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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第六部~夏の夜空と彼女の想い~
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第1楽章〜アレグロ〜⑬

 同日 午後6時〜


 〜黒田竜司の見解〜


 この日の午後の練習は、夕方には終了し、パートごとに別れていた吹奏楽部のメンバーは、それぞれの楽器の片付けを終えたあと、青少年の家の施設の屋外にある野外炊飯場に集まってきた。


 今日は、ここでメンバー全員で夕飯のカレーライスを作り、みんなで食べるのだという。


 母親の仕事が忙しかったこともあり、小学生の頃から料理に慣れているオレも調理に積極的に参加し、ジャガイモやニンジンの皮むき、刻みタマネギの作成などの調理工程に貢献する。


 手早く野菜の皮むきを終えて、タマネギの細切りを作っていると、不意にそばから声をかけられた。


「へぇ〜、手慣れたもんだね? 黒田くんは、料理が得意なの?」


 またしても絡んでくる吹奏楽部の副部長さんを相手に、包丁を使う手元に目を向けたまま、オレは答える。


「ガキの頃から、『自分の食べたいものは、自分で作りな』って母親に仕込まれましたからね」


「ふむふむ……これは感心感心。これからの時代、キャリアを重ねる女子には、一緒に家事を担ってくれるパートナーが必須だもんね。私が思ったとおり、黒田くんは優良物件だわ」


「なんの話ッスか? 優良物件って、ヒトを賃貸マンションみたいに言って……」


「ゴメンゴメン、こっちの話だから、気にしないで。それより、午前中に話したこと覚えてる? 今日の夜なんてどうかな? 時間は空いてる?」


「いきなりですね。まあ、寿先輩のアポイントなら、何を置いても優先しますけど?」


「さっすが、黒田くん! それじゃ、夕食後の午後8時にここで待ち合わせしない? その時間なら、他のメンバーも居ないと思うしさ」


「わかりました。どんな内容かはわかりませんけど、芦宮(あしのみや)高校にとって、重大な話のようですから、心して聞かせてもらいます」


「うんうん、そう来なっくちゃね。じゃあ、8時に待ってるから」


 そう言ってニコリと笑ったあと、寿先輩は、自分たちの持ち場である具材の煮込み班のところに戻って行った。


(なんなんだ、今日の生徒会長は? やたらとオレに絡んできて……)


 もしかすると、取材の相方である壮馬を除けば、寿生徒会長は、今朝からもっとも話をしている相手かも知れない。


(オレ、なにか、生徒会長の気に障ることしたっけ?)


 そんなことを考えながら、そばで少しばかり不器用にジャガイモやニンジンを切っている壮馬にこっそりと話しかける。


「なあ、壮馬。今日は、やたらと寿先輩に話しかけられるんだけどさ……オレ、また何かしたっけ?」


「さあ、知らないよ? 直近でやらかしたことなら、ボクも一緒に呼び出されるはずだし……竜司個人の事情なら、なおさら、ボクが感知できることじゃないと思うけど?」


 親友は、いつものように、つれなく冷静に自身の見解を述べるだけだ。


「まあ、そうだよなぁ……いまの先輩との話を聞いてたかも知れないけど、寿先輩と8時にここで会うことになったから、その時間は、一人で映像チェックをしといてくれないか?」


「了解。ごゆっくり」


 そんな会話を交わしていると、今度は別の女子生徒がオレたちに絡んできた。


「先輩たち、調理の手つきにずいぶんと差がありますね? もしかして、黄瀬先輩は、料理が苦手だったりします?」


 そうたずねてきたのは、1年生の天宮さん。和歌山駅でパンダ列車を撮影していた彼女だ。


「ボクは、食べる専門だからね。調理は、竜司に任しているんだ」


「まあ、オレが住んでるマンションだと壮馬が編集室に籠もっている間に、サッと飯の準備をすることも多いからな。何事も役割分担ってヤツだ」


 オレと壮馬が返答すると、下級生の女子は「ふ〜ん」と興味深そうな表情でつぶやきながら、


「なんだか、イイですね! 男子同士のそういう関係って」


と言って、ニコニコと微笑む。


「別に特別なことだとは思わないけどさ……天宮さんも、オレたちに何か用なのか?」


「いえ、特別に用事があるってわけじゃないんですけど……黒田先輩には、朝のお礼をちゃんと言えていなかったな、と思いまして……」


「ん? 朝のお礼って、なんのことだ?」


「なんのことって、和歌山駅で、パンダの電車の写真が撮れたことですよ! あのあと、すぐに、《ミンスタ》に写真をアップしたら、たくさん「いいね!」をもらっちゃいました」


 そう言って、彼女は自分のスマホをかざす。


 ====================

 いいね!を見る

 sora_amamiya 吹奏楽部の強化合宿で移動中!


 途中の和歌山駅でパンダ列車の写真を撮りました〜

 

 #芦宮高校吹奏楽部

 #夏休み強化合宿

 #めざせ全国大会

 ====================


 彼女がドヤ顔で見せてきたのは、《ミンスタグラム》の投稿だった。その書き込みには、テキストともに、スタンプで顔を隠された芦宮高校の二人の生徒が写っている。


 それは、紛れもなく、天宮さんがオレと紅野の二人を撮影したものだった。


「おいおい! 顔を隠しているとは言え、SNSにアップするなら、事前に許可を取ってくれよな。まあ、紅野が許可を出してるなら良いけどさ」


 ため息をつきながら返答するオレは、春休みに、壮馬が勝手にアップした失恋動画のことを思い出す。


「あっ、ゴメンナサイ! これから気をつけます」


 一瞬だけ、バツの悪そうな表情をする下級生に苦笑しつつ、オレは、まだ初回ということで、彼女の勇み足を不問にすることにした。

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