1話 勇者オリオ前編
――僕ね。大きくなったら勇者になりたいんだ!
この始まりは何の変哲もない。幼い子供の戯言から始まった。
◇
オリオ。
オリオ・カーミライト。
俺は、この世界『パラサフィア』の勇者である。
誰が決めたと聞かれれば、この世界の神だ。
3年前の誕生日に神の啓示が俺に降り注いだことが切掛けなのだが。
その日から、鶏は勇者となったのだ。
母親に尻を蹴っ飛ばされて、無理矢理勇者となったのだ。
泣きわめいて、泣き叫んで、号泣したけど許してなんて貰えなかった。
剣も持ったこと無いのに、文句を言ったけど、許してなんて貰えなかった。
むしろ魔王を倒すまでは勘当だと門前払いを村中で受けた。ほんとにひどい。
こうして、オリオは勇者に仕立て上げられた訳である。
と、まあ。こんな話は昔々の話だ。
「今は自分の役目を理解しているし、十分に受け入れたさ……。むしろ今は、これ以上ない自分の役割であると、確信している……!」
「――それ、あんたただ自分の力に気が付いてイキ………女神さまの加護を貰っただけでしょ?」
と、このように自慢話をすれば、仲間から文句が来るわけなのだが。
俺はそんな一番に小言を言ってきた、仲間の魔術師ミリアを軽くにらむ。
「別にいいだろ。俺の能力なんだから!」
「あんたの?『神様』から貰っただけじゃない」
実に痛い所を付いて来る。
――まあ、そんな彼女も、じつに愛らしいのだが。
笑みを浮かべてミリアの肩を抱く。
彼女の細くて小さい肩、華のような香り。
僅かに動くだけでたゆたう胸。
瑠璃色の吊り上がった瞳が俺を見て、その愛らしい顔に紅を浮かべる。
「そんなイキリ勇者にずっとついて来て、惚れたのは誰だよ」
「――っ!」
耳元で囁けば女の頬はリンゴの様に真っ赤になった。
潤んだ目を逸らして、小さく呟く。
「……ばか」
――と。
何てことない、見ての通りだ。
俺とミリアは恋人同士。
このツンデレ巨乳っ子は俺の女という訳。
俺は口元に笑みを浮かべる。
彼女と出会ったのは勇者となって1ヶ月ほど経ってからの時か。
声を掛けて来たのは彼女で、魔術師で勇者の力になりたいと願って来た。
断る理由も無いので承諾。そのまま愛を築き俺たちは恋人同士となった訳だ。
――いや、少し違うか。
「ミリア!抜け駆けは反則よ!」
「そうよ、オリオは私たちの物なんだから!」
ミリアを抱いていると周りから非難の声が上がる。
俺を覗き込むのはこれまた美女2人。
右、ブロンドが綺麗な巨乳……名をロロリア。剣士。
左、ピンク色の髪をした巨乳……名をカルネ。格闘家。
――彼女達もまた、俺の女だ。
そう、つまりは俺の愛人と言う事。《《3人全て》》が、だ。
「そう拗ねるなよ。俺は皆愛しているんだから」
目の前の二人を抱き寄せる。
3人を胸に。柔らかな感触を胸に、笑みを浮かべる。
まさに、至高のひと時。実に気分が良い。
――俺はオリオ。
オリオ・カーミライト。
神に選ばれし勇者である。
異常なまでに高いステータスを持ち。
覚えられる魔法も100を超え、どんな武器でも一度触れば扱う事が可能。
俺の隣に並ぶものは何処を探しても存在せず、顔も良いからこの通り、女に不自由することも無い。
俺は勇者となった時から正に勝ち組である!!
そしてこの勇者パーティは俺の城。
俺を愛して俺を敬う存在しか入れやしない。
前は口うるさい男の盗賊がいたが、追放してやった。
善人面した荷物持ちしか取り柄の無いサポーターの男も、勿論追放してやった。
後で名を上げたらしく。前に一度再会したが、残念。
本物の神の加護を持った俺の前ではやはり手も足も出ず。
目の前で、そいつらが大事と言う仲間の女を手籠めにしてやったさ。
その時のあいつらの顔は思いだすだけで笑えて来る。
仲間の女達?
今、目の前に居るだろう?
ウザい奴を叩き壊してやって、いい女を自分の物に出来て。
俺の今の生活は実に潤いまくっている。
ああ、言ってやろう。
――勇者ってやつは最高だ!
「……オリオ……」
そんな絶頂の雰囲気に包まれているとき、実に陰気臭い声が響く。
視線を上げればそこには一人の女。
黒い髪に白い肌のおさげ眼鏡の貧乳女。
名を、ミージェル。うち唯一の僧侶で。――俺の幼馴染だ。
「もう、夜も遅いわ。明日は魔王を倒しに行くんでしょう?」
「うるさいなぁ。勝手に一人で寝ろよ!」
「で、でも……」
見ての通り。口うるさいだけが取り柄の女だ。
顔を地味。性格は根暗で気を配ることも出来ない。
それでも側に置いているのは、幼馴染としてのポジションをこいつが持っているからで。
一応一番最初の仲間だからこそ捨てるも気が引けるから、側に置いているだけ。
いや、違うか。
追い払っても、追い払っても付きまとってくるストーカーなのだ。この女は。
「お前には関係ないだろ!」
だから俺はミージェルを手で追い払いながら、3人分の肩を抱いてテントへと向かう。
幼馴染の深緑の瞳が此方に向けられていたが、知らない。
勿論だが、貧相な身体を抱く気も起きないので誘う事もしない。
艶やかな愛人たちの甘い声をBGMに一人寂しく慰めていればいいさ、陰険女。
女たちの温もりを感じながら、俺は最後の夜をソレは上機嫌で夜を開けるのである。