記憶
十月初め
僕は県内のテーマパークへ行く
そう鈴歌とともに
とある夜 僕は寝付けなかった
明日は初めてのデートだ
ふと時計を確認した。 もう日付が変わっている
その時間は僕に「もう寝ろ」と言っているようだった
ただそのせいなのかわからないが僕は目が冴えてしまった
よくあることだ。「天邪鬼」とはこういうことか・・・
そう考えながら寝返りを打った
一時間くらいしただろうか
気が付いた時には太陽が出ていた
僕は慌ててベッドから飛び出し
朝食を済ませ 歯を磨いた
そのまま玄関を飛び出したんだ
目の前には彼女「桜木」がいた
ストレートな神 白い肌そして真っ白なマフラー 白いポンチョを羽織った桜木だ
桜木「どうかな。。。 変じゃない?」
見上げるように顔を覗かせながら言った
僕は即答した
反射だったのかもしれない
飯田「とてもかわいい」
気が付いた時にはそう呟いていた
そのまま駅まで二人で向かった
もちろん手をしっかりと握ったまま
電車は満員だった。
僕らは壁のほうに立ち 僕が桜木に覆いかぶさる形で立っていた
俗にいう 「壁ドン-両手Version」 だ!
ここは突っ込まないでほしい 言っていて自分でも恥ずかしいんだ
僕の顔の目の前に鈴歌の顔がある
きめの細かい肌
少し荒い息遣い
すべてを独り占め
目的地まであと三駅だ
お互い沈黙が恥ずかしく 偶然にもその気持ちがつながり
沈黙を破った
お互いにだ
飯田、桜木「あのさ」
二人の声が重なった
飯田「お互い下の名前で呼ばない? なんか。。こう。。ねっ」
桜木はほほを赤く染めて静かにうなずいた。
桜木「うん。。。 護君・・・」
とても小さい声でそうつぶやいた
この声もこんなに密着していなければ聞こえなかっただろう
僕らは少しづつだが近づいている。
ちょうど目的の駅に着いたようだ。
僕らは電車を降り
テーマパークまで一緒に歩いた。
テーマパークの入り口ゲートの前で一緒に写真なんて撮っちゃったり・・・
よく「家に着くまでが遠足」なんていうがあれは正解だが間違っている。
「家に出た瞬間始まっている」だ
家を出た瞬間から鈴歌とのデートは始まっていた。
テーマパークではいろいろなアトラクションに乗った
ジェットコースターにジャングルの中を船で移動するやつ・・・
最後に観覧車だ。
とても充実した時間だった。
観覧車といえば。。。
頂上でのキスはもちろん鉄板だ。
まぁそんなことする勇気があればの話だが。。。
ちょうど頂上に着いたとき僕はこの日のために用意したペアネックレスを取り出した。
まるでプロポーズの指輪を渡すように
それを鈴歌に渡したのだ
ネックレスは片方が鍵、もう片方には南京錠のトップ。
ちゃんとその鍵で錠が開くようになっている。
鈴歌には鍵のほうを付けた
鍵には「S」の文字が刻印されている。
錠は僕のほうだ。
こちらには「M」
お互いのイニシャルを刻印してもらった。
ギリギリ残っていたお年玉で買ったものだ。
高いものとは言えないがとても特別なものだった。
鈴歌「そろそろ遅くなりそうだし。。。帰ろうか」
気が付かなかった。
もう18時を過ぎていた。
ここから帰って。。。約二時間ほど。。。
僕らはゲートをくぐり夢の国とさよならをしたのだ。
少し歩いていたら鈴歌のバックが前から来た三人組の男に軽くぶつかりそうになった。
そうだぶつかってはいないのだ。
三人とも髪をがちがちに固めていて少し威圧感もあった。
僕らは二人で謝罪をしたのだが
相手の一人が金を要求してきたのだ。
さすがにぶつかってはいないのに金を出すことはしたくない
が
正直あまり関わりたくもないし
もし何かあって鈴歌が怪我でもしたら僕はこの三人に何をするかわからない。
そう考えている時だ。
「キーン」
僕の頭に鈍い音と同時に激痛が・・・
三人のうちの一人が鉄パイプを持ってきて僕の頭めがけて振りかざしていた。
だんだん意識が遠くなっていく。
薄れゆく意識の中で鈴歌は僕の名前を呼んでいた
鈴歌「護君! ねぇ! 護君!」
それが僕の記憶にある最後の言葉だった。
次に目を開けたら知らない天井だった。
知らない色の天井に蛍光灯・・
心電図の電子音が頭に響く
うまく体が動かない
頭がガンガンと痛む。
僕の隣には母と父 そして妹
母「護。。。 大丈夫?」
僕は母に心配をかけてしまったことの申し訳なさで何も答えることができなかった。
父「お前自分の女を守ったんだってな そんなひょろひょろなのに無茶しやがって」
少し涙ぐんでいた目で無理に笑いながら父が言った
妹「お兄ちゃん。。。三日も眠りっぱなしだったんだから・・・」
三日・・・? そういえば少し
飯田「おなかすいた・・・」
目覚めて一発目がその言葉だった
我ながら面白いと思った。
そして今言われた言葉を思い返していた
『自分の女』。。。?
俺はそもそも男だし 彼女もいない
『三日間』・・・?
そんな眠って何をしているんだ俺は・・
また頭が痛む。。。
目の前がだんだん暗くなり
また意識が遠くなる。
ベッドの横の机には
少し血の付いた Mの刻印の錠のネックレスがきれいに輝いていた