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誰よその女

「さて」

「……私も役に立ちそうにないのでそろそろ」

「まあ待ちなさいワトくん、そうつれないことを言わないでくれよ。残念ながら僕は、君を犯人にする方法ならいくつか思いついている」

「な」


 とんでもないことを言われて頭に血がのぼりかけたが、なんとか冷静になった。


「……ということは私が犯人でないことはわかっていただけているんですね」

「ははっ! そうとも言う。だが現実は、ほら、非情なものだ。あんまり僕を蔑ろにしないほうがいいんじゃないかなあ?」

「あなたの良識を信じますよ」

「それはありがとう」


 ドン、とシャルロが私の後ろの壁に手を打ち付けた。


「……は?」


 一言で言うならば「壁ドン」に違いなかった。前世まで遡ってもそんなことをされた記憶はない。

 いや、違う。何を考えているのか。これはただの容疑者確保ではないか?


「で……まあそうだな、うーん」

「なんなんですか」

「どうだろうな。まだか。まあ、もう少し付き合ってくれ。ほら、鑑識官が来るまで現場を保持しないと、職務に対して不誠実だ」

「シャルロ先生がなさるでしょう、私のような無骨者よりも、きちんと」

「そうしたいのは山々だがねえ。……おっと、逆だなこれは」

「は?」


 今度こそ意味不明だった。

 シャルロは私の襟首を掴むと、くるりと位置を入れ替えた。つまりシャルロが壁に背をつけ、まるで私が壁ドンする体勢なのだ。しないが。


「なんなんですか、いったい」

「まあまあ。いや、まだ来ないみたいだな。ワンドが赤いままだ」

「はあ……」


 確かにまだ赤いワンドを見ながら、私はため息をついた。早くこの茶番を終わらせてほしい。鑑識官さえくれば、きちんと犯人は見つかるはずだ。

 原作は変わったのだから、もうこの探偵は用無しのはずだ。


 けれど一応上司なので逆らえもしない。シャルロの好きにさせるしかないだろうと、私は諦めてしまった。


「もう調べることはないんですか」

「ああ、ない」

「……ないんですか」

「ないさ、ない。あるとしたら君だ。君のことは不審に思っている。いったい何を思ったんだ? 何を考えたんだ? 何を知ってるんだ?」

「……」

「おかしいな、あきらかにおかしいんだ。だが犯人、あるいは共犯者というのもしっくりこない。君が罪を犯すのであれば、自分の命が危険にさらされたときくらいだ。ただの生徒にそれは無理だろう、おそらく、どんなパターンを考えても」


 そう言いながらキラキラとした瞳で私を覗き込んでいる。何かを見つけ出そうとしているのだ。その異様なまでの好奇心が……いや?


(私ではない、私の後ろを……見て、いる……?)


「あ」


 その時、ワンドが白く変わった。


「うん。どうやら解除されたようだな。つまり、つまりだ……ワトくん」


 シャルロが低く、強く言った。


「今振り向かなければ、君は死ぬ」

「……!」


 どうして従ったのか?

 それはもちろん、自分の安全が最優先だからだ。なんであれ、誰の言葉であれ、そうだというなら従おう。私は自分の命がなにより大事なのだ。


 だから振り向いた。

 そして見た。


「ヒッ」


 赤い。

 赤い赤いとにかく赤い生き物が、あろうことか人間の形をしてナイフを握りながら私にぶつかってきているのだ。


「うっ、ああああああ!」


 叫び声をあげながら私は自分の命を守るために動いた。まずナイフだ、ナイフはいけないとても危険だ。私はそれを無効化するためにソレと私との間に境界をつくった。塔の『壁』ほど素晴らしくはないが不格好でも構わない。何枚も何枚も重ねてひとまずこれで安心だが、ソレが魔力を練り始めたのがわかった。危ない。あまりにも危ない。こんな境界程度で安心できるはずもないので私はソレの動きが止まるように境界の向こう側で炎を燃やした。しかし相手は人の形をしている。直接炎をぶつけては殺してしまうので私は殺人者になりたくないので燃やしたのは空気だ。周囲の酸素を失ってソレが苦しみ始め、境界を殴りつけながら倒れた。


「はあっ……!」


 それでも安心できなかったので私は倒れたソレの周囲、まだ固まらずに溜まっていた血液を凍らせた。深さはないが広い範囲が凍りついたので、意識を取り戻してもいきなり起き上がることはできないだろう。それでも安心できなかったので私は落ちていた毛布をソレの体に投げかけ、そのあとで空中から水を取り出して毛布をずぶ濡れにしたあとそれも凍らせた。これで動けないだろう。


 だけれど冷えすぎては死ぬんじゃないか?

 これは人間だ。というか、さっきまで倒れていた死体じゃないか!


 でも動いていた。生きているのか? 生きているなら殺さないようにしたい。私は周囲の空気の温度を上げ、ついでに凍りついた毛布との間に空気を通した。接触していなければそこまで冷えないはずだ。ほら、かまくらだって意外と温かいと言うし。いや、どうかな。

 というか。


「い、いったい……」

「いやさすがだなワトくん、魔法士としての腕だけは確かだ。一瞬でこれだけのことができるっていうのに、なんだってそう安全志向なんだ? 意味がわからない」

「なんなんですか! なんで……なんで、ナミルが生きて」

「ほう。まだナミルに見えるのか」

「は? …………メイリー!?」


 よくよく見てみれば、間違いなくそれはメイリーだった。


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