撤退
「はぁ!?」
「っ!? トワちゃん、どうしたの!?」
アイリスから与えられた情報に、各務さんが驚いたようにして聞いてくる。というか驚いたんだろう、隣でいきなりこんな声上げられればな。
俺は一瞬だけ考えた後、アイリスの言葉を皆に伝える事にした。この状況下で情報の隠匿は悪手が過ぎる。皆がパニックに陥っているなら話は別だが、さすがにそこは熟練者といえる準1級の皆だ、その様子はない。
「……本当か、それは」
「アイリスはそう言っています。そして彼女はこんな状況下で嘘をつきません」
話し終えた後藤原さんから問われた言葉に真正面からそう言葉を返すと、彼は一瞬の逡巡を見せた後各務さんに言葉を伝えた。彼女はそれに頷き、耳元に触れると虚空に向かって語りだす。支部で待機しているであろう職員に今俺が伝えた事も含め、状況を報告しているのだ。
……正直、予想していた反応と違っていた。
俺が伝えた事に皆は驚きの表情を浮かべたものの、否定的な反応は先ほどの藤原さんの問いくらいだけだ。そしてその問いに答えた後は、完全に俺の伝えた事を信じて動いている。
「信じるんですね」
「可能性としては想定されてたんだよ、大魔導にさ」
思わず俺が漏らした言葉に、そう答えてくれたのは泊さんだった。そうしてそのまま彼は言葉を続けようとしたようだったが、それは藤原さんが止める。
「細かい話は後だ。撤退するぞ」
「協会の方にも連絡が取れたわ。ということは門は閉じてないと思うけど、トワちゃんが言ってる事が本当ならいつ閉じるかわからないもの。急いだほうがいいわ」
「こんな所に閉じ込められるのは勘弁願いたいな、わかったぜ」
《異世界とほぼ同化した以上、元の世界から切りはなされる可能性はありうるわね》
「……わかりました」
アイリスからも各務さんの懸念に同意する言葉が返って来たので、俺もコクリと頷く。それに、マナが変質した以上格段に皆の戦闘能力が落ちている。俺がいるといってもこの場に長居はしない方がいい。
「泊。お前、今どこまでこのマナに合わせて調整できる?」
「……大体全力時の2割前後ってとこだな」
ここでいう調整とは、体内で構築する魔術の種をどこまでこの世界のマナに合わせた形に持っていくことができるということだろう。正直即座に2割前後まで持っていけるというのは天才に近いと思う。俺だったら絶対無理。
「各務はどこまで戦える?」
「身体能力強化は使えてるから戦えない事はないけど……武器強化ができそうにないから攻撃力に関してはあまり期待しないで」
「……俺も同じようなもんだな」
顔を顰めて藤原さんは顔を顰めた後、こちらの方に視線を向けた。その視線の意味を感じ取り、彼が口を開く前に求められているであろう答えを口にする。
「アイリスの力は、彼女の中に蓄積した魔力を使っています。なので、マナの変質の影響を受けずに魔術は使えます」
幸いな事に俺達はまだ門の所から数km程度しか離れていない。身体強化は可能だということだから、俺達が駆けていけば10分前後もあれば戻れる距離だろう。それくらいの間ならアイリスの魔力も問題なく残るハズだ。正直な所今回俺がついて来ててマジ良かったと思う。
「悪いが頼らせてもらっていいか。勿論俺達も出来る範囲で戦うが正直トワちゃんが頼りだ」
「それは勿論。ここからゲートまで戻るくらいだったら蓄積マナも問題ないでしょうし」
「時間かけても状況は良くなることねーだろうし、急ごうぜおっさん」
「そうだな……」
「あ、ちょっとまってください」
動き出そうとした三人の動きを声をかけて止めてから、俺は杖を振るう。すると、皆の周囲にうっすらとした直方体型の結界が出現した。
「これは……結界なの?」
「皆さんの体に対して追随する結界を張りました。大概の攻撃は防いでくれるハズです。後内側からの魔術は通すのでこちらからの攻撃は可能ですから安心してください」
「……トワちゃんの結界、万能過ぎないかしら?」
まぁ異世界でもこの結界で女神の眷属、その中でも最強の一角には立ってたので。さすがにこういった便利すぎる使い方するにはマナのコストでかいし術の組み上げも難しいからあまり多用は出来ないんだけどね。この状況下ならありだろう。




