変身魔法少女は異世界からの帰還者
《きゃー!久遠ちゃん可愛い!素敵!》
久々にこちらの姿になったせいでやたらと興奮しているアイリスの脳内音声をスルーしながら、俺は各務さんの方へと視線を向ける。苦戦しているようなら手を貸そうと思ったが……さすが準1級といったところか、まだ倒しきれては居ないようだけど普通に地竜を翻弄しているようだった。このまま任せてしまって問題ないだろう。
他に周囲に魔物の姿は見えないし、これで一安心、かな?
《どう、久々の体は》
「しっくりくるのが何ともいえない……」
言葉だけなのにニヤニヤしているのが感じ取れるアイリスの声に、俺は正直にそう答える。それはそうだ、ほんの3か月前まで7年間付き合ってきた体なのだ。胸の重みや股間の喪失感も特に違和感を感じないで受け入れられているのも仕方ないだろう。
……さて。この姿になった以上この程度の相手であればなんとかなる。継戦能力の低い体なのであまり長々と彷徨う事になったら不味いが、空から観察すればルートの確保も容易だろう。問題点は少なくともここにいる人間には俺が"帰還者"、しかも稀少な特殊能力持ちと気づかれた事か。……配信に映り込みたくないけど、この後を考えると転身を解くわけにもいかないし、仕方ないか。あの露出狂みたいな変身シーンが各務さんの放送に乗らなかっただけで良しとしよう。……あっちの面子が誰も配信していないと助かるんだけどなぁ。
◇
今から十年前に岐阜県を皮切りに日本全国に出現したダンジョン。それまでの現代社会の常識とかけ離れた存在であるそれは、すでにいろんなことが判明している。
ダンジョンはこの世界とは別の異世界の影響を受けて発生したものであり、この世界の一部が異世界の情報に書き換えられる事によって出現してしまった事象であること。
この世界を含め全ての世界には魔力が存在していること。この世界ではこれまで認識されていないことで休眠状態にあったが、異世界の影響を受けた活性化した事。
ダンジョンに出現する魔物はこの魔力を纏った攻撃でないと有効打にならない事。
そして魔力の扱い方などもだ。
これらの事は、科学者達の研究の末解明された──訳ではない。それはそうだ。これまでの常識が全く通用しないような事をたった十年で解明するなんて、どんな優れた学者でも不可能だろう。
ならば判明した理由は単純。情報提供者がいたからだ。それが異世界帰りの存在"帰還者"である。うん、ひと昔前のファンタジー系の物語の定番だった存在だけど、異世界が本当にあったのだ。当然異世界転移していた人間だっているのである。
その"帰還者"の一人、異世界でも賢者的存在であったらしい"大魔導"。彼女のもたらした知識によりダンジョンは"化け物を生み出す脅威"でありつつも、"未知の資源を生み出す鉱脈"へと変質した。それにより現在日本は大ダンジョン時代を迎えているわけだ。
そしてこの俺、如月久遠も7年前に異世界に転移し、3か月前に帰って来た"帰還者"の一人なのである。