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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第五部~あるモキュメンタリー映像について~
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第4章〜都市に伝わるあるウワサについて〜⑭

 〜ある日の亜慈夢古美術堂〜


 市立高校に通う黒田竜司が店を去ったあと、安心院幽子(あじむゆうこ)が、ユラリとキセルの煙を吐き出すと、店舗の奥から心配そうな表情で若い男女が声をかけてきた。


「幽子さん、もしかして、私たちのことがバレてしまった感じですか?」


 恐る恐るたずねたのは、市外にある私立の高校、ひばりヶ丘学院高等部に通う真中仁美(まなかひとみ)


「ごめんね、アイちゃん。機材を撤収するときに、ボクがキチンと確認しておけば……」


「ううん、シンちゃんは悪くないよ。演劇部でも無いのに、私たちに協力してくれたんだもん。ワイヤーアクションに使ったテックロープは、あとで回収しに行こう?」


 アイちゃん、親しげな愛称で同級生に声をかけた針本針太朗(はりもとしんたろう)に対して、仁美は穏やかな表情で応じる。


「ありがとう、アイちゃん。でも、今日も外は物凄く暑いから、ボク一人で行って来るよ。アイちゃんは、先に学校に戻っていて」


 針太朗(しんたろう)が返答すると、仁美は少し唇を尖らせて反論する。


「もう、シンちゃん! そんな風に優しいのは、あなたの良いところだけど……私は、シンちゃんと一緒にいたいの!」


 彼女の言葉に、一瞬、驚くような表情を見せた針太朗だったが、すぐに照れるような仕草でほおを掻き、


「そっか……じゃあ、一緒に来てくれる?」


と、仁美にたずねる。


「うん! でも、暑さ対策は、しっかりしないとね」


 彼女が答えると、彼も「そうだね」と応じ、二人して、「エヘヘ……」と、微笑み合う。

 そんな高校生男女の会話をそばで眺めていた幽子は、あきれた表情で彼らに語りかける。


「アナタ達……仲が良いのは結構なことだけど……そうして、(むつ)み合うなら、店の外でしてくれないかしら? ただでさえ、外は35℃を超す猛暑日なのに、店の中まで暑苦しくなったら、やっていられないわ」


 すると、相変わらず紫煙(しえん)をくゆらせながら語る女性店主に反発するように、仁美が声を上げる。


(むつ)み合うって……私たち、別にイチャイチャなんてしてません! ただ、お互いのことを心配しあって、一緒にいたいって思ってるだけです! そうだよね、シンちゃん?」


「あっ……う、うん……そうだね、アイちゃん」


 店主に気を使ったのか、少し気後れするようすを見せたものの、結局は、柔らかな笑顔で仁美に賛同を示した男子生徒にため息をつきながら、幽子はつぶやいた。


「まあ、今回はアナタ達の協力なしに、彼らのライブ配信に対して警告を出すことはできなかったから、多少の戯れは大目に見るわ。今回の報酬は、いつものように、アナタ達、演劇部の新作の広告チラシとチケットの配布で良いのね?」


 幽子の言葉は、決して全面的に肯定しているとは言えないものだったが、女子生徒は意に介さず……いや、その真意を気にすることもなく、満面の笑みで応じる。


「はい、今回もご協力ありがとうございます!」


 屈託のない、その笑顔に、


(本当に、いまが幸せなのね……この娘は、周囲の人達に恵まれているわ)


と、安心院幽子(あじむゆうこ)は、苦笑とも、慈愛の笑みとも取れるような表情を浮かべる。


「それにしても、今どきの舞台装置というのは凄いのね。黒田くんも言っていたワイヤーアクションだったかしら? 生身の人間が、何メートルもジャンプできる装置を屋外で使えるなんて……」


「はい! これは、今度の妖魔と人間が対決する『吸潔少女(きゅうけつしょじょ)〜ディアボリック・ガールズ〜』というお芝居の目玉シーンに必要なので、特にチカラを入れているんです」


 店主の言葉に応じる女子生徒に続いて、隣の男子生徒も言葉を発する。


「ワイヤーアクションは、ブロードウェイの『ピーター・パン』の舞台が発祥らしいけど、元々は日本の歌舞伎にも、そのルーツがあるって言われているんだよね? 昔の香港映画やハリウッド映画のアクションシーンのイメージが強いけど、こういうアクション装置が日本の文化に源流があるってことを知ると、日本人として、なんだか誇らしい気持ちになるよね! 実際に準備をしたり、本番でみんなと息を合わせるのは大変だと言うことがわかったけど……」


 読書好きらしい針太朗が、書物でかじった知識を披露しながら語ると、仁美が応じた。


「さすが、シンちゃん! 物知りだね。()()()()()()が成功したのもシンちゃん達のおかげだよ」


「そうね、()()()()()夜間の危険なアクションをこなしてくれたアナタ達には感謝するわ。困ったことがあったら、今度は対価無しで相談に乗るから、遠慮なく言いなさい。それと、舞台装置のロープは、キチンと回収しておきなさいね」


 仁美の言葉に幽子は、いつもの妖艶な微笑みで答える。

 ただ、その言葉に高校生の男女二人は怪訝な表情で応じた。


「二日続けてって……幽子さん、ナニおかしなことを言ってるんですか? 私たち、昨日は夫婦岩には行ってませんよ? 昨日の夜は、演劇部の先輩たちも家でゆっくりと過ごしていたはずですから……」


 仁美の返答に、かすかに眉を動かした幽子は、「あら、そうなの……? それじゃあ、彼らが見たのは……」と、つぶやき、また、キセルから紫色の煙をくゆらせた。

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