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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第五部~あるモキュメンタリー映像について~
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第4章〜都市に伝わるあるウワサについて〜⑫

 信頼できる上級生からお墨付きをもらったことで、自分の考えに自信を持つことが出来たオレは、昼食を終えると、一度、自宅にタブレットPCを取りに帰ってから、祝川沿いの古美術堂を訪ねることにした。


 相変わらず、人気の少ない店舗では、これまた相変わらずの妖艶な笑みを浮かべながら、今日はキセルをくゆらしながら、古美術堂の店主はオレを出迎えた。 


「いらっしゃい。柔琳寺(じゅうりんじ)には、今朝お話しを聞きに行ったのではなくて? 存外、早かったわね」


「えぇ、ご住職にお話しをうかがって、色々なことが見えてきましたから。あなたが教えてくれた、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスと柔琳寺(じゅうりんじ)周辺の牛女騒動の共通点。その共通項から見えてくるウワサを拡散した人たちの深層心理。そして、自分たちの行動の問題点も……」


 古美術堂の店内に、キセルの煙が漂う中、オレがそう答えると、女性店主は、わずかに眉を動かしたあと、ふたたび、感情を読めない笑みをたたえながら、


「そう……それじゃあ、アナタが調査してきて知り得たことや感じたことを聞かせてくれるかしら?」


と、課題に対する報告をうながしてきた。


 準備万全……とまでは言えないが、鳳花先輩に一通り話しを聞いてもらえた、という事実がオレの背中を押し、課題を与えてきた相手に自分なりの考えを伝える勇気が湧いてきた。


「では、まず、クラスメートの天竹と文芸部のメンバーが調べてきてくれたことについて……」


 そう切り出したオレは、ランチの前に先輩に聞いてもらった話しをふたたび語る。


「天竹たちの調査によれば、このミステリー・ハウスが、オカルト現象と結び付けてウワサされるようになったのは、事実報道よりもセンセーショナルと売り上げを重視した新聞記事の影響が大きいというでした。調査してくれたメンバーによれば、この屋敷と女性主人の半生を追った書籍には、伝承における誤情報と実際の事象が比較して列記されているそうで、彼女たちは、その内容をまとめてくれました。確認してもらえますか?」


 語りながら、天竹たちが整えた資料を見てもらおうと、オレは自宅に取りに戻ったタブレットPCを取り出したのだが……。


「せっかくだけれど、遠慮しておくわ。ミステリー・ハウスと呼ばれるようになった邸宅のどの部分に言及しているのかさえ確認できれば十分だから……天竹さんと言ったかしら? 何度か、この店に来てくれたあの女の子は、ウワサの発端となった《霊能者のお告げ》や《邸宅の継続的な増築》の真相について語っているんじゃないかしら?」


 女性店主の言葉で、すぐに手元の資料をに目を落としたオレは、彼女が指摘した内容が、そのまま記載されていることを確認して、「えぇ、そのとおりです」と返答する。


 すると、店主は、「洋書の文献に良くアクセス出来たわね」と、微笑みながらつぶやいたあと、


「ミステリー・ハウスの課題は合格よ。あの娘たちには、『調査お疲れさま』と伝えておいて」


と、言葉をつけ足した。


「ありがとうございます。文芸部のメンバーには、そう伝えておきます。では、次に柔琳寺(じゅうりんじ)にまつわるウワサについてですが……」


「こっちは、アナタ自身が聞き取りを行ったのよね? ご住職は優しい方だったでしょう? それじゃ、じっくりとアナタの見解を聞かせてもらおうかしら?」


 彼女はそう言って、オレを試すように微かに口角をつり上げる。

 いよいよ、本題だと悟ったオレは、固い唾を飲み込んでから言葉を発した。


「牛女とは、なんの縁もなかった柔琳寺(じゅうりんじ)に牛女のウワサが広まったのは、昭和末期の雑誌メディアが影響していたそうです。そして、ご住職のユニークなアイデアで、一度は沈静化したはずの騒動がふたたび大きくなったのは、テレビのバラエティー番組が影響していた……ここまでは、アメリカ合衆国サンノゼのウィンチェスター・ミステリー・ハウスと同じ構造です」

 

 そう告げると、こちらの話しを黙って聞いていた相手は、満足したように、一度だけコクリとうなずく。

 その仕草は、暗に「わかったから、話しを続けなさい」と、うながしているのだ、と感じ取ったオレは言葉を続ける。


「そして、このことは、自分たち広報部の活動についても共通するものがあったように感じています。自分たちは、ビジネス的な側面から活動をしている訳ではない、と言いたいところではあるけれど、動画の視聴数 = バズりを目的に、視聴者の注目が集まりやすい話題に飛びついてしまった。それは、牛女の件だけでなく、満地谷墓地(まんじだにぼち)の少女像についても同じだった。せっかく、あの少女像が建てられた経緯を話してくれる人に会えたのに、自分たちは、そのことを伝える機会を活かせなかった――――――」


 オレが、後悔する気持ちを振り絞るように言うと、女性店主は、意地悪く微笑みながら問いかけてくる。

 

「でも、アナタたちは、真相を追求するジャーナリストではないでしょう? 高校生なのだから、自分たちの楽しみや視聴者の興味を優先させたところで、なにが問題なのかしら?」


 彼女の言葉に込められた意味を考えながら、オレは、口を開いた。

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