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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第六部~夏の夜空と彼女の想い~
394/410

第1楽章~アレグロ~➀

 8月10日(木)


 〜黒田竜司の見解〜


 朝から夏らしい快晴に恵まれたことに、喜びと軽い絶望を感じながら、オレはJR石宮(いしのみや)駅の改札前に立っていた。

 JR線では高校からの最寄り駅となるこの駅は、幸いなことに、改札口が地上より一段下にあって、地下改札のようになっているため、直射日光を避けられる構造になっている。


 何年も前から、灼熱のような夏の暑さには、あきれるより他ないと感じていたが、連日のように、午前7時前から摂氏30℃の気温を記録する気候の中では、まだ早朝と言って良い時間でも、直射日光を避けたほうが良いことは間違いなかった。


 時刻は、午前6時45分――――――。


 これから、オレたちは、午前7時すぎに石宮駅を出発する快速列車に乗って、ターミナル駅に向かい、そこで特急くろしお乗り換え、一路、吹奏楽部の合宿所から近い和歌山県の御房(ごぼう)駅に向かう。


 今回、吹奏楽部の合宿に帯同して密着取材を行う活動は、表向き、先週までのホラー動画の撮影で、各方面に迷惑を掛けてしまったことに対するペナルティーという側面があるのだろうが……。


 リゾート地に近い場所で行われる合宿に同行できるということで、オレの気分は、妙に高まっていた。


(合宿所の白咲海岸青少年の家の近くには、有名な絶景スポットがあるんだよな)


 鳳華先輩から、今回の合宿帯同について打診(と言う名の部長命令に近いのだが……)された直後に、合宿所周辺のスポットを検索したオレは、我が部の部長に対する感謝の気持ちを抑えられないでいた。


 鳳華部長の今回の決定については、ホラー動画の制作活動で色々とやらかしてしまった壮馬とオレに対する訓告ということになるのだろうが、部長の無二の親友と言っても良い寿生徒会長の所属する吹奏楽部に、その身を預けてくれるということは、


「しっかりと広報部としての仕事をこなしつつ、楽しめる時間は楽しんで来なさい」


という、部長なりのメッセージだろう、とオレは感じている。


 そう感じ取っていたのは、オレだけでなく、先日まで、熱中症による体調不良で入院と自宅療養を余儀なくされていた親友にしても同じだったようで、今朝、顔を合わせたときに、


「鳳華部長の気持ちに報いるためにも、がんばらないとね」


と、あいつにしては珍しく、柄にもないことを言ってきたことからも明らかだ。


 直接的に口に出すことは無いものの、おそらく、先日のことで誰よりも責任を感じているだろう壮馬は、オレ以上に、鳳華部長の決定に対する感謝の想いは強いはずだ。


 そんなことを感じながら、久々に気力が充実した状態で広報部の活動に入れることを喜びつつ、今回の取材対象である吹奏楽部の面々に目を向ける。


 すると、副部長を務める寿先輩が先頭に立ち、一列になって後方に付き従った10人ほどの部員が、先頭の女子のフィンガー・スナップ(別名:指パッチン)のリズムに合わせて、直立不動の姿勢を取る。


 オレが、呆然と見守る中、すぐそばに居た壮馬は、律儀にビデオカメラを構え、録画を始める


 ♪ ファンファン ウィーヒッザ ステーステー

 ♪ 同じ風の中 ウィノウウィラブ オー!


 なにが始まるのかと思えば、日本が誇るダンス&ボーカルユニットがカヴァーしたスタンダード・ナンバーを寿先輩が口ずさむと……

 

 ♪ ヒートヒート ビーツアライク スキップスキップ


 縦一列に並んだ後方の部員たちが、やや時間をずらしつつ上半身を回して螺旋状にうねりだす。

 

 あきれながら、その姿を眺めるオレ、カメラを構え続ける壮馬、オレたちのそばで、苦笑する良識派の吹奏楽部メンバー、そして、少しずつ増えてきた通勤客の冷たい視線を浴びながら、合計10名のダンスユニットは、

 

 ♪ ときめきを運ぶよ

 ♪ Choo Choo TRAIN!(合唱)


と、気持ちよさそうに歌唱した。


 トンネル状になっている改札口付近に響き渡る声に、自転車を押しながらそばを通りかかったおばあさんが、


「お姉ちゃんたち、朝から元気やねぇ」


と、微笑ましそうに声をかけて過ぎ去っていく。


 そんななか、ダンスを見守っていた男子部員の一人が、相変わらずグルグルと回転を続けるダンスユニットに近づき、身体をグルグルに巻き込むようにしながら、


「ぐぇ〜死んだンゴ……」


と、言葉を残して絶命する。その姿に頭を抱えたオレは、グルグルの先頭の寿先輩に近づき、こう告げた。


「友だちが、あのユニットのタイミングずらして回るやつに巻き込まれて死んだ。決してできたトモではなかったけど、そんな簡単に死んでいいようなヤツじゃなかった。あんたらだけは絶対に許さない」


 オレの言葉に、吹奏楽部の副部長は、我が意を得た、とばかりに満面の笑みを作ったあと、すぐにダンスを止めて、バンバンと肩を叩いてくる。


「さっすが、黒田くんだ! 私が見込んだ男子だけはある!」


「いや、こう言わないと、先輩たちダンスを止めないでしょう? 他の駅の利用客の人たちに迷惑ですから、大人しく待っていてください」


「なんだよ〜! ツレナイじゃないか〜?」


 ぷ〜っと頬を膨らませて、すがりつこうとしてくる副部長を前に、吹奏楽部の良識派筆頭である早見先輩が、下級生たちに向かって告げる。


「さて、10人くらいの部員が見当たらないけれど、先に改札に入っちゃおうか? ここに居ないメンバーのことは、先生に報告しておくから、あとで、しっかり注意してもらいましょう」


「ちょっと、さおりん! それは無いって……」


 涙目になりながら、抗議する副部長以下10名の部員たちを尻目に、集合を終えた吹奏楽部のメンバーたちは、次々に改札口から駅の構内へと入っていく。


 そんななか、一人の女子部員がオレのそばに寄って来て、小声で語りかけてきた。


「黒田くん、ありがとうね。おかげで、すぐに場が収まったよ。広報部の取材、楽しみにしてるね」


 さわやかな笑顔で語る彼女は、紅野アザミ。クラスでともに学級委員を務める、吹奏楽部でオレがもっとも親しい女子生徒だ。


「あぁ、がんばって吹奏楽部の魅力を取材させてもらうよ」


 そう答えたオレの気分は、また一段と高まった。

 さあ、Choo Choo Trainに、ときめきを運んでCarry ONしてもらおう。


 おっと、気持ちが高まったあまり、寿先輩たち以下10名の部員たちのテンションがオレにも感染ってしまったようだ。

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