【5】恵方巻作戦、最大の危機。〜ずぶ濡れの再会と、深夜二時の恋愛尋問〜
ガブリエルは、一瞬で、“アンジュ”の化身と同化する。
そして、ソファに、ぽすんと座った。
――これから、どうしよう?
頭の中に、無数の聖人たちが過ぎる。
「やはり、ヨーロッパか……」
そう呟いた瞬間、
ずぶ濡れのルシアンが、目の前に現れた。
アンジュが、青い瞳を丸くしていると、
ルシアンは、さっと跪き、胸に手を当てて言った。
「アンジュさま、お久しぶりです」
アンジュが、小首を傾げる。
「久しぶり?
つい先日、会ったではないか!」
ルシアンの無表情が、ピクリと揺れる。
「それに、どうしてお前は、ずぶ濡れなのだ?
過酷な地に赴き、聖なる祈りを捧げていても、
恩寵を使っているのであろう?」
ルシアンが、絞り出すように答える。
「……お、泳いでおりまして……!」
「泳ぐ?
なぜ?」
アンジュが、ふわりと立ち上がる。
その刹那――
リビングの照明に照らされるアンジュが、煌めく。
――美しい!
ルシアンの眼を、直撃。
ルシアンが、うつむいて答える。
「実は……私……今、せ、節分の恵方巻を、
食べる訓練をしておりまして……!
セレニス州にて……!」
「恵方巻とは?」
アンジュが、ルシアンの顔を覗き込もうとするが――
ルシアンは、ミキサーのように、顔をブンブンと背ける。
そして、アンジュをかわすと、
瞬時に立ち上がり、壁に向かって言った。
「恵方巻とは、日本の節分という風習に因んだ食べ物です。
寿司の7種類のネタを海苔で巻き、
太巻きという形にして、願い事をしながら食すものです」
アンジュが、ルシアンの背中に向かって訊く。
「……それは、美味しいのか?」
壁に向かって、即答するルシアン。
「ルチアーノが、日本の東京銀座の寿司店で作らせているので、
美味でございます」
「ルシアンよ!」
アンジュの清らかな呼び掛けに、
すぐさま振り向き、跪くルシアン。
ただし、うつむいて――
「はい!」
「セレニス州に、聖人の遺物はあったか?」
「ございます。
大聖堂に」
「よろしい!
ならば、私もセレニス州に行く!
そして……恵方巻を見てみたい!
良いか?」
「………ももももちろんです!」
ルシアンの、尋常ではない声の震えも、
アンジュは、気づかない。
――なぜなら、頭の中は、
また見ぬ“恵方巻”で、いっぱいだったからだ。
アンジュの内心を知らないルシアンは、
恩寵を使い、最大限にアンジュを守りながら、
セレニス州へと向かって、飛んで行った。
そして、15分後――
ヴィラで、アンジュと再会したロクシーは、大喜びした。
ただ、ルシアンには、すれ違いざま、
「午前二時、ビデオ通話」と、鋭い声で言ったが。
ルチアーノも、アンジュには、
「よく来てくれたなー!」と喜んでいたが、
ルシアンには、
びしょ濡れのスーツ姿で、チクチクと刺すような視線を送ってくる。
アンジュは、ひとしきりロクシーと盛り上がると、
ルチアーノを、不思議そうに見た。
「ルチアーノも、ずぶ濡れではないか!
そういえば……ルシアンは、なぜ泳いでおったのだ?
ルチアーノも、一緒に泳いでいたのか?」
ピキーン……!
ヴィラの中に、緊張が走る。
ロクシーが、
ルシアンとルチアーノに向かって、素早く目配せをする。
そして、茶目っ気たっぷりに言った。
「なんかね〜、
突然、ルシアンがバタフライで泳ぎ出したの!
それで、ルチアーノも、ルシアンと泳ぎたくなっちゃったみたい!
ほら、ズッ友精神ってやつ?
私たちには、分かんないけどー!」
アハハと笑い、続ける。
「アンジュちゃん……
ルシアンが突然、バタフライした理由に、心当たりない〜?」
アンジュが、ルシアンの方を、チラリと見る。
その、優美な視線を、真正面から受け止めてしまったルシアンは――
無表情のまま、真っ赤になり、叫んだ。
「ルチアーノ!
