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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第一部〜ドラ・ドラ・ドラ!我レ復讐ニ成功セリ〜
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回想③〜白草四葉の場合その2〜拾

「シロ……来たか……」


 ぶっきらぼうな表情でモノを言うこともあるクロだが、この日のようすは、明らかにいつもとは違っていた。

 その違和感を気にしながら、


「あの……お母さんは……?」


と、司サンのことをたずねると、


「ごめんなさい。竜司くんのお母さんは、お仕事で二人に着いていけなくなっちゃったの……」


 クロの代わりに、女性が答えた。


「えっ……」


 それじゃあ、収録会場のテレビ局までは、二人だけで行くことになるのか――――――?

 そもそも、自分たち小学生だけで、参加の手続きが可能なのか――――――?


 そんな疑問が顔に出てしまったのか、わたしの表情から不安を察したのか、


「心配しないで……テレビ局には、わたしがついて行くことになったから……あっ、自己紹介がまだだったね。わたしは、大西真奈美。竜司くんのお母さんのお店で働いているの」


「そうなんですか……よろしくお願いします」


 わたしは、そう言って、ペコリと頭を下げるが、名前を名乗って自己紹介をした女性の言葉より、クロのようすの方が気に掛かっていた。

 露骨に不機嫌さがにじみ出ている彼に、わたしは、思い切って話しかけてみる。


「クロ、大丈夫……? 今日は、ちゃんと歌える?」


「大丈夫って、ナニがだよ!? 今日は、テレビ局に行くって、先週から決まってたんだ! 歌えるに決まってんだろ!」


 声を荒らげて答えるクロに、「ちょっと、竜司くん!」と、注意しようとするマナミさんと名乗る女性。

 そんな彼女を制するように、わたしの身体は、自然に反応していた。


「すいません! ちょっと、カラオケ・ルームを借ります」


玄関口で、そういったわたしは、靴を脱ぎ、そのまま


「クロ、ちょっと来て!」


と言って、彼の腕を取り、二階のフロアに向かう。


「痛ぇ! なにすんだ、シロ!?」


 クロは、唐突なわたしの行動に声をあげるが、構っている場合ではない。

 また、突然、「部屋を借ります!」と、宣言され、家主ではないマナミさんも困惑しただろうが、わたしは、クロの手を握ったまま、なだれ込むように通い慣れたカラオケ部屋に入室した。


 そして、わたしの突飛な行動に、


「なんなんだよ、いったい!?」


と、説明を求める彼に対して、背中から手を回し、ハグをするような体勢で


「ちょっと、わたしの話しを聞いてくれる?」


と、切り出した。急に抱きついたわたしの行動に、さらに戸惑ったのか、


「あ、おい……」


と言ったあと、言葉を失う彼に、わたしは語り続ける。


「わたしもね、歌の発表の時に、見に来てくれるって約束していたお母さんが来れなかったことがあるんだ……」


「えっ……」


 わたしの言葉に反応を示したクロに対して、さらに語りかける。


「通ってるボーカル教室で、クリスマスの発表会があったんだけど、その時、見に来てくれるって言ってたお母さんが、今日のクロと同じように、急な仕事が入って、発表を見に来れなくなったんだ……」


「………………」


「お母さんに聞いてもらいたくて、レッスンをがんばってたんだけど、結局、その機会は来なくて……本番では、他にレッスンを受けてる子や、その子の両親の前で歌ったけど、全然楽しくなくてね……それ以来、他の人に歌を聞いてもらいたい、って思わなくなったんだ」


「――――――あんなに、上手く歌えるのにか……?」


 クロの質問には言葉を発することなく、首を一度だけ縦に振ってから、わたしは、話し続けた。


「でもね……わたしの歌を聞いて、誉めてくれる人たちがいたの。『上手いなんてモンじゃね〜よ! シロの歌は、プロ並みだぜ!』『ホントにスゴいのね〜! 素晴らしい歌声』って――――――」


 腕を身体に巻き付けられたままのクロは、わたしの言葉に、ピクリと反応した。


「それって――――――」


 クロの言葉に、再び、わたしは身体を彼に預けたまま、首を縦に振る。


「この部屋で歌わせてもらったわたしに、クロとクロのお母さんが言ってくれた言葉。わたしは、二人にそう言ってもらえたから、テレビに出て歌ってみようと思った。クロとクロのお母さんが、誉めてもらえたから、わたしは、もう一度、人前で歌ってみようと思ったんだ――――――」


 今度は、クロが黙ったまま、首を縦に振るのが確認できた。


「だからね……クロのお母さんが来てくれないことは残念だけど、わたしは、クロにわたしの歌を聞いてもらいたいと思う。そして――――――わたしは、一週間がんばって練習したクロの歌を聞いてみたいと思ってる」


 そう伝えると、クロの肩が、二度震えるのを感じた。彼に自分の言葉が伝わっていることを確信したわたしは、


「ねぇ、クロ……わたしは、クロの歌、好きだよ」


と、耳元でささやいた。

 それまで黙って、わたしの言葉を聞いていたクロの耳が赤く染まるのを感じると、彼はその直後、


「な、な、な、ナニ恥ずかしいこと言ってんだよ!」


と言って、ハグをするわたしの腕を振り払い、自分の身体を解放する。

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