悲報
悲報。俺の変身シーン、各務刹那の配信にがっつり映りこんでいた。
だよなー、ブレス吐く相手にドローン引き連れては行かないよな、ぶっ壊される可能性あるし。あの時他のドローンもあったから、彼女がドローンを残して行っているのに気が付いていなかったんだよな。
その結果、俺のあの露出狂スレスレの変身シーンは数千人の視聴者に見られてしまったわけだ。
まだ下層に行くための移動中だったため普段に比べて人数は少なかったって話だけど、何の慰めにもならない。実際変身シーンの切り抜きとかSNSに速攻流れててそっ閉じしたし。
「はぁ……」
ダンジョンにほど近い位置にある協会御用達のホテルの自室に戻ってきた俺はため息を吐きながら手に持っていた荷物を放り投げると、ベッドの上に身を投げる。その振動で胸がブルンと揺れた。まぁ今はノーブラだしな……明日下着買いに行くか。さすがにこの状態でいつまでも動き回る事はできないし、戦闘時の衣装で歩き回るのも論外だ。地上をあんな格好であるいていたらさすがに人目を集めすぎる。それでなくとも変身後の俺はかなりのレベルの美少女だ。──ベースの顔そのままのはずなのに女性的な骨格に変わるせいか中性的な感じが完全に抜けるんだよな。その結果元の顔なら"可愛いけどそクラスに一人はいるくらいのレベル"だったのが"あまりみかけないレベルの美少女"になってしまう。人口密集地ならともかくこんな田舎ではそれだけでクソ目立つのに、あんなヒラヒラした服を着て歩き回っていたら人目を集めるなんてレベルじゃなくなる。
ちなみに今はダンジョンに潜る前に協会のロッカーに預けてた服を着てるんだが……まぁ当然だけど胸元がきついきつい。それに身長とかは変わってないから丈は問題ないんだけど胸以外も体つきが女性のものに変わっているから、正直着づらいんだよな。
だから本当だったらとっとと男の姿に戻りたかったんだけど……
《久遠があんな依頼受けちゃったのが悪いんでしょ?》
「そうなんだけどさぁ……」
この体から元に戻っていないのは、あの後戻った協会で房総ダンジョンの探索の依頼を受けてしまったからだ。
今回次元移相した事によりいくつかの階層の様相が大幅に変わり、これまでの情報が使えなくなった。こういった場合探索者の安全の確保の為、上位の探索者によって事前探索を行う。今回も当然それを実施する事になった。だが今回、その上位の探索者がなかなか捕まりそうにないそうなのだ。というのも現在九州のダンジョンで魔物の大発生が起きており、それが地上に溢れださないように特1級の”勇者”や最古参の1級探索者”農狂”を含めた準1級以上の実力者の大部分がそちらに貼り付いている状態だからだ。緊急性で言うと九州の方が遥かに高い状態なのでこれは仕方ない。
というわけで、地竜を一撃で倒すという成果を見せた俺に声が掛ったのである。……まぁ下層は中層に輪をかけて広いので、戦力というよりは飛行能力が期待されている気配はあったが。
ちなみにこういった依頼は断る事は当然可能だ。だけど俺は断らなかった。いや、断りずらかったんだよ。帰還者というのは当然協会にも申告済みだったけど、変身の事は話さなかったから。……いや、帰還者としての聞き取りの時はもう変身できないと思っていたので黙っていたわけではなかったんですよ。知らなかっただけで。
「それにまぁ……配信するなら最初は、こっちの姿がいいだろ」
《あ、配信するんだ》
「もはや静かに暮らすのは無理だし、だったら配信して生活費の足しにした方がいいだろ」
公式サイトで行われるダンジョン配信は視聴数に応じてある程度の入金があるし、投げ銭機能もある。ぶっちゃけ上位の探索者だとダンジョンで資源かき集めてくる方が金にはなるが、貰えるものはもらっておきたい。
《私久遠のそういう合理的なところ好きよ》
「それに、このまま放置しておくと俺のキャラクターがとんでもない事になりそうでなぁ……」
ちらっとだけ覗いただけでもすでにSNSでは俺のキャラクターには様々な予測が挙げられていた。それは大部分が妄想なわけではあるが、こういうのは放置しておくと何故かその妄想から産まれた設定を信じる人間が現れて、しかもその設定内容でこちらに絡んでくることになるのである。なのでそういった余地が産まれないように俺に関する情報は概ね公開してしまうつもりだった。別にしばらくは静かに暮らしたかっただけで、隠しておきたかったわけでもないしな。いや変身シーンだけは隠しておきたかったけど。あれ俺の趣味でやっていると思われるの嫌だし。
《フフ……ついに私の久遠がこの世界中の人間に知られる事になるのね!》
世界中の人間には知られたくないなぁ……ダンジョン界隈だけにして欲しいけど無理かなぁ。