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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第六部~夏の夜空と彼女の想い~
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第3楽章〜メヌエット〜③

 合宿3日目のパート練習の取材が始まった。

 

 サックスパートを取材するのは合宿初日以来だが、寿先輩に招かれて、部員だけの練習のようすを撮影したときと、桜井先生が視察に訪れている今回では、あきらかに緊張感が違う。


 OB・OGや顧問の代わりにパート練習を取り仕切っているパートリーダーの寿副部長だけは、いつもの快活な表情をくずしていないが、全部で10人ほどの他のメンバーたちの顔には、張り詰めたような雰囲気が感じられた。


「それでは、最初からとおしで演奏を見せてもらえますか?」


「はい、ご指導よろしくお願いします。みんな準備して」


「はい!」

 

 寿先輩の言葉に、下級生たちが答える。

 

 自信たっぷりに見えるパートリーダーなのだが……。


 なにかポジティブな要素があっての余裕なのだろうか? と、オレは逆に不安に感じる。

 演奏が始まる前に、オレは、部員たちに鋭い視線を送る桜井先生のそばを離れ、サックスパートの名目上の監督役である久川先生のそばに行き、こっそりとたずねた。


「寿先輩は、ずい分と自分たちの演奏に自信があるみたいなんですけど……昨日の全体練習から、なにか変わったことでもあるんですか?」


 そんな質問をしながらも、前日午後の全体練習が終わったあとは、もう夕食の時間で、パート全体で練習する時間なんて無かったはずなんだけど……と、オレは考える。


 だが、オレの想像に反して、久川先生からは予想外の答えが返ってきた。


「あぁ、昨日の夜、サックスパートのメンバーでミーティングをしたようだな。言い出しっぺの紅野が、私のところに夜間ミーティングの許可を取りに来てな。全員が入浴を終えたあとの9時頃から寿の部屋に集まって、パート・ミーティングを行っていたみたいだ」


「へぇ、そんなことがあったんですか……」


 昨夜は、夕食のあとに壮馬が、外の風に当たってくると言って、部屋を出て行ったのだが……。


 紅野や寿先輩たちが、パート内のメンバーで集まってミーティングをしたのなら、それは、密着取材の絶好の映像素材になったのに……と考えると、惜しいことをしたと感じる。


 実際に楽器を使わずに、話し合いだけで演奏が変わるものなのかは良くわからないが、合宿という部員が集う場だからこそ行えるミーティングで、どんなことが話し合われ、その会合が、サックスパート、ひいては吹奏楽部全体の演奏に、どんな影響を与えるのかについては、興味をそそられる話ではある。


「じゃあ、そのミーティングを経て、どんな成果が上がるのか……今日の練習は楽しみですね?」


 オレが、続けてたずねると、先生はフッと笑みを浮かべながら答える。


「私には、細かい部分での演奏の善し悪しはわからないが……きっと、あいつらは、昨日とは違う姿を見せてくれると期待しているよ」


 生徒指導については厳しいことを言うことも多いけど、この先生は、生徒のことを信頼しているんだなぁ、と感じていると、CDに録音されたパーカッションの音色が響きはじめ、『宝島』の演奏が始まった。


 アゴゴベルやドラムの打楽器の音に続き、サックスパートの音色が室内に響き渡り、演奏が始まった。

 全体練習ではわかりづらかったサックスの音が、鮮明に聞き取れる。


 パート練習のためだろうか、心なしか、昨日の全体練習のときよりも、ひとつひとつの楽器の音色が軽快に聞こえる気がした。


 パート全体での冒頭の演奏が終わると、寿先輩が務めるソロパートだ。


 彼女だけは、昨日と変わらず


「さあ、みんな一緒に私について来て!」


といった感じで、パートメンバーを全体を引っ張る迫力に満ちた演奏を披露する。


 少し離れた場所から、指揮を担当する桜井先生のようすをチラリとうかがうと、満足げな表情を浮かべているように感じられた。


 寿先輩の演奏に引っ張られるように、各部員の奏でるサクソフォンの音も勢いを増した。


 そして、演奏も後半に突入し、いよいよ、紅野のソロパートの部分に差し掛かる。

 演奏に備えて、スッと立ち上がるクラスメートの姿を見ながら、思い出したことがあった。


 あれはたしか、一年の頃だったと思う。


 吹奏楽部の取材中、サックスを熱心に練習している彼女に、たずねたことがある。


「紅野は、どうしてその楽器を選んだんだ?」


「う〜ん、サックスを選んだ理由か〜。ソロ演奏をする寿先輩の姿がカッコ良かったっていうのもあるんだけど……ねぇ、黒田くんは、サックスは、ブラスバンドの中でどんな役割を果たしているか知ってる?」


「いや、詳しいことは、まったく……」


「この楽器はね、金属製なのに、吹奏楽の中では木管楽器に分類されているんだ」


「えっ、そうなんだ!?」


「うん! サックスは、クラリネットやフルートなどの木管セクションと、トランペットやトロンボーンなどの金管セクションの音色を繋ぐ架け橋として機能し、バンド全体の音色をまとめる重要な役割を担ってるんだ」


「ふ〜ん、そうなのか。それは、すごいな」


「そう! だからね、私も演奏だけじゃなくて、クラブの中で、そんな架け橋みたいな存在になれたら良いなってかんがえてるの」


「そうか……それは、なんだか紅野らしいな」


「フフッ……そうかな? あとね、サックスの音色は人間の声に近い特徴を持っていて、柔らかく滑らかな音色から力強い響きまで、幅広い表現が可能なの。私も、いつか寿先輩みたいに歌うように楽器を演奏できたらって思ってるんだ」


 彼女は、そう言ったあと、また放課後の練習に打ち込んでいた。


 そして、今日の彼女の演奏は――――――。


 あの日、オレに語ったように、歌うように朗らかに豊かな表現力でメロディーを奏でていた。

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