幕間〜うしおんなに関するウワサについて〜②
高校を卒業してすぐの頃、バイトして貯めたお金で念願のバイクを買ったんや、友だちと一緒に。
高校の頃から仲の良かった、そのメンバー六人で、山道を攻めるダウンヒルをすることにした。
これは、その時に最後尾を走っていたAから聞いた話しや。
カーブや道路の状況を確認するために、まずは六人が一列縦帯になって頂上を目指した。
Aは、その時から異変を感じていたらしい。
坂を登りきって、一度、平坦な道になる場所に出ると、上下二車線の道の真ん中に、突然、大きな岩が出現した。そう、夫婦岩と呼ばれている、あの岩や。
その岩を過ぎた辺りから、自分の後ろの方で妙な音が聞こえてきたらしい。
バイクでも、乗用車でも、大型バスでもない音。
そう、ちょうど、馬とか牛みたいな四つ足の動物が走るような音が――――――。
引き離そうとスピードを上げても、その音はピタリと付いてくる。
怖くなって、前を走るライダーを抜いてしまったら、その友だちは、「隊列を守れ」と怒るだけで、「音なんか、何も聞いてへん」という。
ダウンヒルの本番の下りは、みんなで時計を合わせて、1分毎にスタートすることにした。
ところが、Aは「俺は最後に走るのはイヤや!」って勝手なことを言ったかと思うと、四番目にスタートしたんや。残された自分とBが、「順番守れや!」という声も聞かんとな……。
ただ、Aによると、走り出してすぐに、またあのヒヅメのような足音が聞こえてきた。
ゾクリ――――――として、全速力で振り切ろうとアクセルを全開にする。
(今度は隊列なんかないから、全速力なら絶対に振り切れる……)
そう思ったそうなんやけど、ヒヅメの音は大きくなるばかりや……。
そして、いよいよ足音が近くなった瞬間――――――。
横を見ると、オンナ物の和服を着た人間が走っていた!
しかも、顔はツノが生えた牛のような恐ろしい面や。
思わず、目をつぶりそうになるのをこらえながら、Aはなんとか、先にスタートした仲間がいる場所までたどり着いた。
バイクから降りると、先にゴール地点に着いていた仲間は、
「スゴいやん!」
「めっちゃ速かったな!」
「これは、新記録ちゃうか!?」
と、その走りを称えて集まってきた。
ただ、Aがヘルメットを脱いだ瞬間、みんな絶句したらしい。Aの顔が汗まみれやのに、表情は青ざめてガタガタ震えていたからや。Aは、その表情のまま、ずっと、つぶやいとったらしい……。
「なんでや、なんで、俺だけに見えるねん?」
それから、しばらくして、Aはバイクの事故で亡くなってしもた。
(50代・県内在住・男性)




