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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第六部~夏の夜空と彼女の想い~
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第3楽章〜メヌエット〜⑪

 寿先輩にたっぷりと絡まれたおかげで、短い休憩時間はあっという間に終わろうとしている。

 

 そうして、吹奏楽部のメンバーがトイレなどから戻り、各自の持ち場に着こうとするのを横目に見ながら、自分もサッサと用を足そうと取材位置の持ち場を離れようとしたところ、不意に声をかけてくる生徒がいた。


「ねぇ、クロ。生徒会長さんとなんの話をしていたの? ずい分と楽しく話し込んでいたみたいだけど?」


 あくまで、冷静に淡々とした口調でたずねてくるが、一見、穏やかに見える表情とは裏腹に、その目はまったく笑っていない。


「な、なんの話って、別に大したことじゃないよ。シロが気にするようなことじゃないから」


「大した話じゃないなら言えるよね? それとも、わたし言えないような話なの?」


「いや、別にそう言うわけじゃ――――――」


 そう返答しつつも、紅野との関係のことで寿先輩から詰められている……などと、白草四葉に相談することなど出来るはずもなく、どう取り繕うか、懸命に考える。


「ほら、もうすぐ、練習が再開するから、話はそれからでも……」 


 なんとか、時間を稼ごうとするが、その試みはあっけなく打ち砕かれる。

 

「わたしは、()()()()聞きたいな。とっても、気になるもの」


 シロの言葉と表情から、言外に感じるプレッシャーは尋常なものではない。


(ここは、下手な時間稼ぎは逆効果だな……)


 野生の勘を働かせたオレは、「わ、わかったよ」と彼女に応答し、指揮台のそばで譜面の確認を行なっている桜井先生に声をかける。


「先生、休憩が終わる頃になって申し訳ないのですが、ちょっと所用でホールを離れます。練習が始まってたら、静かに戻って来るので……」


 そう言い訳をしつつ、持ち場を離れることを伝えると、吹奏楽部の顧問教師は、穏やかに微笑んで、


「わかりました、こちらのことは気にせず、ごゆっくり……」


と、特にこちらのことを気にするようすもなく、席を外すことを許可してくれた。


 全体練習の責任者の許可が取れたことで、ひとまず安心したオレは、少し離れた場所から自分の方をチラチラと見ていた壮馬、桃華、宮野の三人に対して、両手を合わせて「スマン!」と、アイコンタクトを送る。


 三人は、オレとシロの行動の一部始終を見ていたのか、壮馬はヤレヤレと肩をすくめて苦笑し、桃華は不満げにムッスリとした表情を見せ、宮野は何故か目を輝かせているように見えた。


(これは、シロのあとに桃華のフォローもしなきゃだな―――)


 内心でため息をつきつつ、まずは目の前の脅威に対応するため、オレはシロと連れ立って、全体練習を行なっているプレイプラザを出る。


「わたしを連れて、ここに来たと言うことは、ちゃんと話を聞かせてくれるのよね?」


 これまでの周囲の目を意識した澄ました表情ではなく、腕を組みながら、不機嫌なようすでたずねてくるクラスメートに、オレはキッパリとした態度で返答する。


「あぁ、シロの聞きたいことは、言える範囲で話をさせてもらうよ」


「じゃあ、単刀直入に聞くけど、生徒会長と何を話してたの? なんだか、親しげにコソコソと話してたみたいだけど……」


「そのことか……」


 短くつぶやき、一瞬だけ間を置いたあと口を開く。 オレは、生徒会長兼吹奏楽部の副部長からされた話をストレートに伝えることはせず、彼女の要求している内容の大枠だけをシロに開示することにした。


「これは、()()()()()()()()()()にしてほしいんだけど……実は、寿先輩から()()()()()()()()()()()()()()()()? と誘われてるんだ。さっきは、そのことについての回答を要求されてたんだよ」

 

「えっ、そうなの!? それで、クロはなんて答えたの?」


「答えるもなにも、具体的な話をされてから二日しか経ってないからな。まだ、決めることができていません、って応じたら、なんて言われたと思う?」


「わからないけど……なにを言われたの?」


「黒田くん、そりゃ、モテないわけだ……だってさ。そりゃ、先輩からしたら早く答えが欲しいのかも知れないけどさ……余計なお世話だっつ〜の」


 自虐的な笑みを浮かべながら肩をすくめると、これまで、強ばっていたシロの表情が緩み、プッと息を吹き出し、クスクスと笑う。


「なんだよ、シロまで……失礼だな。そりゃ、たしかに、事実かも知れないけどさ」


「フフ……そうだね、たしかに事実かも―――でも、寿先輩に対しても、ちょっとムッとするかな〜?」


「ん? なんでだ?」


「いくら事実であってもさ……クロをイジって良いのは、わたしだけなの!」


 断言するようなシロの言葉に、あ然としつつ、


「なんだよ、そのジャイアニズム的な発言は……」


と言葉を返して苦笑する。


「だって、幼なじみのわたしを差し置いて、クロのことをからかう人がいるなんて、腹が立つじゃない! クロのことをからかうのは、わたしの特権なの! 覚えておいてよね」


 ふたたび腕を組みながら、それでも、どこか気恥ずかしそうに宣言する彼女の表情を眺めながら、しみじみと感じる。


(こういう理不尽な性格をカワイイと思ってしまうオレは、まだまだ、シロに未練があるんだな……)


 そんな、あきらめの悪い性格に内心でため息をついていると、目の前の幼なじみにしてクラスメートであるカリスマ女子は、納得したように、サッパリとした表情で語る。


「だいたいのことはわかったわ。そこで、ひとつだけお願いがあるんだけど……もし、クロが生徒会の仕事をしようと決めたなら、そのときは、わたしにも教えてくれない。誰にも言わないようにするから」


「あぁ、わかった。だけど、絶対に口外はしないでくれよ。『わたしは、知ってるんだ』って、()()()もなしで頼む」


「当然じゃない! これでも、お仕事の情報は、情報解禁日まで漏らしたことないんだから!」


 そんなプロ意識の高い彼女の倫理観を信用することにしたオレは、気難しい幼なじみの機嫌が直ったことに安堵しながら、


「情報を開示するときのコツは、タイミングと伝え方に注意することよ。この二つに気をつけないと、たとえ正しいことをしていても、思わぬ足をすくわれることになるの」


と、情報公開をする際の心得を教えてくれた鳳花部長に感謝した。

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