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初恋☆リベンジャーズ  作者: 遊馬友仁
第五部~あるモキュメンタリー映像について~
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第1章〜広報部のある企画について〜⑫

 7月7日(木)


 前日の放課後に訪れた古美術堂での話しを元に、より具体的な内容を話し合うため、オレたち広報部と壮馬が立案した企画『H地区のある場所について』に参加するメンバーが、ふたたび、放送部に集まった。


「くろ先輩、なにか収穫はありましたか?」


 桃華の問いに苦笑しながら、


「まあ、色々と有益な情報を得られたのは間違いないけどな……」


と答えて、前日に訪れた亜慈夢古美術堂の店の雰囲気と女性店主の妖しげな語り口を思い出す。

 オレとしては、もうあの店舗周辺には、あまりお近づきになりたくない、と感じているのだが……。


「ふ〜ん、そんなこと言いながら、年上のキレイな女性を前にして、鼻の下を伸ばしてたんじゃないの?」


 不機嫌な表情で、突っかかるように言葉をかけてくる女子生徒がいた。


「いったい、なんの話だよ。オレは部の活動として必要なことをしてきただけだぞ?」


 前日まで自分が古美術店に同行できないことに不満を述べていたシロに返答すると、「あっ、そう……」と、彼女は取り付く島もない、といった雰囲気で、そっぽを向く。


(前回の会議のときの機嫌の良さは、なんだったんだ……?)


 心のなかでため息をついていると、


「くろ先輩、不機嫌な人は放っておきましょう。きぃ先輩、はじめてください」


と、普段どおり、他人には手厳しい桃華が会議の進行をうながす。


「わかったよ、佐倉さん。昨日の古美術店への訪問では、今回の企画に必要なことやモノが色々とわかったから、今日は、その話しを中心に、取材場所とスケジュールを決めていこうと思っているんだ」


 下級生の女子にうながされるまま、会議を開始した親友は、今日も手際よく資料を提示していく。

 

 放送室の大型ディスプレイに、『撮影前の心構え』『必要な持ち物』『動画撮影時の注意事項』などの項目が記されたスライドを投影し、説明を重ねる壮馬。


「光量の大きな懐中電灯など、撮影チーム全体で必要なものは、広報部で準備させてもらうから、虫除けなどの対策は、可能な限り、自分たちで行ってくれると助かります」


 スムーズに会議を進行する壮馬に、桃華が小さく手を挙げて問いかけた。


「それは、良いんですけど……取材する場所とスケジュールは、どうしますか? きぃ先輩の企画だと、最後の撮影が終わったら、ある程度の期間、参加者は音信不通になるんですよね?」


「そうだね。できれば、撮影自体も、今回の企画のキモである撮影者の失踪自体も、7月中に終わらせてしまおうと思ってるんだ。なにか、問題があったとき、夏休みが終わるまでの期間が長い方が良いからね」


 二年生部員の言葉に、「たしかに、その方が良いかも知れませんね」と、同意しながら、桃華は前回と同じく、Googleカレンダーにスケジュールを書き込んでいる。


 壮馬の言葉どおりなら、7月30日(土)か、7月31日(日)あたりが、動画に出演する人物の失踪日ということになる。

 夏休み中なので、当日や翌日の授業のことなどは気にしなくても良いのだが、もっとも大事な撮影日が週末に重なるというのは、都合が良いと感じた。


 そうしたことを念頭に入れながら、オレは友人に確認する。

 

「撮影順は、どうする? この前の会議で言ったみたいに、『武甲(むこ)川鉄橋の踏切』、『日之池公園のテッちゃん』、『満地谷墓地(まんちだにぼち)の火垂るの墓の少女像』の順番で良いのか?」


「うん、そうだね! 徐々に恐怖度が高まって行く感じがするし、今回は、編集に時間が掛けられないからね。撮影が終わったら、すぐに編集をして、なるべく時間差なしで動画をアップしていきたいと考えているから」

 

「そうか! それなら、あとは、最後の撮影場所だが……」


「それについては、ちょっと、このブログを見てほしいんだ」


 そう言って、壮馬は、画面をスライドショーからウェブページを閲覧するブラウザに切り替える。


「昨日、家に帰ってから少し調べたんだけど……前回も、少し話しに出た柔琳寺(じゅうりんじ)だけど……ここには、牛女が逃げ込んだと言われる洞穴(ほらあな)があるんだ」


 弾んだような声で語る友人が示したウェブページには、牛女がいたという洞穴(ほらあな)の写真が掲載されていた。


亜慈夢(あじむ)古美術堂で店主の女性から興味深い話しを聞かせてもらったんだけど……小松左京の『くだんのはは』で描かれている大空襲があった日、実際に、兜山(かぶとやま)に逃れてきた近くの住民が、燃え盛る(ほこら)のそばで、牛女を見たという目撃談があるらしいんだ。その時に、目撃された牛女が、柔琳寺(じゅうりんじ)に逃げ込んだ、と考えれば――――――」


 そう語る壮馬の瞳は、前日、古美術堂で女性店主に質問をしたときのように、爛々(らんらん)と妖しく輝いている。

 その表情に異様なものを感じながら、オレは、あえて冗談めかした口調で意見する。


「おいおい、いくら動画用の設定でも、長生きすぎないか牛女? 言い伝えによれば、牛女も、()()()も、あまり長く生きないんだろ?」


「そこは、戦争末期に目撃された牛女の子孫ってことで解釈しておけば良いじゃない? それより、古美術堂の店主さんも柔琳寺(じゅうりんじ)の住職さんと仲が良い、と言ってたし、ぜひとも、撮影に協力してもらえないか、交渉したいと考えているんだ。ボクとしては、いまのところ、最後の撮影場所は、柔琳寺(じゅうりんじ)にしたいと思っている」


 力強く言い切る壮馬に、反対の声を上げるものはいなかった。

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