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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第六部~夏の夜空と彼女の想い~
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第4楽章〜フィナーレ〜⑥

 ワタシが握る照明の先にあらわれた存在は、こちらを目掛けて突っ込んで来た。


「けて……助けて……」


 フワリと白い布を被った幽霊らしきものは、そうつぶやきながら、ワタシたちの周りをグルグルと回りだす。


「ヒッ……!」


「じゃ、じゃじゃじゃ〜〜〜〜〜!」


 ワタシの小さな悲鳴と宮野さんの絶叫が、静かな小道に響き渡る。


 その声に、驚いたのか、白いシーツを羽織り、黒のジャージを上下に着込んで闇夜に溶け込んでいた男子生徒は、被っていたシーツを自ら剥ぎ取って、顔をあらわした。


「いや〜、ゴメンゴメン。こんなに良い反応をもらうとは思わなかったから、調子に乗ってしまったよ……キミたち、大丈夫?」


 そう言って、申し訳なさそうに苦笑するのは、吹奏楽部3年の津田先輩だった。たしか、演奏ではチューバの楽器を担当しているはずだ。


「は、はい……大丈夫です」


「じゃあ、ビックリしたな〜」


 声をかけられたワタシたちが返答すると、先輩は、後頭部をかきながら頭を下げる。


「そうか、さっきの白草さんたちは、醒めた反応だったから、ちょっと、気合いを入れすぎてしまった。申し訳ない」


「いえ……先輩が急にあらわれたから、少し驚いただけなので……」


「わたすの方こそ、申し訳ありません。大きな声を出してしまって、おしょすい〜」


「いやいや、怖がってもらったなら、こっちも本望だよ。でも、1年の女子にちょっと大人気(おとなげ)なかったな……」


 そして、こんな風に、ワタシたちに対して恐縮しきりの先輩の背後から、また別の声がする。


「どうしたの? 肝だめし大成功だった?」


 声をかけてきた、女性は、長い黒髪に上下が赤のワンピース、目は釣り上がり、歯をむき出しにした大きな口で、この上なく不気味な姿をしていた。


 声を失ったまま、その姿を見つめるワタシの真横で、同級生の女子生徒は、声を張り上げる。


「ぎゃ〜〜〜〜! じゃじゃじゃ〜〜〜〜〜!」


 その声は、周囲の木々の葉を揺らすほどの声量で、ワタシも津田先輩も、突然あらわれた女幽霊も耳を塞ぐ。


「ちょっと、ちょっと、そんなに驚かなくて良いから」


 そう言って、マスクを取ったのは、吹奏楽部の副部長と生徒会長を務める寿先輩だった。


「―――寿先輩でしたか……? よく出来ているマスクですね。怖くて、ホントに言葉が出ませんでした」


「んだ、たますぽろぎした。本当に、心臓が止まるかと思っただ」


 ワタシに続いて、ようやく落ち着きを取り戻した宮野さんが、感想をもらす。前半は、どういう意味なのか、良くわからなかったけど、彼女が、すごく驚いていたことだけは伝わってきたので、寿先輩も苦笑いを浮かべながら、ほおをかく。


「いや〜、このマスクが、こんなに効果があるなんて思わなかったよ。私も、ちょっと怖がらせ過ぎちゃったか? 反省反省」


「ワタシたちが来るまで、絶叫してたペアは居ないんですか?」


「何人かの女子が大声を上げてたけどね。木の葉が揺れるほどの絶叫は、宮野さんが初めてだったかな?」


「こんなに、本気で怖がらせるなんて、思ってなかったがら……勘弁してけろ〜」


 少し涙目になりながら返答するに1年生にシンパシーを感じたのか、赤のワンピース姿の寿先輩は、


「ん〜、めんこいね〜」


と言いながら、宮野さんに抱きつく。そして、思いついたように、宣言する。


「こんなに可愛い1年生ちゃんたちをこれ以上、恐ろしい目に合わせるなんて出来ないわ……決めた! 私はこの娘たちをエスコートするから、津田くんは先回りして、肝だめしコースに残ってるメンバーに、撤収するように伝えてくれない?」


「まったく……また、副部長の思いつきかよ……わかった、オレは残りの幽霊メンバーに声をかけて戻るから、ゆっくりとゴールまで帰ってきな」


 寿先輩の言葉に渋々ながら応じた津田先輩は、懐中電灯を照らしながら、頭上に木々が覆い茂る小道を歩いて行った。


「先輩、申し訳ありません。まだ、最後のペアが残ってるのに、自分たちのために……」


 津田先輩の姿が暗がりで見えなくなったあと、ゆっくりと歩き出した上級生に声をかけると、先輩は、マスクを被り直したあと、ワタシたちの方を振り返って、「気にしない、気にしない」と、フォローしてくれる。


「もう、ほとんどのペアが通過しちゃったし、脅かし役と言っても、いつまでも暗がりに居てもらう訳にもいかないからね!」


「あの……その……あたたかい言葉をかけてもらっているとは思うんですけど、そのマスク越しだと不気味すぎて、全然フォローしてもらっている感じがしないんですけど……」


 ワタシが冷静にツッコミを入れると、「そっか、ゴメンゴメン!」と言って、寿先輩は女幽霊のマスクを取る。


 そして、不気味なマスクを小脇に抱えたまま、

 

「さあ、もうすぐ、チェックポイントだよ!」

 

と、広場のようになっている場所の先にある木製のデッキを指差す。


 先輩の言葉に従って、中間地点である展望台に登ると、指定されたとおり、木製の柵に御札が貼り付けてあった。


「じゃあ、ミッションも達成したし、みんなの所に戻ろっか?」


 うながすように言う寿先輩の言葉に、一刻も早くゴールしたいと考えていたワタシと宮野さんは揃ってうなずく。

 上級生のあとについて行きながら、ワタシは隣の同級生に声をかける。


「無事に終わって良かったね、宮野さん」


「んだ! 佐倉さんのおかげで、安全に帰れそうで良かったべ」


「ううん……ワタシはなにも特別なことはしてないよ。昨日までの作業も含めて、今年の夏休みは宮野さんと色々な経験が出来て楽しかったよ」


「じゃじゃ! そう言ってもらえると、ほんに嬉しいべ。そんだ! 宮野さんって、呼んでもらうのは、なんだか他人行儀だから、わたすのことは、雪乃って呼んでくれねべか?」


「そっか、そうだね。じゃあ、ワタシのことも、桃華って呼んでくれて良いよ」


 高い場所や恐怖体験で感じる「ドキドキ」(心拍数の上昇)は、一緒にいる相手への親近感だと脳が錯覚してしまう心理現象を「吊り橋効果」と言うらしいけど……。


 どうやら、今回の肝だめしは、ワタシと雪乃の心理的距離を縮める効果があったらしい。

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