面倒な相手
「はぁ!?」
聞いた事もない声でなれなれしい口調で発せられたその言葉を聞いた瞬間、裏返ったそんな声が漏れてしまったのは仕方ないと思う。
コイツは何を言っているんだ? 先ほどの俺は見ればわかるレベルで優勢に戦っていたし、なんならコイツが突っ込んできたことの方が危険だったのに、助けにきただと?
意味が解らん。コイツには何が見えてるんだ?
「危なかったね。俺が来たからもう大丈夫だよ!」
いや、なんなんだよ、コイツ……いや普通に抗議すべきだよな。俺は呆れとイラつきに支配された思考をリフレッシュしてから、声を張り上げる。
「突然何のつもりだ! こっちが戦ってるのに声を掛けずに乱入するのはルール違反だろう!?」
「怖かったのかな? そんな虚勢を張らなくても大丈夫だよ」
……日本語通じてる?
「安心して、この後も俺が守ってあげるよ」
「いや、普通にあと少しで倒せる所だったんだけど?」
「……だからそんな虚勢はいいんだって。さっきだって攻めあぐねてたじゃないか? 素直にお礼も言えないの? 最近人気だからって調子のってんじゃねぇの?」
言い返した俺に対して返ってきた言葉にはイラつきが明らかに見え、言葉には露骨に棘が含まれていた。
いや、その言葉とか完全にブーメランじゃないの?
というか、
「さっきの俺、攻めあぐねてたように見えた?」
カメラの方に視線を向けてそう問いかけると、即座にそれに対する応答がコメントとして流れる。
『どう見ても押せ押せだったでしょ』
『あえて言うなら一番最初の時だけだよね?』
『アイツ目が腐ってるのでは?』
『調子のっているの蔵元の方だよね』
だよなぁ。
コメント欄には、俺の方を肯定する意見だけが流れる。うちのチャンネルのリスナーだからま当然っちゃ当然だけど、否定的な意見はまるでないあたり、誰もそんな風に見えていなかったということだろう。多分あいつ実際の戦いなんかまともに見てなくて、先入観だけで話してるよな。俺の主の力"結界"ってのだけ知ってて、守りしかできないとか勘違いしてそう。
そうやって俺がリスナー達とやりとりをしていると、頭上からよりイラつきを増した声が降り注ぐ。
「なあ、助けてもらったのにお礼の一つも言えないのかよ。今度危険になっても助けてやらねぇぞ!」
「くー。あいつどこかに飛ばしちゃっていい? うるさい」
「一応同業者だからな、やめとけ」
正直俺もるーと同じ気持ちではあるんだが、いくら意味不明に絡まれているとはいえ直接的に危害を与えるのは不味いだろう。
『トワちゃん、これ相手にしなくていいと思う。どうせアイツ、協会の方に厳重注意くらうし、何らかのペナルティ受けると思う』
『さっきなんか、トワちゃんが回避しなければ危なかった所だしな』
『4級からようやく3級にあがったばかりの奴が強力な力を持ったからって、のぼせ上がりすぎだろ』
……成程、少しだけアイツの行動が理解できた。先ほどの俺の戦いを見て、2級や準1級の人間が苦戦をしているなんて判断はしないだろう。だがこいつは実力に見合わない力を手に入れただけのほぼビギナーだ、戦況を見る力がまるで足りていないんだろう。
単純にレアエネミーと戦ってる姿が見えて、しかもその戦っている人間が最近話題になっている美少女だったから関わりを作ろうと思って、突っ込んできたわけだ。
「これが噂になっている魔法少女様かよ。外見は可愛いみたいだけど、見栄っ張りの性格ブスなだけだったとはな。がっかりだぜ、助けるんじゃなかった」
リスナーの言う通り、これは相手にする必要はないな。これ、自分の中にある考えがすべてで答えは決まっていて、人の話は都合のいい話以外はかけらも聞く気がないわ。ネットとかで変に検討違いな事をいってイキッているタイプ。自分の中の答えに合う反応だけを求めて、意に沿わない意見は理解もしようとしないタイプ。
一応理論的に攻めれば黙らせる事も可能だとは思うけど、それこそ相手にするだけ無駄に体力を使うだけだからな。……もう無視しよう。
はぁ、とため息をついてからるーに告げる。
「るー、今日は帰ろうか」
「ん? いいの? ダンジョンの入り口の所の部屋でいいんだよね?」
「うん」
倒れ伏しているケンタウロスはこの不毛なやりとりの間にすでに欲しい部分が消失してしまったので、もう不要だ。残りの霊力的にはまだ探索は続けられるけど、この中層にそのままに残っているとアイツに変に粘着されそうな気がして、面倒が過ぎる。今回目的の物は手に入っていないけど、ケチがついたし元々レアエネミーではあるから一回で確実に入手できるとは思ってなかったのでまあいいだろう。
何やらまだ拡声器?越しにわめいているけど、最早ちゃんと聞く気はない。ダンジョンを出る時に手続きをする必要があるから家に直行で帰れないから、一度入口の所に戻る必要がある。そこで手続きの時にこの件の報告して後は協会に任せよう。
「それじゃあ飛ぶよ。おててつなご」
「はいよ」
「ん」
差し出した手を、るーがぎゅっと握ってくる。別段つながなくても一緒に転移はできるけど接触してた方が楽らしいからね。
そして彼女も蔵元の声を最早気にせず満面に笑みでこちらに向けて言った。
「ちょっとだけ汗掻いちゃったし、帰ったら今日こそ一緒にお風呂はいろーね!」
「いや、だから無理だって」
うちのお風呂そんなに広くないんだからさ。




