第2章〜H地方のある場所について〜②
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JR東海道線で人身事故 通勤・通学7万5千人直撃
〇〇新聞 20XX/09/03 12:18
http://koube-np.co.jp/news/jiken/0005351366.shtml
浜崎市稲場荘4のJR線武甲川東踏切近くの路上で通行人から通報
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十年以上も前の旧トゥイッターの投稿が、スマホのディスプレイにボンヤリと浮かぶ。
夜の帳が降りて、すっかり暗くなった鉄橋の真下というシチュエーションは、それだけで、不気味さが増していた。ましてや、ここは、その人身事故があった現場の直下とも言える場所なのだ。
白草四葉の動画チャンネル『クローバー・フィールド』の特別企画「夏の心霊スポット・ツアー with 竜馬ちゃんねる」は、そんな現場からスタートした。
――――――『白草四葉のクローバー・フィールド』
「クローバー・キッズのみなさま、今日もようこそ……クローバー・フィールドの白草ヨツバです……今夜は、予告どおり、特別企画『夏の心霊スポット・ツアー with 竜馬ちゃんねる』をお送りします。この前の予告動画でも告知したとおり、今回は、竜馬ちゃんねるの二人をお迎えしてのライブ配信です。竜馬ちゃんねるのホーネッツ1号さん・2号さん、こんばんは」
「こんばんは、竜馬ちゃんねるのホーネッツ1号です」
「ホーネッツ2号です」
「今日から月末までの間に、四か所のホラー・スポットを回って行こうという今回の特別企画なんですが……第1回の今回は、どんな場所なんでしょう?」
「はい、今回の企画を立てたホーネッツ2号が説明させてもらいます! いま、ボクたちは、JRの鉄橋そばの河川敷にいます。このすぐ上にある踏み切りは、JRの電車が頻繁に行き交う場所ですが、地元の人達に『三途の川の踏み切り』と呼ばれるスポットになっています」
「『三途の川の踏み切り』……なんだか、とっても怖いよね? どんな事件があったんだろう?」
「あぁ、ネットで調べると、こんな記事が見つかったから、紹介させてもらおう。9月3日。それは、1本の110番から始まった。午前5時50分ごろ、H県浜崎市のJR東海道線武甲川東踏切付近で、通行人の男性が、線路脇や道路にバラバラになった人の遺体があるのを発見した。JRにH県警から連絡が入り、同社はすぐに全線で運転を見合わせた。同社の点検や県警による現場検証が終わり、約1時間半後に運転を再開したが、上下計88本が運休するなど約7万5千人に影響した」
「この運休トラブルをめぐっては、前日の2日夜に、JR東海道線さくら祝川駅で、下り普通電車の乗客が「駅の間で揺れを感じた」と駅員に申告していた。さらに、同社の車両点検で、人と接触した痕を発見。これを受け、県警浜崎北署が、電車と接触したとみて遺体の身元などを調べることになった。人身事故の発覚による大幅な遅延。しかし、この日はこれだけではなかった――――――」
「3日早朝の混乱が一段落したかに思えた同日午後3時40分ごろ、同社の「総合指令所」の職員が、表示板に異常を示すサインを確認した。それは、高月市にあるJR東海道線高月駅構内の出発信号機を示し、信号機が赤のまま変わらなくなったのだ。結局、高月〜京都間の運転を見合わせ、計62本が運休し、約3万4千人に影響した。同社は落雷が原因とみている。数万人の影響人員を出すトラブルが連続するのは異例だ。京阪神地区の通勤・通学客らにとって、まさに『魔の一日』となった」
「10年以上前のことだけど、そんなことがあったんだ……これから、その踏み切りがある場所に行くんだよね?」
「はたして、『三途の川の踏み切り』は、どんな場所なのか? さっそく、行ってみましょう!」
「はい、河川敷からスロープを上って踏み切りのある道路に上がってきました。鉄橋の下も暗くて不気味だったけど、踏み切りの近くは、さらに薄気味悪い雰囲気になってきたね」
「ここは、踏み切りの南側だね。いま、ヨツバちゃんが言った薄気味悪さは、あのブルーライトが原因かな?」
「ホントだ! 踏み切りの警報機の近くのライトが青く光ってる」
「あれは、青色防犯灯と言って、事件や自殺を予防する心理的・生理的効果があるらしいんだが……あのライトがあるだけで、雰囲気が増してるのも確かだな」
「たしかに、あのライトも不気味な雰囲気を出すのに一役買ってるかも知れないけど……ふたりとも、河川敷と反対側の道端を見てよ」
「あっ、お地蔵さん」
「ボクも、いま気づいたんだけど……この仏像って、なんの目的でここに置かれてるんだろう?」
「う〜ん、照明の少ない場所に光る防犯灯に、事故現場近くの仏像か……今まで、暗くなってから何度か、この踏み切りを通った記憶があるんだが……こうして、心霊スポットとして来てみると、ケタ違いの不気味さを感じるな……」
「うん……それにさ、わたし、気になってることがあるんだけど……」
「ん、どうした?」
「さっきから、わたし達が、向こう側に渡ろうとする度に警報機が鳴って、なかなか踏み切りの中に入れないよね? もしかして、誰かが、この中には入って来るなって言ってるのかな?」
「「えっ!?」」
シロの発した疑問にオレと壮馬は、揃って声を上げた。




