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各務刹那


現れた人影の向こう側にドローンが見える。ということは、俺と同じ探索者だろう。であれば、協会の方に問い合わせなくても彼らにルートを聞けばいいな。幸いな事に彼らはこっちに向かって来ているようなので。……なんでこんななんにもない方に向かってるのかはわからんけど。


とりあえずこんな所に突っ立ていても仕方ないのでこちらからも近づくか……って、そういえば剣どこやった?


落ちている最中に手放してしまったのだろう、自分の手の中に剣がないことに気づきあたりを見舞わすと少し離れた所に剣が転がっていた。


……いや、今更だけど怖いな! 下手すると落下中に自分の剣で怪我していた可能性もあったことに気づきぞっとする。あの時咄嗟に鞘にしまうなりなんなりするべきだった……判断が悪いなぁ。まぁとはいえ過ぎたことを考えすぎても仕方ない。俺は転がった剣を回収すると、こちらに向かってくる人たちの方へ走り出そうとして……足を止めた。


《? どうしたの久遠》

「あれ、各務(かがみ)刹那だ」


足を止めたのは、その人影の中に知っている顔を見つけたからだ。


《知り合い?》

「いや、あの子有名配信者なんだよ」


ドローンで撮影されている映像は、公開設定にする事もできる。更に現在は協会のサイトも他の配信サイト同様にコメントや投げ銭の機能も実装しているため、その機能を利用してダンジョン探索を配信している探索者もいる……というかそういった探索者は結構多い。ちなみに、俺は今の所やっていない。


《あー、映り込みたくない感じ?》

「もうしばらくは静かに暮らしたいからなー」


俺はとある事情で、ごく最近まですごく注目を浴びる生活をしていた。それから解放されたのはほんの3か月前の事。なのでしばらくはあまり目立たずに生活していくつもりだった。収入を考えると配信活動はしたいいのは確かなので、いずれはするつもりではあったんだけど。


……普通なら有名配信者の配信に映りこんだくらいで注目を浴びる事なんてそうそうないんだけど、おれちょっと外見が特徴的だからな。といっても醜いとかじゃなくてその逆で……自分で言うのもなんなんだが可愛らしい顔をしているんだ。


いや、俺男なんだけどね? 両親──幼い頃に亡くなってるのであまり直接の記憶はないんだけど写真で見た母親は童顔の美人、父親も中性的な顔つきで、俺はきっちりその二人の遺伝子を受け継いでしまったらしく女の子よりの中性的な童顔なのである。しかも整った顔つきでもあるので、割と人目は引いちゃうと思うんだよね。とはいえ絶世の美少女というほどでもないしクラスに一人いるくらいのレベルではあると思うので、本来ならちょっと可愛い子というくらいでその場で話題になってはい終わりですみそうなんだけど……そこに男というピースが加わった場合どうなるかがちょっと怖い。


まぁだからといって、今の状況を考えれば彼らと接触しないという選択肢はありえない。……もし話題になってしまったらそれに乗る形で配信活動始めるかーと心に決めて、俺は彼らの方へと駆けだす。


どうやら彼らの目的も俺だったようで、俺が駆けだすと向こう側で各務さんが大きく手を振って来た。なのでこちらも手を振り返し、そのまま彼らの元に駆け寄る。


彼らは全部で5人の集団のようだった。各務さんの他、女性が二人、男性が二人。いずれも年齢は20代前半位と年齢も若めだ。


向こうも足を速めていたので、接触はすぐだった。各務さんは俺の元へ駆け寄ってくると、少し荒くなった息遣いもそのままに口を開く。


「貴方はどこからこの階層にやってきたの!?」


ん?


それはおかしな質問だった。普通に考えれば階層にやってくる方法なんて二つしかない。上の階から降りてきたか、下の階から上ってきたかだ。意図が読めなかったが先ほど俺の身に起きたことをありのままに伝えると、各務さん……いや他の面子も含めて頭を抱えた。


その理由を問いかけると、各務さんは彼らの身に何が起こったのか教えてくれた。


曰く、元々この階層は上層に属していた。だがあの地震の時にその周囲の壁が崩壊し、気が付けば今の光景が広がっていたそうだ。


次元(ディメンジョン)位相(シフト)……」

「恐らくね」


俺が口から漏らした言葉に、各務さんは同意を示す。


次元(ディメンジョン)位相(シフト)。単純にいえば、ダンジョンの階層が瞬く間に書き換えられる現象だ。


ダンジョンは異世界のようなものだという話をしたが、その異世界への変化が進行してしまったということになる(なのでこの現状は"深化"とも呼ばれる)。ダンジョン内で発生する魔物を放置していると発生する事象であり、通常はその兆候が見えた時点で協会が人員を投入し防いでいるハズだが、今回はその兆候は発生していなかったので、恐らく極稀に起きるというイレギュラーだろう。ここにいる人たちはそれに巻き込まれた面子というわけだ。


そして彼らが頭を抱えた理由もわかった。恐らく彼らは俺が別の階層から移動してきて、上層へのルートを知っていることを期待したのだろう。だが実際は巻き込まれただけで、しかも等級は4級。中層レベルだと4級では力不足であり基本的には足手まといだ。それは頭を抱えたくもなるだろう。



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