着替えろ!
風邪を引いてしまう!
隣のヴィラに戻ろう!
私も、手伝う!」
そして、ルチアーノの襟首を掴んで、歩き出す。
「……おい!……ちょっ……ルシアン……!?」
ルチアーノが、ジタバタしながら、
アンジュの視界から消えた――
そうして、その夜は、
ロクシーの泊まるヴィラで、四人でディナーを食べた。
その時、ロクシーが、
「明後日が節分だから、その日に恵方巻をサプライズするね!」と、
アンジュに言って、
アンジュは、キラキラと音がしそうな笑顔で、
「ありがとう、ロクシー!楽しみだ!」と、満足していた。
それから、アンジュが、
ロクシーのヴィラの寝室で眠った、午前二時――
ロクシーは、自分の寝室で、タブレットをオンにした。
画面には、
ルシアンとルチアーノが、並んで映っている。
ロクシーの、低い問い。
「ルシアン、まず、一つ一つ聞くね。
なんで、突然、プールから消えたの?」
まるで、諜報機関の尋問官。
ルシアンは、淡々と答える。
「泳いでいたら、アンジュさまに会いたくなって」
まさか、
“大天使ガブリエルさまが降臨したのを感じ取ったから”とは、言えない。
ロクシーが、小さく頷く。
「バタフライで泳いでいたら、心の整理がついた……。
そして、アンジュちゃんに会いたくなって、
飛んで行った――間違いない?」
「ああ」
ルシアンの、短い返答。
ロクシーが、再び、小さく頷く。
「よろしい。
それで、アンジュちゃんに会った時――
恵方巻のこと、話したよね?
どこまで、話した?」
ルシアンも、またも淡々と答えた。
アンジュと交わした内容を、一つ残らず。
すると――
ロクシーが、深いため息をついた。
それは、落胆ではないと、直ぐに分かる。
――怒りだ。
なぜか、ルチアーノが、椅子から、ぴょんと跳ねる。
「恵方巻の内容は、良い。
でも、“訓練”って言っちゃったか……。
それは、失言!
前哨戦に、致命的な発言よ!」
ロクシーの、
研ぎ澄まされたナイフのような、鋭い断定の言葉に、
ルチアーノが、真っ青になる。
「ロ、ロクシー先生……!
その理由を、お聞かせ下さいッ……!」
ロクシーが、指を一本、立てる。
「ルシアンは、何のために、
恵方巻を食べる訓練をしてるんだっけ?」
「そ……それは……
ルシアンが、アンジュちゃんの好みを聞きに行った時に、失敗したから……
それを打ち消すための、バレンタイン前哨戦であります……!」
ロクシーが、フフッと笑う。
尋問官から、軍師へと、完全にシフトした笑み。
「……だよね?
なのに、“訓練したから、恵方巻を完璧に食べられる”
こんな男子に、ときめかない!
恋は、ギャップが命!
恵方巻と、全く縁の無い大天使のルシアンが、
優雅に食べ切るから、アンジュちゃんは、ときめくの!
それを、自分でバラしてしまうとは……」
ロクシーが、いつの間にか手にした、
マッカランのロックを、一口飲む。
ルシアンは――
真っ青を通り越し、深海の蒼へ。
ルチアーノが、赤いシルクのハンカチを噛む。
「では……
もう、恵方巻で胸キュンは、無理と……!?」
ロクシーは、黙って、グラスを振る。
カランと、氷の音が響く。
それに続いて、ロクシーが言った。
「策はある。
でも……それは、当日、伝える。
また、失言したら、取り返しがつかない!
ルシアン!
明日から、また特訓よ!」
ルシアンの眼が、戦士の色を帯びる。
「……理解した!」
そして、ルチアーノは、
「流石は、ロクシー先生でありますッ!」と言って、
特大クラッカーを鳴らし、薔薇の花びらを散らしていた。
ロクシーが、
タブレットの電源をオフにしていることにも、気づかずに――
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