンジュと再会したロクシーは、大喜びした。


ただ、ルシアンには、すれ違いざま、

「午前二時、ビデオ通話」と、鋭い声で言ったが。


ルチアーノも、アンジュには、

「よく来てくれたなー!」と喜んでいたが、

ルシアンには、

びしょ濡れのスーツ姿で、チクチクと刺すような視線を送ってくる。


アンジュは、ひとしきりロクシーと盛り上がると、

ルチアーノを、不思議そうに見た。


「ルチアーノも、ずぶ濡れではないか!

そういえば……ルシアンは、なぜ泳いでおったのだ?

ルチアーノも、一緒に泳いでいたのか?」


ピキーン……!


ヴィラの中に、緊張が走る。


ロクシーが、

ルシアンとルチアーノに向かって、素早く目配せをする。


そして、茶目っ気たっぷりに言った。


「なんかね〜、

突然、ルシアンがバタフライで泳ぎ出したの!

それで、ルチアーノも、ルシアンと泳ぎたくなっちゃったみたい!

ほら、ズッ友精神ってやつ?

私たちには、分かんないけどー!」


アハハと笑い、続ける。


「アンジュちゃん……

ルシアンが突然、バタフライした理由に、心当たりない〜?」


アンジュが、ルシアンの方を、チラリと見る。


その、優美な視線を、真正面から受け止めてしまったルシアンは――


無表情のまま、真っ赤になり、叫んだ。


「ルチアーノ!

着替えろ!

風邪を引いてしまう!

隣のヴィラに戻ろう!

私も、手伝う!」


そして、ルチアーノの襟首を掴んで、歩き出す。


「……おい!……ちょっ……ルシアン……!?」


ルチアーノが、ジタバタしながら、

アンジュの視界から消えた――





そうして、その夜は、

ロクシーの泊まるヴィラで、四人でディナーを食べた。


その時、ロクシーが、

「明後日が節分だから、その日に恵方巻をサプライズするね!」と、

アンジュに言って、

アンジュは、キラキラと音がしそうな笑顔で、

「ありがとう、ロクシー!楽しみだ!」と、満足していた。


それから、アンジュが、

ロクシーのヴィラの寝室で眠った、午前二時――


ロクシーは、自分の寝室で、タブレットをオンにした。


画面には、

ルシアンとルチアーノが、並んで映っている。


ロクシーの、低い問い。


「ルシアン、まず、一つ一つ聞くね。

なんで、突然、プールから消えたの?」


まるで、諜報機関の尋問官。


ルシアンは、淡々と答える。


「泳いでいたら、アンジュさまに会いたくなって」


まさか、

“大天使ガブリエルさまが降臨したのを感じ取ったから”とは、言えない。


ロクシーが、小さく頷く。


「バタフライで泳いでいたら、心の整理がついた……。

そして、アンジュちゃんに会いたくなって、

飛んで行った――間違いない?」


「ああ」


ルシアンの、短い返答。


ロクシーが、再び、小さく頷く。


「よろしい。

それで、アンジュちゃんに会った時――

恵方巻のこと、話したよね?

どこまで、話した?」


ルシアンも、またも淡々と答えた。

アンジュと交わした内容を、一つ残らず。


すると――

ロクシーが、深いため息をついた。


それは、落胆ではないと、直ぐに分かる。

――怒りだ。


なぜか、ルチアーノが、椅子から、ぴょんと跳ねる。


「恵方巻の内容は、良い。

でも、“訓練”って言っちゃったか……。

それは、失言!

前哨戦に、致命的な発言よ!」


ロクシーの、

研ぎ澄まされたナイフのような、鋭い断定の言葉に、

ルチアーノが、真っ青になる。


「ロ、ロクシー先生……!

その理由を、お聞かせ下さいッ……!」


ロクシーが、指を一本、立てる。


「ルシアンは、何のために、

恵方巻を食べる訓練をしてるんだっけ?」


「そ……それは……

ルシアンが、アンジュちゃんの好みを聞きに行った時に、失敗したから……

それを打ち消すための、バレンタイン前哨戦であります……!」


ロクシーが、フフッと笑う。

尋問官から、軍師へと、完全にシフトした笑み。


「……だよね?

なのに、“訓練したから、恵方巻を完璧に食べられる”

こんな男子に、ときめかない!

恋は、ギャップが命!

恵方巻と、全く縁の無い大天使のルシアンが、

優雅に食べ切るから、アンジュちゃんは、ときめくの!

それを、自分でバラしてしまうとは……」


ロクシーが、いつの間にか手にした、

マッカランのロックを、一口飲む。


ルシアンは――

真っ青を通り越し、深海の蒼へ。


ルチアーノが、赤いシルクのハンカチを噛む。


「では……

もう、恵方巻で胸キュンは、無理と……!?」


ロクシーは、黙って、グラスを振る。


カランと、氷の音が響く。


それに続いて、ロクシーが言った。


「策はある。

でも……それは、当日、伝える。

また、失言したら、取り返しがつかない!

ルシアン!

明日から、また特訓よ!」


ルシアンの眼が、戦士の色を帯びる。


「……理解した!」


そして、ルチアーノは、

「流石は、ロクシー先生でありますッ!」と言って、

特大クラッカーを鳴らし、薔薇の花びらを散らしていた。


ロクシーが、

タブレットの電源をオフにしていることにも、気づかずに――

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

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