初めて意識した視線
今はそんな事よりも、だ。
「あの、泊さん」
「なんだい、トワちゃん」
「……その、あんまり胸に視線を向けられると」
「う゛っ」
泊さんは俺より頭一つ分くらい高いからこちらを見下ろす感じになるんだけど、それを加味しても視線が下に向き過ぎている。そもそも視線が合ってない時点で、別の所を見ているのが明白で……いやぁ、こういった視線って普通にわかるもんだなぁ、と思う。泊さんが露骨すぎるのかもしれないが。
俺の戦闘衣装は結構胸が大きく開いていて普通に谷間が覗き込めてしまう格好なので、まぁそこに視線が行くってるんだろうなぁ。
「泊さん……」
「ぐあっ、刹那ちゃんそんな目で見ないでくれっ……」
各務さんからもジト目で見られた泊さんが目を逸らしたので、とりあえず俺はほっと溜息をつく。そんな俺の反応に藤原さんはガリガリと頭を掻きながら苦笑いで口を開く。
「あー……さっきも言った通りコイツむっつりスケベだからよ。勘弁してやってくれ」
外見悪くないし身長も高いし準1級で実力もありそうなのに、なんでそんな童貞臭い反応なんだ。
「いや別に怒ってはないです。俺も中身は男なんで、この格好だとそっちに視線がいっちゃうのはわかりますし……」
さっきも言った通り胸元開いてるし、スカートも割と太腿とか露出してるからな……俺も昔だったらこんな格好の娘が側にいたら、思わず見ちゃっただろうからな?
今? もう7年位自分の体でそういうの見てるしなんならこの体になってから半年くらいたったころには気にならなくなって同僚と風呂入ってたりしたから、今更そういった事で興奮しないし、視線が引かれる事もないなぁ。馬鹿でかかったりすれば行くかもしれないけど。
……いやちょっと待て。
今冷静に考えたけど、そういった事に反応しなくなってるの男として大丈夫なのか?
《もう女の子として生きていきましょうよ!》
いや一応俺は男として生きていくつもりではあるんだよ、性自認は今でも男だと思ってるし。……そっち方面もリハビリがいるか? でもリハビリって何すれば? 男として暮らしていけばそういった感覚も戻ってくるかな。いや早速今女の子になっちゃってるけどさ。
「ところで、トワさん」
「あ、はい、なんでしょう?」
ちょっと不味い事に気づき思考が深いところに落ち込んでいきそうになったところで、各務さんに呼びかけられて思考が浮上する。
「貴女、異世界ではその恰好で戦っていたのよね? それでも気になるものなのかしら」
「向こうは同僚は同性しかいなかったので……」
「ああ成程」
というか、向こうは基本一緒にいた連中は似たような格好してたし、女神の眷属以外には男もいたけどこの格好は基本戦場でしかしないから彼らの前にこの格好で立つ事殆どなかったからな。後向こうの男達は女神の眷属に対して向ける感情は崇拝に近かったから、あまりそういった意図を含んだ視線を向けてくるような事なかったんだよね。
だから俺は長々と女として暮らしていたにも関わらず、異性──いや、精神面からいえば同性にそういった視線を向けられることが気になったり、ゾワゾワしたりするとは思わなかったんだ、これまでは。
──なるほど、エロい目で見られるのってこんな感じなのか。
「その、さっきもだけどごめんなトワちゃん」
「いや、正直視線がそっちに向いちゃうのは仕方ないので……ただ出来るだけ見ないで貰えると助かります」
「……善処する」
努力目標か……。でもこんな格好している以上見られるの正直仕方ない気もするからなぁ。かといって性能を考えればこの服は使っておきたいところだし。ちらちら見られるくらいなら……まあなんとか慣れよう。
というかあれだな、変に視線を意識しちゃったせいで、配信をした場合その向こう側にいる人間達もそういった目で見ているんだろうなぁと考えてしまったのでよろしくない。でも配信である程度は稼ぎたいしな……うん、きっと直接視線を感じるわけじゃないし、大丈夫だろ。
そもそも今日配信するって言っちゃったしねー。
「その、それじゃこちらも配信開始するので」
他の3人に一言断ってから、俺は左耳に着けたインカムについたスイッチを操作する。簡単な操作ならこれだけでいじれるからな。
えっと、配信公開開始、コメント欄ONっと。




