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地上でいちばん難しいバレンタインの贈り物 〜天使が天使に恋してます!?悪魔と軍師も混ざる秘密の奇跡〜  作者: 久茉莉himari


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4/5

【4】「捨てられる」は突然に。〜大天使が勝手に失恋(未満)しています〜

しかし、世の中、そんなに甘くない――


ルシアンが、ロクシー監修のもと、

30センチの長さの恵方巻を食べる訓練を積むこと、39回目。


ルシアンは、気づいた。


アンジュさま――

大天使ガブリエルさま――は、今は天界におられる……!


つまり、ハリウッドにいる“アンジュ”は、化身のままだ。


ロクシーとルチアーノに、

アンジュの中身が、大天使ガブリエルだとは言えない。


それは、神の命ではないからだ。


だからこそ、

今まで、地上に降りる命を神から受けるたびに、

恩寵を封印されてきた、大天使ガブリエルの“アンジュ”を、

二人は、人間だと思っている。

地球最強魔女のイレイナすら。


ルシアンは、それでも、怯まなかった。


バレンタインの前哨戦を、やり遂げたい。

その一心で、何とか理由を付けて、

セレニス州のヴィラから、天界に戻ると――


大天使の双璧、ミカエルとガブリエルのいる、

光りあふれる天界の空間で、

図らずも、二人の会話を、ルシアンは聞いてしまった。


ミカエルが、満足そうに言う。


「ルシアンの今回の働きは、素晴らしかったぞ!

私と先陣を切り、

一歩も退くことなく、戦い続けたのだ。

まさに、大天使の戦士!」


アンジュが、にっこりと微笑む。


「さすが、ミカエル兄上!

ルシアンの美点を、よく分かっておるな!

ルシアンは、優秀なのだ!」


アンジュの美しい笑顔と言葉に、

ルシアンの胸が、高鳴る。


そして、ミカエルが続ける。


「能天使さまも、ルシアンの働きに満足されている。

また、私の軍の一員にしても、構わないか?」


アンジュが、高らかに宣言する。


「もちろんだ!

ルシアンは、いつでもミカエル兄上の軍に入り、

尊い務めを、果たすまで!

いつでも、ミカエル兄上の部下として、

良き働きを、するぞ!」


その瞬間――

ルシアンの脳が、完全停止した。


何分、いや、何時間、

立ち尽くしていただろう。


そうして、最初に頭に浮かんだ言葉は――


「……ガブリエルさまに、捨てられる……」だった。


理性では、分かっている。


「ガブリエルさまは、ミカエルさまの下で、

私が、聖なる務めを果たすことを望んでいる」――と。


それは、誉れ高きこと。


だが、次に、理性が告げてきた言葉に、

完璧に、打ちのめされる。


「私は、大天使ミカエルさまの直属の部下に、

近く、人事移動が行われる」


そうして、ルシアンは、

セレニスのヴィラへと、瞬間移動した。





ルチアーノが、ご機嫌でバスタイムを終え、

ソファにゆったりと座り、

愛飲している富士山のミネラルウォーターを飲んでいると――


ルシアンが、10センチの距離で、目の前に現れた。


「うわっ!……近いっ!

なんだよ!?

天界の仕事は終わったのか?」


「……ああ」


短く答え、即座に、5メートル後方に離れるルシアンは――

顔面蒼白。


ルチアーノが、グビリとミネラルウォーターを一口飲むと、身を乗り出す。


「なんだ?なんだ?何か悩んでるのか?

恋に悩みは尽きないもんなー!分かるー!!

ロクシー先生によれば、

お前の恵方巻の食べ方とスピードは、完璧に近いらしいぞ!」


すると、ルシアンが、ポツリと言った。


「……私は……ガブ……

アンジュさまに、捨てられる……」


ルチアーノが、目を見開く。


「捨てられるって……。

まだ、付き合ってもないだろ?」


その言葉に、ルシアンが、

顔面蒼白から、真っ赤になり、

火山のマグマ色へと変化する。


「……おい!

どうした!?

恵方巻の食い過ぎか!?」


そして、ルチアーノの言葉が終わるか、終わらないかのうちに、

ルシアンは、インフィニティプールへと、完璧なフォームで飛び込み、

バタフライで泳ぎ出した。





無駄な水音がしない、

オリンピック選手のようなルシアンのバタフライを、

プールサイドで見ながら、ロクシーが、鋭く呟く。


「これは……

アンジュちゃんに、会いに行ったとしか思えない!」


「やはり!」


ルチアーノが、大きく頷き、ネタ帳を取り出す。


ロクシーの目が、ギラリと光る。


「そして、何かを見たか、聞いたかしたのよ。

もの凄く、衝撃的な、ね」


「ど、どうして、それが分かるのですか……!?」


声を上ずらせるルチアーノに向かって、

ロクシーが振り返り、ニヤリと笑う。


「決まってるでしょ。

普段、あんなに冷静沈着なルシアンが、

恋人でもないアンジュちゃんに、

『捨てられる』なんて、言わない!」


「……なるほどです!」


ルチアーノのペンが、ネタ帳を走る。


「でもなー……」


ロクシーが、腕を組むと、言った。


「アンジュちゃんに、さっき電話したけど、超普通なんだよね!

仕事も、絶好調らしいし……。

特に、変わったこともないらしいし……。

ルシアンにも、ずっと会ってないらしいし……」


トントンと、指先で腕を叩くロクシー。


ルチアーノの喉が、ゴクリと鳴る。


そして――

10秒後。


ロクシーが、ゆっくりと口を開いた。


「あんたも、泳ぎなさい」


「………は?」


ポカンとしているルチアーノに、

ロクシーが、ビシッと指をさす。


「あんた、ルシアンのズッ友でしょ!?

一緒に泳いで、ルシアンの心を開かせる!

そして、なるべく多くの情報を引き出すの!

分かったら、行け!」


ルチアーノは、

「了解でありますッ!」というや否や、

黒スーツのまま、プールに飛び込んだ。





そうして、ルチアーノがプールに飛び込み、

スーツが、水に触れた瞬間――


天界の執務室にいた、大天使ガブリエルに、

眩い光が、降り注ぐ。


次の瞬間、ガブリエルは、

神の玉座の前に、跪いていた。


無窮の光の中から、

神は、穏やかに告げる。


「地上にて、聖人の効力を見届けよ。

そのため、そなたの恩寵は消す」


「御意」


ガブリエルは、

大天使として、即座に恭順を示す。


だが――

その胸の内では、静かに、悲鳴を上げていた。


……聖人の効力を見届ける!?

どの?どの聖人……!?

数え切れないほど、居ますけど!?

世界を巡るなら、

恩寵があった方が、絶対、良いのでは!?

恩寵を封じる必要性!!

何をどうすればいいのーーー!?


もちろん、神へ問い返すなど、

大天使として、論外。


ガブリエルは、完璧な姿勢を崩さず、

心の混乱だけを、押し殺す。


そして、煌めく無数の光に包まれたガブリエルが、

目を開けると――


そこは、ハリウッドのガブリエルの器、

“アンジュ”の自宅の、豪華なリビングだった。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

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