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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第六部~夏の夜空と彼女の想い~
410/420

第2楽章〜アダージョ〜②

 同日 午前8時〜


 大食堂で提供されたこの日の朝食は、オーソドックスな内容で、メニューは、塩鮭、卵焼き、サニーレタス、じゃがいもろグリーンピースの煮物、たくあん、梅干し、ご飯、ワカメ・豆腐・ねぎの味噌汁という、和食好きのオレにとって、非常にありがたいものだった。


 朝7時から始まった朝食を終えると、吹奏楽部の部員たちは、午前中のパート練習の準備のために、各パートの練習場所に別れて行く。


 午前8時から始まるパート練習を前に、顧問の桜井先生や久川先生、OBの中村先輩たちに今日も、練習風景を取材させてもらうことを伝えると、OGの桑島先輩から、


「スイ部のみんなが良い緊張感を持って練習できるように、しっかり撮影してね」


と、キッチリと釘を刺された。


 彼女は、今日も涼し気なワンピースを着こなしていて、いかにも音大出身の音楽家といった、おっとりしたような見た目ではあるのだが……前日の取材をとおして見た感じでは、その指導スタイルは、なかなかに厳しいもののようだ。


 そんな風に、卒業生が行う練習風景を思い返していると、顧問の桜井先生からオレと壮馬に声がかけられた。


「桑島さんもやる気にあふれているようですし……今日は、フルートパートから見て回りましょうか? 8時には練習が始まるので、撮影の準備を始めてくれませんか?」


 穏やかな口調で語る吹奏楽部顧問の言葉に、「わかりました」と、うなずいたオレたちは、すぐに自分たちの部屋に戻って、撮影用の機材を用意する。

 

 午前8時を前に、各パートの練習場所からは、楽器や演奏者自身の身体を慣らす音出しが始まった。


 かすかに聞こえてくる音出しのサウンドを聞きながら食堂に戻ると、一人で残っていた顧問の教師は、


「それじゃ、行きましょう」


と、オレたち取材班を先導した。


 ハマユウと名付けられた部屋に入ると、ちょうど、フルートパートの朝礼(?)が始まるところだった。


「みなさん、おはようございます。今日は、合宿二日目です。強化合宿は、明後日までの日程ですが、フルートパートは、今日中に演奏を完璧なものに仕上げましょう」


 桑島先輩は、おっとりした口調ながら、ハッキリと今日の目標を掲げる。


「はい!」


 声を揃えるフルートパートの人数は、わずか5名(フルート4名・ピッコロ1名)と、芦宮高校吹奏楽部のパートの中では最少の人数だが、桜井先生が解説してくれたところによると、


「これでも、フルートパートの人数としては、少し多いんですよ。50名ほどの編成であれば、フルートのパートは、3名くらいとなるのが普通です。今年は、1年生と2年生にも有望な演奏者がいましたから、来年のことも見据えて、この編成にしました」


とのことらしい。


 吹奏楽部におけるフルートパートの立ち位置について、頭の中で復習していると、カメラを構えた壮馬がOGの女性をズームアップし、桑島先輩の朝の訓示(?)が、さらに熱を帯び始めたことがわかった。


「昨日も話したけど、あなたたちフルートパートは、編成人数の少ないこのパートを勝ち取った吹奏楽部の中でもエリートであることを誇りに思ってください。フルートパートになることは、音楽への情熱を深め、自己表現の機会を与えてくれます。皆さんには、その役割に恥じない演奏が期待されていることを自覚してくださいね」


「はい!」


「基礎的な音合わせは、昨日の午後の練習で一通りできていると思います。今日からの練習では、曲の分析を行い、本番を想定した音量やアタックの調整などを取り入れていきます。吹奏楽部の中でも経験が豊富なあなたたちに説明の必要はないかも知れませんが、フルートパートが曲を深く理解することは、技術的な演奏だけでなく、豊かな音楽表現のために不可欠です」


「はい!」


「音楽記号の確認や拍子と調性の確認などについて説明は不要だと思いますが、他のパートとの関係性については、大編成でのオーケストラでしかわからないこともあります。 自分のパート譜だけでなく、可能であれば総譜を見て、他の楽器がどのように動いているかを把握する。自分がメロディなのか、伴奏なのか、他の楽器と掛け合いをしているのかなど、役割を理解する、といったことが必要です。今回の課題曲の分析は、昨夜、桜井先生と話し合っているので、今日の練習中にその内容を伝えていきます」


「はい、よろしくお願いします」


「フレーズ構造の分析については、こちらの方でしておきました。楽譜にスラーやブレス記号が書かれていなくても、自然な『歌』になるように、どこで息継ぎをし、どこに向かって音楽が進んでいくのか、フレーズの頂点を意識して楽譜に書き込んだので、これから配るものを参考に演奏に取り組んで下さいね」


「はい、ありがとうございます」


 普段の桑島先輩が醸し出している雰囲気と同様に、とかく優雅なイメージがあるフルートの奏者だが、前日のクラリネットのパート同様に、軍隊的な一体性が求められるのは、このパートも変わらないようだ。


 なかでも、フルートパートは、少数精鋭のエリートということもあり、軍隊で言えば、皇帝直属の近衛兵や親衛隊と言った雰囲気で、大人数のクラリネットパートとはまた違った独特の緊張感が漂っている。


 そんなエリート部隊の練習が開始されると、全体を統括する桜井先生は、真剣な表情でその演奏に聞き入っていた。

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