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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第五部~あるモキュメンタリー映像について~
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第2章〜H地区のある場所について〜⑦

「こうして、あの建物に近づいてみると、なんだか、それっぽい雰囲気があるよね……」


 ライブ配信を盛り上げるためだろうか、一歩一歩、いわく付きの建物に近づきながら、シロが声を潜めて、オレたちに語りかけてくる。

 彼女の言葉に、オレは小さくうなずいて返答した。

 

「あぁ、昼間はなんの変哲もない公衆トイレなんだけどな……夜に来ると空気が一変だ……」


 そして、公園内のトイレを目の前にすると、壮馬が、


「とうとう来たね」


と言って、ふたたび、身体を反転させて、コンクリート製の建物をスマホのカメラのフレームに入るように調整する。


「『テッちゃん』が、あらわれると言われているのは、男子トイレの方だから……ヨツバちゃんには、ここで待機してもらわいないといけないかも……大丈夫かな?」


「そうだね……今日は、撮影に協力してくれているメンバーと外で待たせてもらうことにするよ」


 壮馬の問いかけに応じたシロは、参加メンバーの宮野たちの方を振り返る。


「男子もいるから大丈夫だと思うけど……なにかあれば、すぐにオレたちを呼んでくれよ」


「うん! 二人も気をつけてね!」


「あぁ、わかった」


 シロに声をかけて、その返答に応じたオレは、あらためて親友に確認する。


「それじゃ、行くか?」


「オッケー!」


 即答した壮馬は、


「それじゃ、いよいよ。日之池公園のトイレに突撃します」


と言って、表情を引き締めた。

 二人で進入した公衆トイレで、まずは、洗面台の周辺を確認する。


 すると、手洗い場の正面に予想もしないものが貼り付けられている目に入った。


《眠れない つらい もう疲れた、、、》

《まずは電話しくてください》


 さらに、上記のメッセージの下部には、自分たちの住む街の保健所、市のこころケアセンター、県のいのちと心のサポートダイヤルの電話番号を掲載されている告知シールが貼られている。


「おいおい、これは……」


「『いのちのホットライン』とか、その(たぐい)の案内だね」


 あくまで、そのモノ自体は、善意で貼り付けられているのだろうが、こういうシチュエーションで、こうした案内を目にすると、緊張感が増してしまうことは言うまでもない。


 今度も、身体を反転させた壮馬は、オレから見て正面にある告知シールをカメラに収めてから、語りかけてきた。


「ここで、なにか事件が起きたのかな?」


 あたりを見渡しながら、


「いや、パッと見た感じでは、事件や事故が起こりそうにも思えないんだけどな」


と、オレが答えると、壮馬は即答する。


「かと言って、いたずらで、こんなシールは貼られないだろうし……」


「たしかに……ただ、こんな撮影をしているからか、こういう告知が貼られていると、なんだか緊張するな」


「そうだね」


「そう言えば、この公園の『テッちゃん』について、他にも、こんな話しを聞いたことがある」


「なんだよ、ここに来て」


「たしか、小学校のとき、ここで遊んでいたときに近所に住んでいるおじいさんから聞いたと思うんだが……この公園のあたりは、昔、釣り堀だったらしい。九楽園口の駅から日之池公園を通って市営住宅までの区間は、野原で山の上の金持ちの乗馬の練習場だったそうなんだが……当時から、寂しい場所で子供の行方不明があったらしく、『もしかしたら、子供の死体が埋められている上にプール建てたんじゃないか?』なんてことをつぶやいていたな」


「『テッちゃん』のウワサには、そんな話しもあったんだ……」


 そうつぶやいた壮馬は、ゴクリとつばを飲み込んで、言葉を続ける。


「それじゃ、いよいよ、無数の手が伸びてくるという個室を確認してみよう」


 親友の言葉に黙ってうなずき、壮馬の持つ自撮り棒を避けながら、オレは、和式便座のある個室の方に移動し、声をかける。


「すいませ〜ん! いま、撮影をしていま〜す。誰かいませんか〜? いませんね〜?」


 ただ、もちろん、当然のように、オレの呼びかけに応える存在は無い。今回も、ここまでやっておけば、十分だろう。


「返事はないな。公共の場だし、これ以上、撮影を続けるのは、遠慮したほうが良いだろうな」


「たしかに、そうだね。こんな時間にわざわざ公園の公衆トイレを使おうって人は、いないかも知れないけど……もしも、緊急事態で駆け込んで来る人がいたら迷惑になっちゃうしね」


 壮馬も苦笑しながら、オレの提案を受け入れた。

 そうして、トイレ内の探索を終えたオレたちは、クラスメートたちが待っている外に出る。


「あっ、無事に帰って来たみたい! 良かった!」


 トイレの外に戻ると、シロが真っ先に声をかけてきた。


「とりあえず、今回も問題なく終えることが出来て良かったよ」


「じゃあ、そろそろ締めに入るか?」


 壮馬とオレが、シロの言葉に答えると、オレたちに方に駆け寄ってきた彼女は、スマホのカメラにフレーム・インして、視聴者に向かって語りかける。


「竜馬ちゃんねるとクローバー・フィールドをご覧のみなさん、今日もご視聴ありがとうございました! 残念ながら、今回も怪現象には出会えなかったけど、無事に撮影を終えることができそうです。ホーネッツ1号さん、次のスポットは、どこだっけ?」


「次の心霊スポットは、市内の『満地谷墓地(まんちだにぼち)』だな。ここには、『火垂(ほた)るの墓の少女像』と呼ばれる銅像があるんだ」


「今度も、怖そうなスポットだね〜! 動画配信のスケジュールは、いつもどおり、ミンスタなどで告知させてもらうよ!」


「次回も、ヨツバちゃんの『クローバー・フィールド』と、ボクたちの『竜馬ちゃんねる』もよろしくお願いします!」


「それじゃ、またね! バイバイ!」


 日曜日の夜にスタートした二回目のライブ配信は、自分たちの運営する『竜馬ちゃんねる』のライブ配信としては初めて、同時接続5万アクセスを記録した。

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