第1楽章~アレグロ~③
早見部長のインタビューを終えたオレと壮馬は、吹奏楽部のメンバーに次々と取材を行っていく。
この夏の大会が最後の出場となる3年生に話を聞くと、みんな一様に、この大会と合宿にかける熱い想いを語ってくれて、気合いが入っていることが伝わってくる。
そんな部員たちの情熱は、ガッツリと質問に答えてくれた部長さんをメインとして、各自のインタビュー映像は、あとでまとめて、壮馬がイイ感じに編集してくれるだろう。
3年生の主要メンバーの話を聞き終えたあとは、今回が初めての合宿参加になる1年生に話を聞くことにした。
最初にインタビューするのは、人懐っこく、以前から、紅野アザミのことを慕っているという天宮さんだ。
―――1年生にとって初めての強化合宿ですが、いまの心境を聞かせてください。
「はい! 強化合宿の練習は厳しいとも聞いているんですけど、私にとっては楽しみしかないです」
―――厳しい練習だけど、楽しみ……ですか?
「はい、先輩たちはそうした厳しい練習を経て、大会での結果を出してきたと思うので……自分たちも、負けないように熱心に練習に取り組みたいんです」
―――ずいぶん、気合いが入ってますね(笑)?
「もちろんです! まずは、パートのメンバーに選ばれないといけませんから」
―――1年生のメンバーが、これだけ熱心だと先輩たちも心強そうですね。
「はい! 先輩たちに負けないようにがんばります!」
―――意気込み十分の1年生・天宮さんでした。初めての合宿がんばってください。
「はい! がんばります」
小さく拳を握って、自身の熱意を示すポーズを作った下級生の女子は、壮馬が持つカメラでの動画撮影が終わったことを確認すると、明るく微笑んでいた表情を一変させ、スッと真顔になってたずねてくる。
「どうですか? ちゃんと、練習熱心な1年生というアピールはできていたでしょうか?」
「ん? あ、あぁ、大丈夫なんじゃないかな?」
唐突に逆質問を受けたので、慌てて返答すると、彼女は、サラリとこんなことを言う
「そうですか。ありがとうございます。こうしたカタチに残るアピールも、メンバー選定には重要だと思いますので」
「そ、そっか……それは、良かった。練習がんばってね」
色々な意味で熱意にあふれる下級生のようすに気圧されながら、そう言葉を返すのが精一杯だった。そんなオレに、彼女は続けて相談を持ちかけてくる。
「さっき、出発するときに、パンダ列車の写真を撮り損ねたんですけど……もし、次に写真を撮るチャンスがあったら、教えてくれませんか?」
「ん? あぁ、わかった。インタビューが終わって、時間に余裕があったら声をかけるよ」
「ありがとうございます! 楽しみにしてますね」
そんな返事を受け取って、他の1年生の取材をこなし、いよいよ2年生のインタビューに移る。
まずは、2年生のエース部員にして、吹奏楽部の次期幹部候補筆頭の紅野アザミの出番だ。
彼女の座る車両後方に移動してインタビューを申し込む。
「紅野、いま吹奏楽部のメンバーに、合宿に対する意気込みを聞いているんだけど、話を聞かせてもらって良いかな?」
「うん! 私で良ければ」
彼女の言葉にうなずき、壮馬に録画スタートの合図を出したオレは質問に移る。
―――今回は、二度目の合宿になりますが、去年との違いはありますか?
「そうですね。去年は、初めての強化合宿でわからないことばかりだったんですけど……今年の1年生たちが困らないように気を配らないといけないな、と考えています。この夏休みまでは、新入生担当も務めているので……」
―――初めての強化合宿でわからないことばかりだった、とのことですが、そんな去年の合宿で得たものはありましたか?
「はい! パートごとにOBやOGの先輩たちが指導に当たってくれるので、より集中して、内容の濃い練習が出来たな、と思ってます。実際、自分だけでなく、夏の合宿で演奏の実力が上がったという手応えを感じているメンバーは多いと思いますよ」
―――そうなんですね。そう言った期待があるのか、ここまでインタビューをしてきた3年生も1年生も、今年の強化合宿に対して、ずいぶんと気合いが入っているみたいです。紅野さんのこの合宿に対する意気込みを聞かせてください。
「はい。この合宿は、夏休みの最後にある関西大会に向けてのものです。自分たちがお世話になった3年生の最後の大会になるので、1・2年生で先輩たちをサポートしながら、金賞と全国大会出場を勝ち取るために、がんばりたいと思っています。本番で結果を残して、今年も、良い思い出になるような合宿にしたいですね」
―――ありがとうございました。新入生担当がんばってくださいね。
上級生にも下級生にも気を配りつつ、自分の役割をまっとうしようという紅野らしい受け答えだった。さらに、カメラの録画が終わると、彼女は、
「黒田くん、黄瀬くん。今日もありがとう。ずっと、インタビューをしていて大変じゃない?」
と、オレたちを労ってくれる。そんな心遣いにホッコリしつつ、
「いや、これがオレたちの仕事だからな」
と、返答し、 続けて他の2年生メンバーにも話を聞こう、と他の席に移ろうとしたところ、列車内にはチャイム音とともに車内アナウンスが流れた。
「まもなく和歌山です。紀勢線和歌山市方面ときのくに線、和歌山線、和歌山電鉄貴志川線はお乗り換えです。和歌山を出ますと次は海南に止まります」




