杖を使わなくてもそこそこいけます
「ふう……」
正面から襲い掛かってきていたリザードマンのような姿のモンスターの頭部を魔力で生み出した弾で吹き飛ばし、ひとつため息を吐く。
周囲には、血の匂いが充満している。そしてその血の匂いの元であるリザードマン(でもういいな)の死体が、十を軽く超える数で転がっていた。
中層について以降、前回の地竜のようなデカブツを避けるようにして前回俺が確認した下の階に続くであろう穴へ向かっていたんだけど、その途中でリザードマンの集団に遭遇してしまったわけだ。
リザードマン自体は普通に以前から房総ダンジョンの中層で出現しているモンスターであり、準1級クラスなら苦戦する相手ではないんだけど……いかんせん数が多かったので、ここまで大したモンスターも出なかったせいでほぼ出番がなかった俺も含めて全員で戦う事になった。
といっても、半分くらいは泊さんが魔術で吹っ飛ばしたが。
後衛で範囲攻撃を得意とするとは聞いていたけど、さすがに準1級だけあって素晴らしい。最早上層で見せていた姿など欠片も見せていない。……ほんとこうしてみると格好いいのに、安全な場所ではなんであんなになるんだ……
ちなみに残りの半分はそれぞれ同じくらいの数を残りの3人で処理した。
「その杖使わなくても全然戦えるのね。やっぱりもっと上の階級でよかったんじゃないかしら。少なくとも2級は行けそうだけど」
剣を鞘に納めながら、そう声を掛けてきたのは各務さんだった。
彼女の言う通り、俺はこの戦いで杖の方は使っていない。半分程度しか魔力の蓄積がない杖の力をこんなところで無駄に使ってなどいられないので、普通に魔術を使って戦っていた。それでも他のメンバーと同様問題なくリザードマンは圧倒できていたので、各務さんはそう思ったのだろう。
だけど俺はその言葉に首を振る。
「こっちの体とちがって、元の体は魔力があんまりうまく使えないんで」
「そうなの?」
今度は首を縦に振る。
「向こうの世界ではこの体でしか戦ってませんでしたからね」
「別物扱いなのね」
「そういう事です」
まぁ種族レベルで変わっているわけだし、そうなるのも仕方ない気がする。
さてここでちょっと魔術に関して説明をしておくと、魔術というのはそれぞれが持つ魔力を使って行使する……というわけではない。いや、正しくは個人の魔力だけを使うわけではないということだ。
個人差はあるものの、人が抱え込める魔力の量というのはどうしても限界がある。なので、自身の魔力のみで魔術を行使していれば、魔力量が多い人間でも早々にガス欠になってしまうだろう。
ならどうするかといえば単純な話で、世界に充満している魔力……区別をするために人や生物が持つものは魔力、世界が保持するものはマナと呼ばれるが、そのマナを使うのだ。
マナは特定の魔力を流しこむと、それに合わせて変質し効果を発現させる。すなわち自身の持つ魔力で作り上げた"コマンド"を元に世界のマナの力を元に魔術を発動させるのだ。
何がなんでも流し込めばうまく行くわけではないので、自身の魔力でこの"コマンド"となる魔術の核を組み上げる事が、魔術を行使する為の技術になる。
んで、俺はこの技術に関してはすでに身に着けている。なにせ異世界で7年間の間扱ってきたのだ、勿論この世界とファーマントでは質が違うが、それに対する調整も出来るくらいの操作精度はあるつもりだ。
じゃあなんで今の俺がまだ3級レベルの実力しかないのかといえば、適性がないからだ。
魔力を使って魔術を行使するには、その行使したい魔術に合わせて魔力を変質させる必要がある。たとえば炎の魔術を使う為には、炎の属性に変化させる必要があるといった感じだ。これが魔術に対する適性。これがないと変質させる際に魔力のロスが大きくなるし、何より操作自体がなかなかうまく行かず精度が落ちる。
この適性は一応初期値的な個人差はあるが、そこから成長させていくにはとにかく使って馴染ませていくしかない。現状で最強とされる"勇者"のおっさんは異世界で数十年単位で戦っていただけあってこの適性がカンストしているような状態だそうである。
んで俺の場合も7年戦っていたわけだけど戦っていたのは変身後の姿であって、変身前の姿だと欠片も戦っちゃいないんだよね。でさすがに種族迄変わる変身だと適性も引き継がれないらしく、元々の男の体の方の俺は完全に初期状態のまま。なんで今の俺は魔力の使い方が単純な身体強化の魔術を使ってそもそもの魔力を体になじませている状況。ソフトとなる技術はあるのだからハードである体の方が馴染めばそれなりにあちらの体で戦えるようになるだろうけど、まだあちらの体で戦い始めて1ヵ月ちょいしかたっていないのだ。先は長そうである。




