第4楽章〜フィナーレ〜⑦
同日 午後9時すぎ〜
〜黒田竜司の見解〜
桃華たちのペアがスタートし、森のように木々が茂る小道に消えていくと、オレたちラストのペアにも、ついに声がかかる。
「20番のペアの人たち、準備をお願いしま〜す」
タイムキーパーを務める早見部長の声にうながされ、オレは紅野とともにスタート地点まで移動する。
「はい、懐中電灯。折り返し地点にある展望台に御札が貼ってあるから、それを持って帰ってくれば、目標クリアだよ。ただ、紅野さんたちは、最後のペアだから、正直もう幽霊さんたちも帰ってしまってるかも。だから、ゆっくり帰って来てもイイよ、って美奈子が言ってた。でも、途中で棄権したくなったら、すぐに私に連絡してね。それじゃ、暗い道だから気をつけて」
ずいぶんと、念入りに話してくれるな……と感じつつ、「はい、ありがとうございます」と早見先輩に礼を言ってから、オレは紅野とともに、暗がりに歩を進める。
「まさか、サプライズ企画が肝だめしとは思わなかったな。オレは、寿先輩たちのことだから、てっきり歌やダンスの演し物を披露してくれるんじゃないか、と思ってたから意外だったな〜」
独り言のようにつぶやいたオレに、紅野が反応する。
「そうだね、先輩たちなりに色々と考えてくれたんだと思うけど……私も、ちょっと驚いたかな」
「紅野は、こういう肝だめし的なイベントって、苦手じゃないのか?」
「私は、幽霊とかが見えるタイプじゃないから……でも、正直こういう暗い場所は、少し苦手かも」
そう言って、弱々しく微笑むクラスメートの表情は、どこか無理をしているように見えた。
さらに、その瞬間、前方から微かに、
「ぎゃ〜〜〜〜! じゃじゃじゃ〜〜〜〜〜!」
という女子生徒が発する悲鳴のような声が聞こえた。その声に、隣を歩くクラスメートは、ビクリと全身を強張らせる。
「紅野、もす不安なら、離れないようにしてくれても良いぞ。オレじゃ、頼りにならないかもだけどさ?」
やや自嘲気味に言うと、紅野は「ううん……ありがとう」と言ったあと、ピタリと身体をオレに寄せてくる。
「黒田くんは、スゴいね。さすが、男の子だって思う。こういう場所でも平気なんだもん」
「いや、そうでもないけど、ちょっと前に似たようなシチュエーションを経験してるから、慣れてしまったって感じかな? あの時は、緑川や壮馬が一緒だったけど……そう言えば、壮馬は、深夜の兜山を一人で探索しに行ったんだった。考えてみれば、あいつはオレ以上にイカれてるな」
おどけたように言うと、紅野アザミはクスクスと笑い、
「黒田くんと黄瀬くんは、ホントに仲が良いんだね」
と感心するように言った。
「まあ、そのおかげで、こうして吹奏楽部の合宿に密着することもできたし、あいつの暴走も悪いことばかりじゃない、と思ってるけどさ」
「そうなんだ……じゃあ、もしかして、今回の取材って黒田くんたちに対する罰則だったの?」
「そのあたりは、対外的にそういうことにしておけば、責任を取らせたことになる、という花金部長の考えなんだろう、とオレは思ってる。ちなみに、オレも壮馬も、そして、わざわざ途中参加してくる佐倉や宮野も含めて、この密着取材が罰ゲームだなんて考えてる広報部の部員は、いないんじゃないかと思うけどな」
「そっか……それを聞くと、ちょっと安心だけど……でも、広報部の部員さんたちはスゴいね。他のクラブのことまで一生懸命、活動できるんだから」
「そうかな? まあ、知り合ったばかりの宮野のことは良くわからないけど、花金先輩にしても、壮馬や佐倉にしても、取材や広報活動、映像の編集やを好きでやってる連中が集まってるからな〜。みんな、自分のやりたいこと、自己実現の延長だから苦にならないのかも知れない」
オレが、そう答えると、紅野は「そうなんだ……」と、つぶやいたあと、なにかを決意したように、一度、唇を固く結んだあと、おもむろに口を開く。
「それじゃあ、取材や広報活動が苦にならない性格の黒田くんに聞きたいんだけど……黒田くんは、ウチの部の寿先輩や広報部の花金先輩みたいに、そのチカラを生徒会で役立ててみたいと思わない?」
紅野の言葉に、ついに、来たか……と、オレは固い唾を飲み込む。
正直なところ、これまでは、半信半疑だったのだが――――――。
紅野アザミが、次期生徒会の仕事に興味を持っていること、そして、その仕事に取り組むにあたって、どうやら、オレのチカラを必要としていることは、いまの言葉だけで、十分に伝わってくる。
いや、正確に言えば、寿先輩から合宿初日の夜に告げられたことで、紅野の意図するところが、ハッキリと理解できるようになっていた、という方が正しいのかも知れない。
あの夜の先輩の言葉がなければ、オレは、隣を歩く紅野の真意を図るために、色々な確認の問いかけをしなければならなかったかも知れない。
そうしたことを考慮して、オレに考える時間を与えてくれた寿先輩に感謝しつつ、自分と紅野に生徒会の運営という難題を薦めてきた相手を少し恨めしくも思う。
そんなことを考えていると、これまで頭上を覆っていた木々が少しずつ途切れ、前方に開けた広場のような場所と木製の展望台が見えてきた。
(そう言えば、さっきは、桃華たちの悲鳴のような声が聞こえたけど、オレたちは、ここまで幽霊役の先輩たちに遭遇しなかったな)
そのことを不思議に感じながらも、自分の考えを伝えようとしてくれているクラスメートに応えるべく、オレも口を開く。
「いまの紅野がたずねてくれたことには、軽い気持ちで答えられないから……あの展望台で話をさせてもらって良いかな?」




