働かざる者
「は?」
「エルメイアに一度報告に戻ってこいっていわれてるんだよー。めんどくさいけど、ちゃんとやらないともっと面倒な事になるからー」
「いやそうじゃない」
俺の上げた疑念の声を、るーは「来たばっかりなのに何故帰るのか」という意味にとったらしく、帰る理由を話し始めた。
だが、俺の疑念はそこじゃない。
俺達オリジナルの杖の使い手の7人の中でもリーダー格になる"時間"のエルメイアは生真面目な性格をしているので、るーをこっちに来させるにしたって定期的に戻って報告を求めるであろうことは予測がついていた。だから一度向こうに帰る事に疑念は感じていない。
俺が疑問を感じたのは、今日帰るという点だ。
「るー、こっちに来るのにカートリッジ4個分のマナ使ったんだよな?」
「ん」
いろいろ検査や事務手続きでドタバタしていたとはいえそれ以外で二人で話す時間は充分にあったので、その辺の事情は聴いている。
「だったらまだマナ溜まってないだろ。ファーマントとはマナの溜まり方違うんだから」
「……あ、そっか」
俺の言葉にるーは自身の杖を呼び出し、そのカートリッジのマナ残量を確認する。
「あー、本当だ。この溜まり方だと、こっちの時間で3、4日位はかかりそう」
「そうそう、3、4日くらい……え、それだけ?」
俺がこっちの世界に戻ってきてからカートリッジ一個目が溜まるのに1ヵ月以上が掛かっている。それ以降は徐々に早くなっているけど、なんでるーの方はいきなりそんなに早く……?
という疑問に対する答えはすぐに伝えられた。脳内に直接。
《私が蓄積したデータをルーティエの杖の方にも適用させたわ! これで彼女の杖のチャージ速度も私と同等よ!》
あー、そっか。そう言う事もできるんだ。成程ね。
俺は空間からアイリスを取り出すと、ぺちぺちとその杖の中ほど辺りを数度軽くビンタする。
《何? 何? ご褒美かしら!》
いや何でだよ。たまに思うけど、お前本当に自称元女神か?
まあやってることはともかく状況から考えればご褒美と思うのもやむなしか。るーの杖のマナのチャージ速度が上がるのはメリットでしかないもんな。
ただ俺はここまでチャージ速度が遅くて今も満足にたまらず男の姿に戻れなかったりすることから、割とあっさりるーの方はチャージ速度が大分早くなって(それでもファーマントに比べると遥かに遅いけど)ちょっともやもやしたので八つ当たりしただけである。器の小さい人間ですまん。
《いいわ! もっと! もっとよ! ……あれ、終わり?》
脳内に響く声がうるさいのとぺちぺちして気が済んだので、アイリスは格納用の空間にしまう。別にしまったところでアイリスの声は普通に聞こえるけど。
で、視線を戻すとるーがこちらを見て、こてんと首を傾げていた。
「私の事もぺちぺちする?」
「しないよ、なんでだよ?」
「私もご褒美欲しい」
「いやご褒美じゃないからな?」
というかるーにも聞かせてたのかよ。
まぁ彼女の場合、叩かれたいドMとかではなく、単純に構って欲しいだけだろうけど。ベッドの横に座った俺の方に体を起こしてズリズリすり寄ってきてるからな。ファーマントでも最後の頃は暇さえあればべたべたしてきてたし……
とりあえずずりずりすり寄って頭を差し出してきたので、あごの辺りをこしょこしょしてやったら気持ち良さそうにしている。猫かな?
「……話を戻すけど、結局何日か後に一度戻るんでいいんだな?」
「ん。でもすぐ戻ってくる」
るーは更に体を寄せて俺の掌に頬をこすりつけてきた。やっぱり猫だろうか。向こうにいる時に比べてもスキンシップ過剰だけど、しばらく離れている時間があったからだろうしそのうち落ち着くだろう。というかさすがにこの感じがずっと続くのはしんどい。
そんなるーは、引き続き頬を擦りつけつつ言葉を続ける。
「ただこっちのカートリッジの回復速度を考えると向こうで全快までまった方が良さそうだから、戻ってくるまで2~3日はかかっちゃうかも」
「ああ、それがいいだろうな。そうして貰った方が俺も助かる」
「ん?」
マナは回復できるだけ回復しておいてもらった方がいい。何故なら……
「なあ、るー。俺の仕事、ちょっと手伝ってくれない?」
今回の手続きと検査の間に、協会にその辺りの申請もしてある。
こっちに長期滞在するつもりなら、ちゃんと働いてもらわないとね? 俺だって向こうに行ってた時めっちゃ働いてたんだから。




