第4楽章〜フィナーレ〜②
ホラーサイトに掲載されているそのエピソードは、取り立てて特徴がある訳でもないオーソドックスな怪談と言える内容で、先週までの間、オレも壮馬も地元で語られる怪談話に振り回され続けたからか、耐性がついたというか感覚がマヒしているのか、こうしたエピソードを見聞きしても、動揺するようなことはなかった。
ただ、自分たちが寝泊まりしている施設での体験談であることを考えれば、不気味さを感じているメンバーもいるようで、
「えっ……ここの宿舎ってそうだったんだ……」
「なんか、ちょっとコワイかも――――――」
と、不安を隠せないメンバーもいるようだ。
このタイミングで、いままで話題にも上がらなかった宿泊施設の怪談話をぶっ込んで来るとか、3年生もイイ性格をしている……と、苦笑しつつ、肝だめしの最中にパニックになるメンバーが出ないことを祈るばかりだ。
そんなことを考えていると、
「それじゃあ、ペアを決めるクジ引きを始めま〜す。参加者は、順番に並んでくださ〜い!」
と、部長さんたちから声がかかる。
その声に従って、オレたち広報部のメンバーやシロもクジ引きの列に並んだ。
「ねぇ、クロ。同じペアになったら、しっかり、わたしを守ってよね」
後ろから声をかけてくるシロに、「あぁ、同じペアになったらな……」と軽く返事をする。
オレがクジを引く順番になり、一歩前に進み出ると、寿先輩が空き缶に割り箸が入っただけの簡易的な作りのクジを左手で差し出してきた。
「はい、黒田くん。よ〜く選んで引いてね」
カラカラと空き缶の中で揺れるクジを引くと、割り箸の先には、小さく20の文字が書かれていた。
「20番か……」
自分が引いた番号を口に出してつぶやくと、クジ係の寿先輩は、
「おぉ、ラストのスタートだね〜。最後だから、ゆっくり回ってきてもイイよ」
と言って、ニコリと笑う。
「いや、ペアの相手が怖がってたら、サッサと帰ってきますよ」
「そんなに、遠慮しなくてイイのに……でも、ペアになる相手のことは、ちゃんと守って、話を聞いてあげてね」
オレのそっけない返事にも、意味深な笑みを浮かべて、ウインクをする生徒会長の姿に、
「はぁ、わかりました……」
と言葉を返しておく。
そして、壮馬やシロなど残りのメンバーが全員クジを引き終わったのを確認すると、ふたたび、3年生から声がかけられた。
「それじゃあ、ペアの確認に入りま〜す! これから、番号を読み上げていくので、自分の番号を呼ばれたら、手を上げて、ペアの相手を確認してくださ〜い」
そんな告知のあと、1番から番号が読み上げられ、次々にペアの確認が行われる。
「わ〜、天宮さんとだ〜」
「よろしくお願いしま〜す」
各自でペアとなった相手と声を交わし合う中、スタートの順番でも1番最後だと言われたオレの番号まで、ペアがどの相手になるのか、緊張が続く。17番まで番号が読み上げられても、シロ、紅野、桃華、宮野、壮馬は、まだペアが決まっていなようだった。
(あの中に、自分のペアになる相手がいるのか……?)
と考えると、緊迫感が高まってくるが――――――。
「次は、18番」
と声が上がると、壮馬とシロの手が上がる。
「続いて、19番」
ここで、桃華と宮野の手が上がった……と、言うことは――――――。
「そして、最後の20番」
早見部長から番号がコールされると、遠慮がちに手を挙げる紅野アザミの姿が確認できた。
「ペアは、紅野か……よろしくな」
「こ、こちらこそよろしく」
オレたちが、はにかみながら、互いに言葉を交わし合っていると、凄まじい形相でこちらの方を睨みつけているメンバーがいるのに気がついた。
「黄瀬クン! このクジ引きって、ヤラセじゃないの!」
憤懣やる方ない、と言った感じでペアの壮馬に食って掛かるシロを相手に、親友は、ツレない態度で返答している。
「ボクにそんなことわかる訳ないよ。文句があるなら、吹奏楽部の人たちに言ってよね」
他のメンバーに目を向ければ、桃華は口にこそ出さないものの、クジをしげしげと見つめて、悔しそうにしている。一方、その桃華と同じペアになった宮野は、憤りを隠さないシロの方を見つめながら、
「肝だめしのペア決めで揉めるヨツバちゃんのレアな表情、目に焼き付けるべ……」
と、つぶやきながら、うっとりとした表情を浮かべていた。
そして、そんなオレたちを見つめる寿先輩は、「計算通り―――」と言った感じで、満足げな顔でうなずいている。
なんだか、大変なことになったな、と感じながらも、オレは考えていた。
今日の午後も、寿先輩にプレッシャーをかけられたばかりだけど、さて、紅野とは、どんな話をすべきだろう―――?
吹奏楽部の副部長は、彼女の後輩とオレを積極的に結びつけようとしているようだが……。
はたして、彼女の言うように、紅野アザミは、オレのことを気にかけてくれているのだろうか――――――?
今日のこの機会は、そのことを確かめるのに、絶好の機会だ、と感じながら、オレは肝だめしの先陣を切って、暗がりの小道に進んでいく、天宮さんたち最初のペアを見送った。




