横殴り
「なんだアイツ……っと!」
口を開いている途中にケンタウロスが足のうち一本を叩きつけて来たので、それを回避しつつ今度は渾身の力にアイリスを操作する勢いをのせて叩きつける。更にインパクトの瞬間にキューブ状の結界を一つ作りそれを結界の刃に叩きつける事で更に威力を上げて切りつける。
「……いけるな」
叩きつけた一撃は足を大きく弾き飛ばしただけでなく、その足の半分くらいを大きく断った。うん、こないだの房総ダンジョンで遭遇したデカブツほどの耐久力はないな。ここは中層だから移動できる範囲に制限もあるし、このまま倒しに行くか。
……というかだ。あの鎧間違いなくこっちに向かって来てるよな。アラクネと同じくらいのサイズの機体だ。
「あんな奴燕三条ダンジョンに存在してたっけ?」
事前に一通り確認はしてきたけど、あんな奴は存在していなかったハズ。何かの変異体か或いは新規発生した奴かと思ったが、その答えはすぐにコメント欄からもたらされた。
『ああ、あれ蔵元だよトワちゃん』
「蔵元?」
『ここのダンジョンでレアアイテムげっとした幸運な奴』
「ああ!」
そういや入手したレアアイテム、ロボットって話だったな。あれかぁ!
「でもなんでこっち向かってるんだろ?」
『さぁ?』
『レアエネミー見かけたから倒しに来たんじゃない?』
『アイツ確かアイテム取得前は3級上がったくらいの実力だったハズだから、トワちゃん達に気づいてないかもね』
「成程」
ちなみにこんな風にコメント欄とのやり取りをしつつも戦闘は続けている。……確かに攻撃は結構激しいし耐久性も高いけど、攻撃の種類もいくつかあるけど……その種類それぞれの攻撃の内容は単調でパターンがないものだ。すでに概ね読み切れてしまったので、後は先ほどと同じ要領で攻撃を叩き込んでいくだけだ。正直な所、後1分もかからずに倒しきる事ができる──だけど。
「アイツ、速度落としてなくない?」
すでに残り距離は数百mという所になり、俺が戦っている姿も見えているだろうに減速する様子がない。むしろ加速しているような……ケンタウロスを着々と削る間も白い機体から目を離さないでいるウチにもどんどんその姿が大きくなる。残り100mをきってもやはりその速度が落ちる様子はなかった。
あいつ、このまま突っ込んでくる気か? 何考えてやがる!
別段アイツを止める方法はいくらでもあるんだが、アレがダンジョンの生み出したエネミーではなく探索者であるなら下手に手を出すのは不味いかもしれない。そう考えて、あと少しで倒せそうなケンタウロスの元からるーがいる場所の方に大きく跳び退った。さすがにあの巨体同士の衝突に巻き込まれるのはめんどくさい。変に結界張ってダメージ与えちゃうのもあれだし。
そうして跳躍した後アイリスを操作してるーの横に着地したと同時、ついに白銀の鎧の機体がケンタウロスと衝突した。途中で抜刀して振りかざしていた剣が上段から大きく叩きつけられ、直前まで俺と打ち合っていた上に大分ダメージを受けていたケンタウロスはそれを回避する事も出来ず──突進の勢いも乗った一撃はケンタウロスの頭部から唐竹割の様に胸元辺りまでを切り裂き、そこで動きを止めた。
さすがにそこまでのダメージは致命傷であったらしい。ケンタウロスは一度飛び込んできた白銀の機体に手を伸ばしかけたが、途中でその腕は力を失い、地面の上に崩れ落ちた。
「ええー……」
その光景に、思わず口から声が漏れる。その声に含んでいる響きは当然呆れだ。
『これはひどい』
『何考えてるんだコイツ、キチガイか?』
『ここまでひどい横殴り初めてみたぞ』
『さすがにこれは協会からのお叱り案件』
だよなぁ。どうやらコメント欄の皆も俺と同じように呆れているようだ。
たいたい俺はさすがにそんなヘマは踏まないけど、普通の人間だったら巻き込まれて酷い事になってたぞ。そこまでケンタウロスのドロップを狙ってやがったのか?
眼前に転がるケンタウロスはすでにその巨体が崩壊し始めている。図体のでかい奴はマナに戻るのも早いんだよな。ぶっちゃけダメージの半分以上はこっちが与えてるし、現時点では幸いな事に獲得した部位はまだ残っているから確保したいんだが……ラストアタックはこの飛び込み野郎だし、その飛び込み野郎が移動せず崩れ落ちたケンタウロスの元に立ったままのためそういうわけにもいかない。
というか、ドロップを取る気配がないんだけど、だとしたら本当に何のつもりで横殴りしてきやがったんだと眉をひそめてそちらを見上げていると、白銀の機体がこちらの方へ向き直った。そして周囲に拡声器越しのような声が響き渡る。
「トワちゃん! 無事だったかい!」




