異世界人
「お風呂! 絶対ね!」
追加の一撃を放って、るーは俺の前から姿を消した。
目の前には巨大な一隻の船。背後では相変わらず荒木さんと東風ヶ瀬さんが黒い機体とバトっている。
俺は再び下層へと戻ってきていた。
しかし、本当にるーはなんでそんなに俺と風呂に入りたがるのか。確かにファーマントにいた時は一緒に入る事多かったのに、こちらの方に来てからは一緒に入った事はないのは事実だけど。ただそれ別に変に気を遣ってとか意識してとかじゃなくて、普通に今の俺の部屋の風呂が小さいからなんだけどな。そもそも一人暮らし用の部屋だし……かといって銭湯とかを利用するのはなぁ……俺の外見は大分知れ渡ってるし、中身が男であることは公言している訳で……さすがに不味いだろう。
近々二人で暮らしても狭くないように部屋数多い所に引っ越しは考えてるし、それ迄は我慢してって説得するか。人前で言わないでくれるのと二人は行っても大丈夫なくらいの広さがあれば、一緒に入る事自体は構わないし。
ちなみにだけど、今のコメント欄の反応としては『トワちゃんとルーティエちゃんが一緒にお風呂だと』『てぇて……いやすみません、正直言ってエロさを感じます』『そのお風呂のお湯いくらですか』と変態紳士が湧いているくらいで好意的である。ただなぁ、こういうの悪意のある切り抜きされて、それを見た叩くのが好きな連中が叩いてくるんだよなぁ。まぁプチ炎上程度ですぐ鎮火するレベルにはなるだろうけどさ。無駄に燃える必要はないんだよね。
まぁとはいえ今更どうしようもない。とりあえずこの件は忘れよう。
「波多野さん、そちらへ向かいます。ナビお願いします」
『了解した。まずは甲板の後ろの方へ向かって欲しい。そこに中へ入るための入り口がある』
「了解です」
事前に波多野さんには連絡してある。なのでその波多野さんに指示を貰い、俺は船の中へと進んでいく。
船の外面は昔の木造船のような外見だったが、それは見た目だけだったらしい。内部は近代的なものになっていた。そもそも本当に木造だったら最初の墜落で崩壊してるだろうしな。
波多野さんのナビに従い、俺は船の中を進んでいく。波多野さんはその能力で俺の位置を把握しているのかその都度明確なナビをくれる為迷う心配もない。そうして俺は船の恐らくは丁度中間位にあるであろう一つの部屋へとたどり着いた。
「やあ、助かるよ」
その部屋には困り顔の波多野さんと、部屋の端の方で寄り添いあう小さな二つの人影があった。
陶磁器のような滑らかな白い肌。艶やかなブロンドの髪。こちらの方を不安そうに見る碧い瞳も含めた顔は恐ろしい程に整っている。
今の俺も大概美少女だとは思っているけど、この二人は別物だ。それは至高の美を表現するために作られた芸術品のようだった。
その美しい顔を、今は恐怖と困惑でゆがめていたが。この表情を見ただけで、大抵の人間は罪悪感を感じてしまうかもしれない。
まぁ俺はそういうのないけど。彼女達ほどではないにしろ、周囲美形に囲まれてたしね。
「よろしく頼むね」
「任せてください。……アイリス、頼むよ」
《アイリス様にお任せよー!》
明らかに調子になった感がある返答と共に、俺が眼前に掲げたアイリスからケーブルのようなものが伸びる。その光景に異世界人?は一瞬ビクッとしたが、逃げる様子はない。相変わらず怯えている感じではあるので腰が抜けて逃げようにも逃げれないのかもしれないが。こちらとしては好都合である。その間にもケーブルはするすると二人の方へ伸びていき、そこで二股に別れて二人の髪の中へもぐりこんでいく。ちなみにこれ脳内に直接潜りこむとかエグイことはしていない。あくまで頭皮に触れるだけである。
この状態で、俺に出来る事は特にない。時たま外から爆音やら振動やらが届く中そのまま波多野さんと一緒にじっと待っていると、二人の表情から怯えの色が消えた。視線は俺の持つアイリスをじっと見ているようで……これは交渉が上手くいっているのだろうか?
そうして、大体2分ちょっと経過した頃だろうか? これまで二人ともやりとりに集中していたのか沈国していたアイリスの声が脳内に響いた。
《おっけ、話はついたわ》
いや、早すぎるだろ。有能交渉人か?
《もっと褒めてもいいのよー!》




