第3楽章〜メヌエット〜⑬
同日 午後6時〜
午後の全体練習では、短い休憩時間中に寿先輩に絡まれたり、そのことで、「なにを話していたのか?」と、シロに問い詰められたりもしたが、それ以外の面では、おおむね順調に撮影が進み、前日よりも撮影係が増えたこともあって、豊富な映像素材が揃っている。
食堂での夕食が始まるまでの短い間、オレは壮馬、桃華とともに軽く撮影済みの映像の確認に入る。ちなみに、前日の夜までに鳳花先輩を通じて、合宿への参加を表明していた桃華とは異なり、午後の練習の飛び入り参加となった宮野は、宿泊施設側で夕食の準備が出来ないということで、シロと一緒に彼女たちが泊まっているペンションに一時帰還することになった。シロと宮野は、そちらで夕飯を食べてから、サプライズ企画に参加するため、ふたたび、この青少年の家に戻って来るらしい。
「撮影に参加してくれた宮野さんはともかく―――ただ、吹奏楽部の練習を見学していただけなのに、わざわざ、ここに戻って来て、3年生のサプライズ企画に参加するなんて、白草さんも熱心なヒトですね」
「まあ、そう言うなよ。桃華や宮野が参加して、白草だけ参加させないってのも、不公平だろう?」
桃華の言葉をたしなめるように、オレが返答すると、下級生は「ふ〜ん、くろセンパイは、あのヒトをかばうんですね?」と、唇を尖らせたあと、さらに言葉を続ける。
「そう言えば、くろセンパイ。午後の練習の休憩が終わる直前に、あのヒトと二人でホールを出ていきましたけど、どこでナニをしてたんですか?」
ついに、桃華から、このことを問い詰められるときが来たか……と、身構える。
そして、オレは、あらかじめ用意していた想定問答を頭の中で確認し、下級生の言葉に応じる。
「大したことじゃねぇよ。練習の休憩時間の間に、ちょっと、寿先輩と話し込んでいてな。それを見ていた白草が、『なにを話していたの?』って聞いてきたから、『詳しい内容は言えないが、生徒会の活動に関することだ』って答えただけだ」
「ホントにそれだけですか?」
「あぁ、そうだよ」
「……わかりました。それなら、そういうことで良いです。でも、取材活動中は、あまり持ち場を離れないで下さいよ」
こんな風に、下級生から、部活動のことで小言を言われることほど、悲しい話も無いと、悲しいこともないわけだが――――――いまは、これ以上、桃華の機嫌を損ねないことが肝心だ。
「わかった……以後、気をつけるようにする」
「はい、お願いしますね」
後輩から説教じみた言葉を受けるオレに対して、壮馬は、ヤレヤレと苦笑しつつ、オレと桃華に声をかけてきた。
「みんなが撮影した映像の大まかなチェックは終わったし、あとは、明日以降にしようか? 今夜は、吹奏楽部のサプライズ企画もあるみたいだしね?」
「おぉ、そうだな!」
「わかりました! それじゃあ、夕食を食べに食堂に行きましょう! 夕飯は、どんなメニューなんですかね?」
「今日は、ハンバーグ定食らしいぞ」
桃華の声にオレが返答すると、問いかけた本人も、その声を聞いていた壮馬も、
「やった〜!」
と、二人で声を揃えた。どうやら、親友だけでなく、後輩女子もまた肉食系であるようだ。
夕食のメニューに、テンションが上っている二人をともなって、大食堂に向かうと、吹奏楽部のメンバーは、すでに大半が席に着いていて、思い思いに談笑しながら食事を始めている。
「あ〜、ちょっと出遅れたか? オレたちもサッサと席に着いて食べようぜ」
うんうん、と無言でうなずく二人と一緒にトレイと食器が配置された列に並んで、セルフサービス形式でおかずとご飯、汁物を受け取って席に着く。
「いただきます」
と、声を揃えたあとは、三人とも、ほとんど無駄話をすることなく、ご飯やおかずを黙々と口に運ぶ。
そして、淡々と、素早く夕飯を食べ終えたことで、食堂の入口付近に吹奏楽部の3年生が集まっていくのに気づくことが出来た。
オレたちと同じく、食事を終えている吹奏楽部のメンバーも、早見部長や寿副部長を始めとする3年メンバーが、食堂の一角に固まっていることに気がついたようだ。少しざわつく食堂内のメンバーに向かって、パンパンと手を叩きながら、寿副部長が声をあげる。
「はい、みんな注目〜! って、もう注目してくれてるか? それじゃ、今夜の3年生有志によるサプライズ企画の内容を発表しま〜す! はい、拍手〜」
そう言って、自ら拍手をすると、つられて吹奏楽部の下級生メンバーも、一斉に手を叩く。
「それでは、企画内容の発表は、部長から行なってもらいましょう! では、さおりん、どうぞ!」
寿先輩の進行で、一歩進み出た早見部長は、コホンと軽く咳払いしてから、口を開く。
「吹奏楽部強化合宿最後の夜のサプライズ企画は――――――納涼! 肝だめし大会です!」
部長からの発表に、食堂内からは、
「おぉ〜〜〜」
「えぇ〜〜〜」
という声が漏れる。
そんな風にそれぞれの想いを口にする吹奏楽部のメンバーとは別に、オレはと言えば、
(先週までに続いて、また、オカルト関連か……)
と苦笑しながら、壮馬と桃華の二人と顔を見合わせるしかなかった。




