再び
力を薄く。薄く、ひたすらに希薄に。
緻密な魔力操作を必要とする技術だが、アイリスの魔力を使うのなら容易に制御できる。だてに7年間磨き上げてきていない。
そうして希薄化させた魔力を周囲に広げていく。範囲としては……希薄化させているとはいえ消耗がないわけではないから……100m四方くらいでいいかな。
そんな事を考えていると、ふと藤原さんが眉を顰めて口を開いた。
「……? 今何かしたか?」
視線を向けられて、その反応に俺は驚く。
今やった事は、ひどく希薄にした魔力を周囲に散布して範囲内に散布してその範囲内に侵入した対象を察知する術……まぁこれも一種の結界だ。
そこそこ視界が通らない箇所があるので奇襲を回避するために展開した。これはそれほど魔力の消費はないし、100m前に接近を感知できていれば基本的に俺なら攻撃は防げるはずだからな。
んでこの魔術、魔力の感知能力が高い奴だとゾワゾワして気持ち悪いとか言われてたのでほぼ感知されないように徹底的に精度を上げたんだけど……
「……滅茶苦茶勘がいいですね、藤原さん」
「? ああ、まぁ一応経験も長いからな」
……あっちの世界で日がな戦い続けている連中だって感づけないこれに気づくの、経験ってレベルじゃないと思うけど……さすがは準一級と思っておこう。
とりあえず何をしたのかを説明したら三人とも納得してくれたので、感知領域は展開したまま俺達は探索を開始する事にした。
ちなみに最下層に到達したが、今の所は平和な感じだ。中層に比べてエリアが広い分モンスターも散っているらしく、近場には少なくとも大型のモンスターは見当たらない。
「何か見たことない奴とかいます?」
一応潜る前に情報としては下層に存在するモンスターを覚えて来てはいるが、直接見たことがあるわけじゃないし付け焼刃だからあまり自身がない。なのでそう問いかけてみると、各務さんが首を振ってこたえてくれた。
「今の所、見たことのあるモンスターしかみないわね。生えている植物も見たことあるものしかないし、変化が起きたのは中層だけなのかしら」
「だとしたら楽でいいけどなぁ」
「希望的観測はいいが、気は抜くなよ」
「わかってるっておっさん。初心者じゃねーんだから」
言葉の通り、別に油断しているわけではないだろう。じっさい軽口をたたいている泊さんもその視線は真剣で、周囲に注意を払っている。まぁ俺が感知領域を貼っている以上少なくとも近場に関しては注意は不要と思うが、わざわざ言う事でもないよな。
──その後も拍子抜けくらい平和に、俺達は下層の大地の上を進んでいく。下層はフィールドが広大な分、モンスターのエンカウントも低いし回避も容易だ。途中で俺の感知に引っかかる奴もいたがいずれもこちらに気づいている様子はなくスルーした。
そんなこんなで距離にして数kmの距離を進み、かなり遠目で複数の地竜種の姿が見えるところで俺達は足を止めた。
「なんというか……地竜の巣もいつも通りね」
荷物の中から取り出した双眼鏡でその地竜の方を見ながら、各務さんがそう口にする。
「下層に関しては、変化無しの判断でいいのかしら」
「そうだな。ここまで目新しいものは全く目にしてないし、俺達3人で下層を細かく調査するのは無理だ。一応帰りは別ルートで戻って、後の細かい分析は協会の映像分析チームに任せる感じでいいんじゃないか?」
「んだな。トワちゃんもそれでいいかい?」
藤原さんの提案に頷いた泊さんにそう振られたので、俺はコクリと頷く。方針に関しては特に口を出すつもりはないので。
「それじゃ帰りのルートは……湖の方を経由する形でいいか?」
「構わないわ」
「おっけー」
「わかりました」
向かっていた地竜達が数多くいる場所の方に背を向け、俺達は再び歩き出す。
うーん、今回がダンジョン初配信となるんだけど……アイリスの力は殆ど見せることなく終わりそうだな。いや、下手に力浪費するとまた元の体に戻るのが遅れるから消耗しないに越したことはないんだけど……配信の映像としては微妙な感じで終わりそうだな。次回はソロで潜って、ちょっとそれっぽい所みせないと早々に視聴者は離れちゃったりしないかな?
──なんて。そんな油断しきった事を考えたのがフラグになったわけではないんだろうけど。
次の瞬間、身に覚えのある揺れが全身を襲い、俺はバランスを崩した。




