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【完結】地上でいちばん難しいバレンタインの贈り物 〜天使が天使に恋してます!?悪魔と軍師も混ざる秘密の奇跡〜  作者: 久茉莉himari


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2/16

【2】バレンタイン初任務、開始五分で即撃沈〜「私に何の関係がある?」と言われたので、パッと消えました〜

ルシアンは、

あの後すぐに、天界へと戻った。


目的は、ただ一つ――

大天使ガブリエル。

すなわち、アンジュに会うためだ。


元々、ルシアンは、

ガブリエルの直属の部下である。

会う理由など、いくらでも用意できる。


――できる、はずだった。


しかし――


耳の奥では、

あの声が鳴りやまない。


『恋のチーャンス❤️❤️❤️』


ルチアーノの歓喜の叫びが、

まるで呪いのように残響していた。


ガブリエルの執務室の前で、

ルシアンは立ち止まる。


深く、ひとつ。

そして、もうひとつ。


ゆっくりと、呼吸を整える。


鼓動は速い。

指先は、わずかに冷たい。


――私は大天使ルシアン。

その名に恥じぬ言動を取る責任がある。

それに……これは偵察という任務。

最優先任務なのだ……!


何度も、自分に言い聞かせる。


すると、不思議と、

胸のざわめきは、少しだけ静まった。


そして――

静かに、扉をノックする。


中から、すぐに返事があった。


「ルシアンか? 入れ!」


鈴の音のように澄み切った声。


その声を、

数週間ぶりに耳にした瞬間――

ルシアンの思考は、完全に停止した。


まるで、

脳天に雷を落とされたかのような衝撃。


それは、甘い。


戦場の炎も、咆哮も、死線も、

すべてが嘘だったかのように消え去り――


残ったのは、

清らかで、やさしく、甘く温かな音色だけ。


「ルシアンよ? どうした?」


その一言で、

ようやく我に返る。


――ガブリエルさまをお待たせするなど……

何と私は、不届き千万なのか……!!


自責の念にかられながら、

ルシアンは扉を開いた。


「失礼いたしました。

少々、お話がありまして……」


そう告げた瞬間。


目に飛び込んできたのは、

にっこりと微笑むガブリエルの顔だった。


心臓に、直撃。


「久しぶりだな!

報告書ならば、ミカエルへ提出してあるぞ!」


―――美し過ぎる……!!


脳内で、悲鳴が上がる。


ルシアンの瞳は、

無意識に戦士のそれへと変わり、

顔面は赤を通り越して、火山のマグマ色へ。


指先は、制御不能なほどブルブル震え、

喉は、からからに乾き、声が出ない。


それでも――

必死に、言葉を掴み取った。


「アンジュさま……いえ、ガブリエルさま……

バレンタインデーのことなのですが……」


ガブリエルは、

きょとんと首を傾げる。


「バレンタインデー?

聖バレンタインの祝日だな!

聖人の祝日と、私に何の関係がある?」


キラキラと音がしそうな笑顔。


その無邪気な一言で、

ルシアンの世界は、音を立てて崩れた。


顔色は一瞬で、深海の蒼へ。


「……何でもございません!

失礼いたしました!」


叫ぶように、そう告げた次の瞬間――


光が弾ける。


気づけばそこに、

ルシアンの姿はなかった。


まるで、

最初から存在していなかったかのように。


パッと消えた。



 


それから地上へ戻ったルシアンは、

ルチアーノに水晶玉で位置を特定され、

世界各地を追いかけ回された。


マリアナ海溝。

アフリカ、ニーラゴンゴ火山のコンゴの溶岩湖。

果ては、グリーンランドの氷河裂け目の、ド真ん中。


逃げても逃げても、

次の瞬間には、視界に現れる。


ついに観念したルシアンは、

小さくため息をつきながら、事情を語った。


「……アンジュさまに、バレンタインデーのことを聞こうとしたら、

『聖人の祝日と私に何の関係がある?』と言われた……」


それだけを、簡潔に。


無表情の視線は床へ。

声は最小限。


そうしてすべてを話し終えたルチアーノは――


深紅のシルクのハンカチで目元を押さえ、

肩を震わせた。


「ルシアンは……撃沈しております……!

完全なる、恋の大破です……!!」


一方――


ロクシーは、

新しくオーダーした生ハムとアボカドサンドにかぶりつき、

もぐもぐと咀嚼しながら、ひと息つく。


ごくん。


そして、低く言い放った。


「……だから?

あんたの、その作戦名だけで、

失敗の未来しか見えないんだけど?

当然の結果でしょ?」


情け容赦ゼロ。


その瞬間――


「うおおおおお!!」


ルチアーノが椅子から飛び降り、

床に正座し、

額が床に着く寸前まで頭を下げた。


「……どうか……!!

バレンタインの初恋成就の脚本を……!!

ルシアンだって……!

人間界のバレンタインデーの意味を理解しているからこそ、

落ち込んでいるのでありますッ!

純情!ラブ❤️」


ロクシーは、

呆れたようにため息をついた。


「……あのね、おじさん。

順序、間違ってない?」


ハッと顔を上げるルチアーノ。


「俺様……何たる不覚……!!

ロクシー先生!!

10万ドルでは、いかがでしょうか!?」


ロクシーはスマホを取り出し、

口座アプリを確認しながら、即答した。


「オッケー! 前払いね!」


こうして、

《バレンタインデーミッション》は、

ルシアンの意志とは関係なく、

強制的に次の段階へと突入したのだった。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

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