【4】「捨てられる」は突然に。〜大天使が勝手に失恋(未満)しています〜
しかし、世の中、そんなに甘くない――
ルシアンが、ロクシー監修のもと、
30センチの長さの恵方巻を食べる訓練を積むこと、39回目。
ルシアンは、気づいた。
アンジュさま――
大天使ガブリエルさま――は、今は天界におられる……!
つまり、ハリウッドにいる“アンジュ”は、化身のままだ。
ロクシーとルチアーノに、
アンジュの中身が、大天使ガブリエルだとは言えない。
それは、神の命ではないからだ。
だからこそ、
今まで、地上に降りる命を神から受けるたびに、
恩寵を封印されてきた、大天使ガブリエルの“アンジュ”を、
二人は、人間だと思っている。
地球最強魔女のイレイナすら。
ルシアンは、それでも、怯まなかった。
バレンタインの前哨戦を、やり遂げたい。
その一心で、何とか理由を付けて、
セレニス州のヴィラから、天界に戻ると――
大天使の双璧、ミカエルとガブリエルのいる、
光りあふれる天界の空間で、
図らずも、二人の会話を、ルシアンは聞いてしまった。
ミカエルが、満足そうに言う。
「ルシアンの今回の働きは、素晴らしかったぞ!
私と先陣を切り、
一歩も退くことなく、戦い続けたのだ。
まさに、大天使の戦士!」
アンジュが、にっこりと微笑む。
「さすが、ミカエル兄上!
ルシアンの美点を、よく分かっておるな!
ルシアンは、優秀なのだ!」
アンジュの美しい笑顔と言葉に、
ルシアンの胸が、高鳴る。
そして、ミカエルが続ける。
「能天使さまも、ルシアンの働きに満足されている。
また、私の軍の一員にしても、構わないか?」
アンジュが、高らかに宣言する。
「もちろんだ!
ルシアンは、いつでもミカエル兄上の軍に入り、
尊い務めを、果たすまで!
いつでも、ミカエル兄上の部下として、
良き働きを、するぞ!」
その瞬間――
ルシアンの脳が、完全停止した。
何分、いや、何時間、
立ち尽くしていただろう。
そうして、最初に頭に浮かんだ言葉は――
「……ガブリエルさまに、捨てられる……」だった。
理性では、分かっている。
「ガブリエルさまは、ミカエルさまの下で、
私が、聖なる務めを果たすことを望んでいる」――と。
それは、誉れ高きこと。
だが、次に、理性が告げてきた言葉に、
完璧に、打ちのめされる。
「私は、大天使ミカエルさまの直属の部下に、
近く、人事移動が行われる」
そうして、ルシアンは、
セレニスのヴィラへと、瞬間移動した。
ルチアーノが、ご機嫌でバスタイムを終え、
ソファにゆったりと座り、
愛飲している富士山のミネラルウォーターを飲んでいると――
ルシアンが、10センチの距離で、目の前に現れた。
「うわっ!……近いっ!
なんだよ!?
天界の仕事は終わったのか?」
「……ああ」
短く答え、即座に、5メートル後方に離れるルシアンは――
顔面蒼白。
ルチアーノが、グビリとミネラルウォーターを一口飲むと、身を乗り出す。
「なんだ?なんだ?何か悩んでるのか?
恋に悩みは尽きないもんなー!分かるー!!
ロクシー先生によれば、
お前の恵方巻の食べ方とスピードは、完璧に近いらしいぞ!」
すると、ルシアンが、ポツリと言った。
「……私は……ガブ……
アンジュさまに、捨てられる……」
ルチアーノが、目を見開く。
「捨てられるって……。
まだ、付き合ってもないだろ?」
その言葉に、ルシアンが、
顔面蒼白から、真っ赤になり、
火山のマグマ色へと変化する。
「……おい!
どうした!?
恵方巻の食い過ぎか!?」
そして、ルチアーノの言葉が終わるか、終わらないかのうちに、
ルシアンは、インフィニティプールへと、完璧なフォームで飛び込み、
バタフライで泳ぎ出した。
無駄な水音がしない、
オリンピック選手のようなルシアンのバタフライを、
プールサイドで見ながら、ロクシーが、鋭く呟く。
「これは……
アンジュちゃんに、会いに行ったとしか思えない!」
「やはり!」
ルチアーノが、大きく頷き、ネタ帳を取り出す。
ロクシーの目が、ギラリと光る。
「そして、何かを見たか、聞いたかしたのよ。
もの凄く、衝撃的な、ね」
「ど、どうして、それが分かるのですか……!?」
声を上ずらせるルチアーノに向かって、
ロクシーが振り返り、ニヤリと笑う。
「決まってるでしょ。
普段、あんなに冷静沈着なルシアンが、
恋人でもないアンジュちゃんに、
『捨てられる』なんて、言わない!」
「……なるほどです!」
ルチアーノのペンが、ネタ帳を走る。
「でもなー……」
ロクシーが、腕を組むと、言った。
「アンジュちゃんに、さっき電話したけど、超普通なんだよね!
仕事も、絶好調らしいし……。
特に、変わったこともないらしいし……。
ルシアンにも、ずっと会ってないらしいし……」
トントンと、指先で腕を叩くロクシー。
ルチアーノの喉が、ゴクリと鳴る。
そして――
10秒後。
ロクシーが、ゆっくりと口を開いた。
「あんたも、泳ぎなさい」
「………は?」
ポカンとしているルチアーノに、
ロクシーが、ビシッと指をさす。
「あんた、ルシアンのズッ友でしょ!?
一緒に泳いで、ルシアンの心を開かせる!
そして、なるべく多くの情報を引き出すの!
分かったら、行け!」
ルチアーノは、
「了解でありますッ!」というや否や、
黒スーツのまま、プールに飛び込んだ。
そうして、ルチアーノがプールに飛び込み、
スーツが、水に触れた瞬間――
天界の執務室にいた、大天使ガブリエルに、
眩い光が、降り注ぐ。
次の瞬間、ガブリエルは、
神の玉座の前に、跪いていた。
無窮の光の中から、
神は、穏やかに告げる。
「地上にて、聖人の効力を見届けよ。
そのため、そなたの恩寵は消す」
「御意」
ガブリエルは、
大天使として、即座に恭順を示す。
だが――
その胸の内では、静かに、悲鳴を上げていた。
……聖人の効力を見届ける!?
どの?どの聖人……!?
数え切れないほど、居ますけど!?
世界を巡るなら、
恩寵があった方が、絶対、良いのでは!?
恩寵を封じる必要性!!
何をどうすればいいのーーー!?
もちろん、神へ問い返すなど、
大天使として、論外。
ガブリエルは、完璧な姿勢を崩さず、
心の混乱だけを、押し殺す。
そして、煌めく無数の光に包まれたガブリエルが、
目を開けると――
そこは、ハリウッドのガブリエルの器、
“アンジュ”の自宅の、豪華なリビングだった。
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