第3章〜汚れた聖地巡礼について〜⑫
いろんな人達から聞き取った情報をオレなりに整理して伝えると、古美術堂の店主からは、
「思ったとおり、アナタは見込みがあるわね。引き続き、調査をして回答が得られたら、それなりの対価を差し出すわ」
などと、真意が良くわからない誉め言葉のようなことを言ってもらったのだが……自分たちが目撃した牛女らしきの正体がつかめるかも知れない、という期待が外れたことで、オレは肩を落としながら、祝川沿いの店をあとにした。
そのまま、壮馬が編集作業を行っている編集室のあるマンションに戻ろうとしたところ、スマホにメッセージが着信したので確認する。
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幽霊屋敷に関する
情報がまとまりました。
良ければ、午後から図書館で
会えませんか?
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メッセージの送り主は、古美術堂の店主から出された課題に対する共同作業者と言える、文芸部の天竹葵だった。
先ほど、古美術堂の主と交わした会話を考えれば、もう少し早く連絡をくれていれば……と思わなくもないが、海外の情報に関する調べ物を引き受けてくれている相手に、本音をぶつけるのも失礼か、と思い直して、すぐに返信する。
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了解!
1時に中央図書館で会おう
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古美術堂をのそばの祝川を南下した場所にある図書館で天竹と待ち合わせをすることになったので、編集室には戻らず、昼食をとってから、直接、待ち合わせ場所に行くことにした。
壮馬に、その旨を伝えるメッセージを送ると、
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わかった。
編集が終わったらボクは帰るよ
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と返信があった。
マンションに一人暮らしをしているオレやシロと違って、壮馬は両親と一緒に山の手の住宅街に住んでいる。
いまの状況なら、家族と一緒に居るほうが安心だろう、と考えて
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りょ!
編集室の鍵は閉めといてくれ
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とメッセージを返してから、オレは自転車で中央図書館に向かうことにした。
◆
昼食をコンビニ飯で適当に済ませたあと、図書館入口のソファーで待っていると、午後1時より少し早く天竹葵があらわれた。
「配信の活動で忙しいときに申し訳ありません。ウィンチェスター・ミステリー・ハウスに関する情報がある程度まとまったので、少しでも早くお伝えしたほうが良いと思って……」
私語厳禁の図書閲覧室と違い、ある程度の会話が許されるロビーのソファーに腰掛けた天竹は開口一番そう言って、お辞儀のような会釈をする。
「いや、こっちこそ夏休み中なのに、広報部の活動だけでなく、調べ物に付き合わせてしまって申し訳ない。それで、どんなことがわかったんだ?」
「はい、結論から言うと、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスの伝説として語り継がれているエピソードは、そのほとんどが、当時のマスメディアもしくは現在ミステリー・ハウスを運営している団体の捏造や作り話である、と結論づけて良さそうです。その論拠となる文献も見つけてきました」
さすが文芸部というか、資料調査においては、やはり自分たち広報部よりもはるかに優れた能力を発揮してくれるようだ。
「詳しくいことは、タブレットPCにまとめてきたので、そちらを確認してください」
という天竹の言葉にしたがって、館内1階の調査・相談コーナーに移動して、資料を確認させてもらうことにする。
タブレットPCをフリーWi−fiに接続した彼女は、さまざまなリンク先が記されたドキュメントを表示させた。
「学校の図書室で調査を始めたときに閲覧した『サンフランシスコ・エグザミナー』という新聞は、売上至上主義の飛ばし記事が多くて信用できない、ということだったと思うが、幽霊屋敷に関するエピソードの捏造は、いまも続いているのか?」
「どうやら、ウィンチェスター家の邸宅を幽霊屋敷をとして宣伝し、観光客を呼び込みたい運営会社が、色々と話しを盛っているようですね。そもそも、邸宅の増築を繰り返したウィンチェスター夫人自体は、この家のことを『リャーナダ・ヴィラ』と呼んで愛着を持っていたようで、インテリア・デザインなどにこだわりを見せるたりしていたものの、ミステリー・ツアーが組まれるようにアトラクションとして改築したのは、夫人が亡くなった後にこの屋敷を買い取った人たちのようですね」
「じゃあ、幽霊屋敷として話題になっている邸宅の奇妙な特徴は、ぜんぶ屋敷を買い取ったその人間たちの仕業なのか?」
「いえ、もちろん、ミステリー・ハウスいいえ……リャーナダ・ヴィラの部屋などに、普通の邸宅とは異なった特徴があるのは間違いないようです。ただ、邸宅のそのさまざまな伝説の中には、夫人が亡くなったあとに付け加えられたものも少なからずあるようです。その具体的な例を見ていきましょう」
頼りになる文芸部の代表者は、そう言ってから、タブレットPCのタッチパッドを操作して、大手通販サイトの海外書籍のページを表示させた。




