ルーティエ
自身の頭上から現れたのは、女の子だった。しかも見慣れた顔の。
俺の事をくーと呼んだその子は俺に抱き着いてくると、そのまま頬ずりしてくる。
「久々のくーだ~」
「いや、なんでるーがここに!?」
突然の出来事の上、本来ここにいるはずがない相手の出現にパニック状態の俺は、彼女に押し倒されたままされるがままにすりすりされながらも、なんとか口にする。
「んー? 勿論くーに会いに来たんだけど?」
「そうじゃなくて、どうやってこっちにやってきたんだよ! 来るにしてももっと時間がかかるはずだったろ!?」
「んー、ちゃんとそこは説明するからちょっと待って~。今は久々のくーを堪能したい。というかくーいいにおいする。お風呂上り?」
そうるーに言われて思いかえす。
確かに風呂には入った。大勢の皆の前に姿をさらす訳だし、ちゃんと身ぎれいにしてからの方がと思って、配信前に風呂に入ったのだ。
──そう、今は配信中である。ようするに今のこの光景も配信中である。血の気が引いた。
「ちょっとるー、一回どいて!」
「んー、後ちょっとだけー。スンスンスン」
「嗅ぐな! っていうかマジどいて、皆見てるから!」
「……誰もいないよ?」
そういいつつ周囲を確認するためかるー……"ルーティエ"が体を起こしたので、それをなんとか押しのけてローテーブルの上のPCを確認する。
『なんか急に美少女同志の絡みが始まった件について』
『神配信確定』
『急に女の子が現れたように見えたけど……何が起こった!?』
『変身している時のトワちゃんと似てる格好してる……もしかしてこの子も魔法少女?』
『あーいけません、アングルがえっちすぎます』
『トワちゃん下ショーパンだったんだ。ふとももまぶしい』
『●REC』
『さすがトワちゃん、毎回配信で何かを』
『そこだ! やれー! いけー! 』
「ああああああああああああああ」
コメント欄がカオスな事になっていた。
思わずマウスに手を伸ばして配信を切りかけたが、ここで配信を切ったら完全に事故だ。いやすでにもう事故ってるんだけどここで終わったら憶測が憶測を呼ぶ。
きちんとした弁明が必要である。
問題は俺も今の状況を理解してないことなんだが……
「何見てるの?」
端末の前で内心頭を抱えているとるーが俺の背中にペタリと張り付きつつ、端末を覗き込んで来た。
そんな彼女の言葉に俺は一つため息をつく。
まずはリスナーに説明する前に状況整理しないと話が始まらないか。
「みんな、ちゃんと説明するからちょっとまってもらえる?」
「誰と話してるの? これ通信機?」
ひとまずるーへの返答は後回しにしてカメラに向けてそう告げるとコメント欄からは了承を示す反応が返ってきたので、おれは背中に張り付いたるーを横に座らせる。話しづらいので。
それから端末の方を指差して、彼女に向けて言った。
「るー。これは映像を配信する装置だ。リアルタイムで世界中に今この映像が流れているんだよ」
ファーマントは魔法も使えるファンタジー世界ではあるが、文明の発達した世界でもある。こちらの世界と仕組みは違っていたりするが似たような機能を持つものもいろいろある。テレビカメラのようなものも存在していた。
「なるほどー」
なので、その言葉だけで彼女はこれがなんだか大まかに理解できたらしい。にこーと笑うと、端末の方に向けてぱたぱたと手を振るとコメント欄が沸き立つ。
るー、見た目は小柄で守りたくなるような掛け値なしの儚げな美少女だからなー。中身はあれだけど。
んー、このままいろいろ質問しようと思ったけど、まずるーが何者かを紹介してそれから話を聞きつつ皆に説明すればいいか。
そう決めた俺は、カメラの方に視線を向けつつるーの肩に手をのせて、彼女の素性を口にした。
「皆に紹介するよ。彼女の名前はルーティエ。ファーマント出身の女の子で、向こうの世界で俺の相棒だった子なんだ」
……あれでもふと思ったけど、さっきからるー日本語でしゃべってない?




