表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第五部~あるモキュメンタリー映像について~
378/411

第4章〜都市に伝わるあるウワサについて〜①

「いや、壮馬は夕方に編集室から帰ったきり、こっちには来てないと思いますよ」


 親友の母親である奈々美さんに即答しつつ、


「念のため、編集室を見に行ってきます」


と答えて、オレはすぐにマンションの隣室である編集室を確認しに行く。


 壮馬が、動画の編集を新たに始めるなら、LANEでオレにメッセージを送って来るはずだし、話し相手を兼ねた映像の確認者として、編集室に呼び出して来るはずだが……。


 そう考えながら、奈々美さんと通話を続けたまま、自宅の玄関からマンションの廊下に出て、自分たちが《編集室》と呼んでいる隣の部屋の玄関ロックを確認する。


 ――――――だが、予想したとおり、玄関のドアは施錠されたままで、中に人がいる様子もない。


「すいません、奈々美さん。やっぱり、壮馬はこっちには来ていないみたいです」


「そう……わかったわ――――――」


 落胆と焦燥が伝わってくるその声に、オレは即座に答えていた。小学生の頃から、色々なことで世話になっている親友の母親が困っているのに、見過ごすことはできない。なにより、壮馬自身が関わることなのだから、オレも居ても立っても居られない、という気持ちだ。


「オレの方でも壮馬を探してみます! いまから、心当たりのある場所を当たります。なにかあれば、すぐに連絡します」


 そう言って、一度、通話を終えると、《編集室》の隣の部屋のドアが開いた。


「廊下が騒がしいと思ったら、くろ先輩ですか? なにかあったんですか?」


 マンション三階の廊下には、通話の声が響いてしまっていたようだ。夏休み中とは言え、深夜に近い時間に申し訳ないと思いつつ、同じフロアに住む下級生に返事をする。


「モモ、騒がしくして済まない。壮馬の母ちゃんから連絡があったんだが、壮馬が一時間ほど前に自宅を出たきり、帰って来ないらしいんだ」


「えっ、きぃ先輩がですか!? すぐに探しに行かなきゃ!」


 オレとこれまで、壮馬の言動に関する情報共有を行っていたからだろう、桃華は、玄関から自室に戻って外出の準備をしようとしたので、その姿を見て、すぐに声をかける。


「いや、もうこの時間だし、モモはここに残っていてくれ。オレは、すぐに心当たりのある場所に探しに行くから、《編集室》で待機していてくれないか?」


「私も、一緒に行きたいところですけど、先輩がそう言うなら……ところで、あの人……白草さんには伝えますか?」


 時間帯を考慮して、迷惑になるかも……と考えたが、今回の企画のコラボ相手でもあり、同じマンションの階上に住むシロとも情報共有はしておいた方が良いと思い直して、彼女にも声をかけることにした。


 ひとつ上のフロアに住んでいるシロの部屋に行き、壮馬の行方がわからなくなっていると事情を説明する、桃華と同じように、


「わたしも探しに行く!」


と言い張ったが、時間を考えて、桃華と一緒に《編集室》で待機してもらうように伝える。


「わかった! なにかあったら、すぐに連絡して! わたしも、SNSで、フォロワーに黄瀬クンの目撃情報がないか聞いてみる」


「ありがとう、よろしく頼む」


 シロの言葉に返答したオレは、桃華に《編集室》のカギを託し、エレベーターで一階の駐輪場に向かいながら、通話アプリから、クラスメートに連絡を取る。


「どうしたんだ、黒田? こんな時間に……」


 そう言いながらも。迷惑がったりせず、すぐに通話に応答してくれた男子生徒に感謝しつつ、手短かに現状と、協力してほしいことについて伝える。


「緑川、落ち着いて聞いてくれ。壮馬が、一時間ほど前に家を出たまま、自宅に戻っていないそうなんだ。オレは、これからライブ配信を実施した場所に行ってみようと思うんだが……できれば、一緒に来てくれないか?」


 小学生の頃からの付き合いであるオレはともかく、二ヶ月ほど前にクラスに復帰したばかりの上に、今回の企画のライブ配信では、色々とイヤ味なことを言われていたので、緑川には、壮馬のことを親身になって心配してやる義理は無いかも知れない……と、考えたりもしたのだが――――――。


「わかった! 黒田ひとりじゃ、なにかあった時に困るだろうからな。僕も一緒に行こう!」


 クラスメートはそう言って、細かな事情を説明する前に、協力を申し出てくれた。


「恩に着るよ、緑川! オレは、これから家を出る。地図アプリに待ち合わせ場所を共有するから、20分後にそこで落ち合おう」


「了解! すぐに準備する! 待ち合わせ場所の位置情報を送っておいてくれ」


「オーケー! わかった」


 元ひきこもりだった男子生徒の付き合いの良さに感謝しつつ、自転車にまたがる前に、オレは、壮馬の居場所として心当たりのある場所の中間点と緑川の自宅から離れていない地点を選んで、緑川のアカウントに共有情報を送信する。


 前日に目の前にあらわれた牛女の姿をした謎の存在を含めて、オレは怪異や物の怪の類の存在を信じている訳ではないのだが、それでも、深夜と言える時間帯に、単身で心霊スポットを訪れるほどの度胸があるかと問われれば、自信を持って「ある」とは言い切れない。


 なにより、古美術堂の店主に今回の企画について話したとき、


「心霊スポットは、夜に訪れるでしょうから、防犯対策も重要よ。一人での訪問は避け、必ず複数人で行動するように。グループで行動することで、万が一トラブルが発生した場合にも迅速に対応できるし、心霊的な恐怖心も軽減されるわ」


と語っていた。


 妖しげな店主の言葉を思い出しながら、たった一人で怪異の謎に迫ろうとしているのかも知れない親友の不用心さに頭が痛くなるのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