第1楽章〜アレグロ〜⑥
同日 ほぼ同時刻。
〜佐倉桃華の想い〜
「な、なによ! コレ!?」
同級生の《ミンスタグラム》の投稿に対して、ワタシは声をあげた。
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sora_amamiya 吹奏楽部の強化合宿で移動中!
途中の和歌山駅でパンダ列車の写真を撮りました〜
#芦宮高校吹奏楽部
#夏休み強化合宿
#めざせ全国大会
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こんなテキストとともに、この投稿には、3枚の画像が掲載されている。
そのうちの2枚は、テキストのとおりにパンダのペインティグが施された列車の画像だったんだけど……。
もう1枚は、スタンプで顔を隠した男子生徒と女子生徒が、パンダ列車の前に並んで写っていた。
大きなスタンプで顔は隠されているものの、男子の方が、くろセンパイであることは間違いない。そして、隣に並んで立っているのは――――――。
くろセンパイやきぃセンパイが、キチンと吹奏楽部の同行取材を行なっているか、SNSを通じて確認しようとした矢先に、これだ……。
ワタシや宮野さんは、二人の上級生が、モキュメンタリー映像の制作でやらかしたせいで、事実上、一週間の謹慎処分となったため、ワタシと宮野さんは、高校野球の聖地で行われた開会式の取材を行い、その取材記録の編集やテキストまとめなどをほぼ二人きりで行なっていたのだ。
余談だけど、ワタシたちが通う市立芦宮高校の生徒は、毎年夏に行われる高校野球の選手権大会の開会式で「式典誘導係」として、プラカードを持ち、出場する選手を先導することになっている。
以前は、女子生徒に限定されていたこの役目も、時代の移り変わりで男子生徒も参加できるようになった。
式典誘導係になるのは2年生で、実は担当するのはプラカードの係だけではない。各都道府県の代表49校と前年度優勝校を合わせてプラカード係は50人。国旗・大会旗を持つ係が11人。そして組み合わせ抽選会のアシスト係が4人、と最大で65人が選ばれるのだ。
ワタシたちの学校行事の中でも、特に注目度の高いイベントなので、プラカード係の選考会は、毎年夏休みの前に体育館で開催される。もちろん、ワタシたち広報部も、その選考会から密着取材を重ね、選考する体育専科の先生たちや選考される生徒たちにもインタビューなどを行うのが通例だ。
そして、これまた余談だけど、選考会に参加できる条件は、身長155cm以上で身体強健であることに加えて、かつては「運動選手で容姿端麗」という条件もあったそうだ。そんな条件を課しているので、やたらと広報部の活動に絡んでくる、あの上級生も興味を示していた。
ただ、あまりに知名度が高い存在であるためか、教師陣から、
「白草さんには、遠慮してもらおう」
という声が上がり、彼女がプラカード係の選考会に参加することはなかった。
それはさておき――――――。
(ワタシたち下級生が一生懸命、活動に打ち込んでいるのに、くろセンパイは―――)
いや、モキュメンタリー映像制作の件については、ほぼほぼ、きぃセンパイの責任であって、友人を庇った、くろセンパイには、なんの責任も無いことはわかっているんだけど……。
それでも、自分たちが仕事に追われている中、仲の良い女子(顔は隠れているけど、その背丈から紅野さんであることは間違いない)と、楽しげに写真を撮っているなんて、許せない、という気持ちが込み上げてくる。
そんなワタシの表情に気づいたのか、ともに、この日の作業を始めようとしていた宮野さんが、おそるおそる声をかけてくる。
「どうすたの佐倉さん? ミンスタになにか書いてあっただか?」
同級生の言葉に、ふと我に返ったワタシは、彼女に自分が目にしたモノと、その画像から予測できることを伝えても良いものか少しだけ迷ったものの、ここは、自分の怒りに共感してくれる相手をキープしようと考えた。
「このミンスタの投稿、見てくれない? これ、たぶん、くろセンパイだよ」
そう言って、同じ1年生の天宮さんが投稿したミンスタの書き込みと画像を宮野さんに見せると、彼女は目を丸くして、
「あんれまあ……黒田先輩は、わたすたちに仕事を押し付けて、ずいぶんと楽しんでいるんでがんすな」
と、感想を述べる。そして、彼女は、さらにこう続けた。
「でも、これだけ顔が隠れているのに、佐倉さんは、良く黒田先輩とわかっただな」
宮野さんの鋭い追及に、ワタシは思わず言葉に詰まってしまう。
「え、え〜と、それは……くろセンパイとは、中学生時代からの付き合いだし……そ、そうだ! 宮野さんも、ここに写っているのが白草さんなら、すぐに気がつくでしょう?」
「たすかに! そう言われれば、そうだな。でも、わたすが四葉ちゃんに注目しているくらい、佐倉さんも、黒田先輩のことを良く見ているんだすな。知らなかっただす」
「あっ、あ、あの……それはその……そう言うことじゃなくて……」
あわてて、次のワードを探そうとするけど、なかなか上手く言葉が出てこない。そうしているうちに、同級生のスマホが鳴動し始める。
「あっ、連絡だす。ちょっと、席を外すだすな」
そう言って、放送室から出て行った彼女は、しばらくしてから申し訳なさそうに戻って来て、ワタシに相談を持ちかけてきた。




