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地竜種


「とにかく、上層へのルートを探すしかないわ。このまま壁伝いに移動しましょう」


一通り状況を話した後、各務さんがそう宣言した。彼女達は別にパーティというわけでもなくたまたま巻き込まれた異なるパーティーだったが、俺も含めた残りの面子は全員3級か4級だ。それに対し、各務さんは準1級。彼女がリーダーシップを取る事に誰も文句などなかった。


「ま、私が一緒で良かったわ。頑張って探しましょ」


恐らく俺から脱出に対する糸口がみつからなかったので気落ちしたのだろう。うつ向きがちになってしまった4級の女性二人に向けて、各務さんがそう笑いながら話しかけていた。


おそらく彼女自身は元気づけるために言ったのだろうが、言っていることは紛れもない事実でもある。ここが中層であるなら4級では明らかに力不足、魔物に遭遇でもしたら命を落とす可能性は充分にある。その場に探索者でもトップに近い準1級の各務さんがいたのは、彼女達にとっては不幸中の幸いだったと言えるだろう。下層を主戦場とする準1級なら、中層の魔物なら圧倒できるからな。女性達もそれを思い出したのだろう、上げた顔にはやや固いものの笑みが浮かんでいた。


さすが準1級だなぁ、と思いつつ俺は彼女達の後ろを歩く。右側には男性陣二人。


案の定だけど最初女の子、しかも高校生くらいの年齢に勘違いされ全員で俺を護るフォーメーションを取られそうになったんだよね。だけど落ちる前にウェアウルフを討伐した事を話すと、この配置になった。先頭は各務さん、後方を3級と3級に準ずる実力を持つ俺で固めて、4級の二人を護る形とうわけだ。俺としても異論はないので素直に従っておく。……すぐ横に立つ男性が俺の事が男だと信じ切れてないのかちらちら見てくるのがちょっと鬱陶しいけども。顔じゃなくてちゃんと体見ろー? 喉仏もあるし肩幅だって男の体型だろ? 小柄な上に線も細いけどさ。


まぁそんな視線は受け流しつつそうして数分程歩く。途中ウェアウルフや他の魔物に数度遭遇したが、いずれも各務さんがあっさり倒してしまい俺達は出番なし。無双とも呼べる光景に他のメンバーの緊張も解けたようで表情に余裕が出てきた。今の所出口は見つかっていないが、彼女と一緒なら何も心配はいらないとそう感じたんだろう。


──そういった考えは、大抵裏切られるものだが。


「止まって」


これまで淀みなく歩を進めていた各務さんが、小さい声で我々にそう告げて立ち止まった。その視線がある一点に向かっていたので、俺達はその視線を追い──そして固まった。


そこには、オオトカゲをそのまま巨大化させたような巨躯の怪物がいた。


「なんで……こんな所に地竜種が中層に……」


隣の男性が、ごくりと唾をのんだ後、そう漏らす。


地竜種。その名の通り、大地を闊歩する竜。種という言葉の通り地竜というのはその系統の魔物の総称であり、さまざなタイプが存在するが……その外見以外に彼ら全体に対していえることは、彼らの生息域は下層であるということ──中層で現れていい魔物じゃない。


「ひっ……」


女性のうちの一人が悲鳴を上げて腰を抜かしかけるのを、もう一人の女性が慌てて支える。だがその女性も足ががくがくと震えていた。いや、女性陣だけではない。男性陣二人も固まってしまっている。


それもそうだろう、3級や4級なら遭遇した事がないレベルの敵なのだから。


……こちらに気づかないでくれれば、と甘い期待を浮かべたが、それも打ち砕かれた。横たわっていた地竜がその巨体をゆっくりと起こしつつある。そしてその瞳は、明らかにこちらを捉えている。


これは……覚悟を決めるべきか?


《準備はいつでもおっけーよ!》


脳内に響く声が、頼もしい言葉を伝えてくる。


自身の持つ切り札の切り時か。そう思って前に進み出ようとした時、


「トワさん」


地竜から視線を離さない各務さんが声を掛けてきた。ちなみにトワというのは先程名乗った偽名だ。有名配信者の配信の中で本名とか出したくないし。


各務さんはこちらは向かないまま言葉を続ける。


「あの地竜はインパクト種になります……過去に倒した事があるので安心してください。ただ……」

「ただ?」

「あの種は炎の代わりに口から衝撃波を発生させます。なのでこの場で戦う事はできません。……この場を頼めますか」


3級がいるのに4級の俺に? と思ったが、その3級の男二人ガチガチに固まっているから無理か。だから見た目上落ち着いて見える俺に言ってきたんだろう。切り札もあるし問題ないので是を返すと、彼女は「よろしくお願いします」と告げて凄まじい勢いで地竜の方へと駆けて行った。


確かに準1級なら普段から下層に潜ってるハズなので、彼女の言葉は間違いないだろう。下手に手を出すよりもお任せした方がいいだろうな。そう思って他の4人に意識を向けようとした時だった。


《久遠! 前方の壁面、何かいる!》








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