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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第一部〜ドラ・ドラ・ドラ!我レ復讐ニ成功セリ〜
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回想②〜白草四葉の場合その1〜拾弐

 わたしが、


(またまた、ソウマ君かぁ……)


と、内心で苦笑していると、画面の中は、さらに盛り上がりを見せ、フェリス(もう説明するまでも無いと思うけど、マシュー・ブロデリックが演じている中央で熱唱している主人公の青年のこと)とコーラスを担当する女性たち、マーチング・バンドのメンバーだけでなく、パレードの見物人なども巻き込み、ド派手なお祭り騒ぎになっていた。


「スゴい盛り上がり方だね〜」


 なかば感心、なかば呆れながらの気持ちで、わたしがつぶやくと、肯定的な返答と受け取ったのか、クロは、


「だろう!?」


と、声をあげたあと、


「この映画のフェリスみたいに、パレードで、みんなと盛り上がりながら、『ツイスト・アンド・シャウト』を歌うのが、オレの夢なんだ」


と言い切った。

 その言葉を聞いた瞬間、わたしは、一瞬なんのことかわからず、「えっ!?」と言葉を失ったあと、クロが、パレードの真ん中で、一生懸命『ツイスト・アンド・シャウト』を歌っている姿を想像し、おかしくなって、プッと息を吹き出し、


「フフフッ……可愛らしい」


と、口にして、笑いだしてしまった。

 すると、彼は、わたしの言葉に反発を覚えたのか、


「な、なんだよ……笑うことねぇじゃん……!? シロは、歌うのが好きみたいだから、わかってくれると思ったのに……恥ずかしいから、ソウマにも言わなかったのにさ……」


少し拗ねたような口調で語る。

 その最後の一言を聞き逃さなかったわたしは、


「ソウマ君にも言ってないの?」


と、聞き返す。

 クロは、「あぁ……」と、やや不機嫌そうに返事をして、


「あいつは、こう言う時、『竜司って、ホント単純だよね〜』とか言って来るからな……」


と、答えた。


(へぇ〜、仲の良い友だちにも言ってないことを、()()()()()話してくれるんだ……)


なぜか、気分が良くなったわたしは、


「そうなんだ! 笑っちゃってゴメンね……わたしは、いま言ってくれたこと、クロらしくて良いと思うよ! いつか、クロがパレードで『ツイスト・アンド・シャウト』を観てみたいな」


と、優しい笑顔でクロに応えた。

 すると、彼は、「そ、そっか……」と、照れたように左手で首筋のあたりを掻きながら、


「いつか、ちゃんと歌えるようになったらな……」


と、つぶやく。

 わたしが、口にしたことは、クロを励ますための社交辞令のつもりだったのだが、どうやら、自分が思った以上に前向きな言葉として捉えられたようだ。

 

 それでも――――――。


 わたしは、そんなクロのようすを、とても好ましく感じていた。

 なぜなら、これまで、危険をかえりみずにスマホを拾いに行ってくれたり、今日のカラオケに誘ってくれたりしたように、わたしが困ったときや、したいと思ったことについて、クロは躊躇なく手助けをしてくれた。

 そんなクロだからこそ、彼が本気になれば、彼自身の願いを叶えることなど、難しくないのではないか、と考えたからだ。

 それに、なにより、()()()()()(ここが重要)に対して、無垢なようすで、自分の夢を語るクロのことを、とても可愛らしく、愛おしい、と思えたから――――――。

 彼の一言に、


「うん! 楽しみにしてるね」


と、さっきよりも、明るい声と表情で応じると、クロは、さらに照れたようすを見せながらも、


「おう! まかせとけ!」


と、断言した。

 自分の一言で、がんばってくれる男の子がいる――――――。

 そのことに、わたしは、異様に胸が高鳴るのを感じた。

 スマホ紛失の危機を救ってくれたり、聖地巡礼や自宅でのカラオケに誘ってくれたり、と知り合ったばかりとは言え、クロは、わたしにとって、十分にイイひとだったのだが……。

 上手くは言えないが、自分の中で、彼が、()()()()()に変わっていっているような気がした。

 その感情の正体が何なのかを考えようとしていた、その時――――――。

 カラオケ用ルームのドアがノックされ、続いて、


「りゅうじ〜! 誰か、お友だちが来てるの〜?」


という声がした。


4月15日(金)


 過去の思い出にひたるかのように瞳を閉じていた白草は、静かに目を開いた。


「懐かしいね……クロと初めて出会ったのも、この場所だったよね……クロ、覚えてる?」


「当たり前だろ! オレにとって、大事な思い出なんだぜ!?」


 シロの問いかけに間髪入れない間で答えると、彼女は、「えっ!?」と、驚いたような表情をしたあと、


「そっか……そうだったんだ……」

と、つぶやいて、うつむき加減になり、少し嬉しそうに微笑んだように見えた。

 そして、


「わたしにとっても、あの春の出来事は、大切な思い出……でも、あの時、スマホを拾いに行ってくれた男の子に、恋愛のアドバイスをすることになるとは思わなかったな〜」


と、言葉を続けて、クスリと笑う。

 その表情につられて、自分も微笑を浮かべながら答えた。


「そうだな……オレも、あの《みくる池》の隣にある高校に通って、また、シロと再会できるとも思ってなかった……」


「――――――でも、また、こうしてクロと話すことが出来て良かった……クロは、どんなことにも一生懸命で、あの時と変わってない……色々と言わせてもらったけど、紅野サンのことでも、がんばってるクロはカッコ良かったよ」


「いや、それは、シロの……白草四葉のアドバイスのおかげだ! シロが、いろんなことを教えてくれていなかったら、オレは、今でも春休み前の失敗を引きずったままだったと思うから。シロには感謝してる。本当にありがとう」


 オレが、そう言うと、彼女は、再び「そっか……」と、つぶやき、


「うん……クロは、ホントに良くがんばったと思うよ! わたしに教えられることは、もう無いかな。あとは、クロ自身が行動するだけ……」


と言って、笑顔を見せた。

 ただ、その表情は、何故か寂しげに曇っているように見える。

 その顔色が気になりつつ、彼女に、


「色々とアドバイスをもらったし、シロ、何かお礼をさせてくれないか?」


と、声を掛けた。

 すると、彼女は、少し強張っていた表情を、フッと崩して、


「え!? いいの?」


と、弾んだ声で返答し、いつもの余裕たっぷりの面持ちで、


「それじゃあ……今度、お買い物に付き合ってもらおうかな? ()()()()()()()()()()()()()()()()から、プレゼント選びを手伝ってくれない?」


と、たずねてくる。

 それは、一週間前に転入生として自分たちの前にあらわれた、白草四葉らしいモノだった。


「ああ、わかった!」


 オレは、その申し出を快く引き受けながら、彼女の言った、()()()()()()()()と言う言葉が気になり、自分自身の気持ちについて、考えを巡らせる。

 そんなオレの表情を観察するように見つめていたシロは、何かを察したかのように、一瞬だけ瞳を閉じて首をタテに振り、


「クロ、覚悟は決まった? 告白する決心がついたなら、黄瀬クンに連絡して計画を進めよう?」


と、提案してきた。

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